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堕し児と物語【!】

蒼一のアイデアというなの浪漫の塊の開発が開始されてからそれなりの時間が経ち、アイデア自体はもう殆ど出し尽くし今は神がそれを形にするだけという段になっていた。

神と呼ばれる存在なのだからバックパック・スラスターの一つくらい一瞬で形に出来そうなものだが、どうやらこの神は相当な変わり者らしく、神としての力は使わず自身の手で物を作る事に喜びを感じるようなのだ。

とはいえ倉庫にあったジャンク品だけで蒼一の要望を叶えつつ、既にスラスターの一対を完成させている辺り流石は神と呼ばれる存在である。


そしてアイデア出しが終わってしまえば蒼一としてもやる事は殆どなく、作業をしてる神の横でその作業を見学しながら雑談に花を咲かせていた。


「ふーん、物作りが好き過ぎてその結果周りから創造神って呼ばれてるのか。そういやこの世界の神様もアンタの事はそう呼んでたな」


異世界の神様という事で最初は敬語で話していた蒼一だったが、同好の士という事で急速に距離を詰めた二人はそれこそ何年来の友人のように気安い雰囲気で語り合う。


「あぁ、俺の他に識別子を持ってるのは都市神、職神、食神、それと変態が居るな」

「なんかショクガミで被ってなかったか?てか最後の変態ってそれ識別子というか蔑称では?ちなみに聞くけどその変態ってここの神様じゃないよな?」

「アイツは違う。管理する世界が近いからそれなりに交友があるだけで、結局他の管理神と大差はないからな」

「そうか……良かった」


もし世界(ジブン)を管理する神が他所の神から変態扱いを受けるような存在だったらどうしようと一瞬不安になったものの、創造神がそれを否定した事によって蒼一は安堵する。


「でも名前が無いっていうのはやっぱり不便じゃないのか?」

「それは確かにそうだが、それは管理神が三人以上集まるような場合だけだ。二人だけなら神と呼べば一緒に居る相手以外に該当者は存在しないし、三人以上の管理神がその場に集まるという状況自体がまず普通では有り得ないからな。だからこそ俺達のような例外的な存在は識別子を持っている訳だが」

「じゃあこの世界の神様の事はただ単純に神って呼んでるのか?」

「あぁ、それで伝わるからな」

「……なんか、寂しいな」

「管理神とはそういうものだ。世界の真実を知らない蒼一にはまだ理解出来ないかも知れないがな」

「真実……」


その時、蒼一の脳裏にこの世界を管理する神に告げられた言葉が思い起こされる。


『望むな、願うな、頑張るな。真実など求めず、お前はただこの島で静かに生きていれば良い』


「なぁ、質問しても良いか」


先程までの軽口とは違う真面目な空気をその言葉から感じ取った創造神が一瞬だけ作業の手を止めるも直ぐに再開し口を開く。


「構わない。ただお前の知りたい事全てに答えていたらそれこそ一日経っても終わりそうにないからな。コイツが完成するまでの間で俺が答えられる事は答えるよ」

「あぁそれで大丈夫だ。それじゃあ早速だけど"堕し児(オトシゴ)"って何だ?」


蒼一が今最も気になっていた堕し児という言葉、それは一体何なのだと問うと創造神は少しだけ考える素振りを見せた後、言葉を選びながら答える。


「ザックリとした説明になるが堕し児とは通常を遥かに超える膨大な始源を宿した魂、それを持って生まれた存在の事だ」

「ザックリではなくもっと詳しく教えてくれないか?」

「堕し児の詳細を語り出すと"忌み児(イミゴ)"や"申し児(モウシゴ)"の詳細や違いについても説明する必要が出てくるんだが……その間にこっちが完成してしまうが、それでも良いか?」

「…………いやいい、じゃあ次の質問だ。俺を拉致した奴らについて教えてくれ」


流石に中途半端なまま説明が終わるのは好ましくないし、まだ他にも知りたい事がある蒼一はとりあえず堕し児については一旦追及を止め、次に知りたかった事について尋ねた。


「眼鏡の方はお前と同じ堕し児だ。アイツは堕し児や忌み児の魂を攫っては様々な実験に利用してる。お前もその実験の一環で世界なんて器に魂を入れられたんだろう」

「実験の詳細は?」

「流石に知らん。あの眼鏡が何の目的で蒼一の魂を世界なんて物に入れたかなんて俺が知る訳ないだろう」

「神様でも分からないのか?」

「お前、神を何だと思ってるんだ。俺達は所詮管理神、世界を管理する為だけに生まれた存在だぞ。まだ発展途上の堕し児なら兎も角、芽吹いた堕し児相手にどうこう出来る力は無いさ」

「芽吹いた堕し児?それはどういう意味だ?」

「あーそうだな、それの説明も必要か。堕し児の魂に関してだがそれは最初"種"と呼ばれる状態にある。力を内包しているもののまだ堅い殻に包まれてその力を十全に発揮できない状態だ。それが数多の苦難を乗り越える事で芽吹き――覚醒と言えば分かり易いか。ピンチに陥った時、大切な誰かを失った時、愛に勇気、怒りや嘆きによって限界を超え続け、堕し児は物語の主人公として大成するんだ――理解出来たか?」

「……正直言って、良く分からん。聞けば聞く程聞きなれない単語が飛び出してくるもんだから、情報の整理が上手く追い付かないんだ」


世界という規格外の情報処理能力を持つ蒼一だが、しかしそれはあくまでも高速で情報を処理する事が出来るというだけでその情報から正解を導く力があるという訳ではない。

結局そこの判断を下すのは蒼一の知識と価値観であり、現状の蒼一では今の言葉を上手く飲み込む事は出来なかった。


確かにこれはいきなり詳細の説明を頼まなくて正解だったかも知れないと、蒼一は頭の中で単語一つ一つを精査して行き、次に質問すべき内容を考える。

あの赤髪の男に関する情報は一切得られていないが、拉致された時の事を思い返すに赤髪の男は眼鏡の男の下についているような印象を受けた。

そうである以上、赤髪の男の詳細を聞いたところで知りたい情報が得られるとは蒼一には思えない。


ならば次に蒼一が尋ねるべきは、やはり堕し児に対する詳細だ。

但し大雑把に詳細を教えてくれと言っても情報量の多さに混乱するだけだと、蒼一は話の中で気になった単語をピックアップする。


「なぁ、アンタや俺を拉致した連中も会話の中で何気なく言ってたけど"物語"ってのはどういう意味だ?。言葉の意味は分かるが、なんか引っ掛かるんだよ」


物語という、その言葉の意味なら蒼一だって理解している。

特定の事柄の一部始終や古くから語り伝えられた話、或いは作者の見聞や想像を基にして人物や事件について語る文学作品、そう理解しているからこそ会話の中でその単語だけがやけに浮いているように感じられた。


彼らが口にする"物語"――それに何かがあるのだと、蒼一は半ば確信を持って尋ねる。


「"物語"について、か。それはまた説明し辛い事を聞くな」

「話すと拙い事なのか?」

「違うそうじゃない。話せないのではなく単純に説明が面倒臭いというだけだ。そうだな……まず大前提として堕し児は必ずそれぞれの物語を持っている」

「物語を持っている?」

「噛み砕いて言えば堕し児は必ず物語の主人公になる運命にある、こういえば分かるか?」

「……まぁ、言いたい事は、つまり堕し児と呼ばれる存在は何全員がトラブル体質にあるとかそんな感じか?……異世界に拉致された俺みたいに」

「そうだな、そういう物語的な事が連続して起き続けるのが堕し児の運命だ。この物語というのは強制力が凄まじく強い。蒼一が生きていた世界では魔物とやら魔術、或いは宇宙人と言った人類に仇なす存在は無かったんだよな?」

「あぁ、少なくとも一般人でしかなかった俺が知る限りでだけど」


異世界転生なんてファンタジーな経験をしてしまった以上、元居た世界にそういったオカルト的な何かが存在する可能性を否定する事は出来ない。

そもそも神達の話を聞いて最低でもそれぞれの世界を管理する神が存在する事は確定なのだからその時点でオカルトだ何だと笑い飛ばす事も出来なくなってしまった。


「そうか、それでだがそういった比較的平和な、物語の敵に成り得る存在が居ない世界に堕し児が生まれた場合、どうなると思う?」

「その場合は……どうなるんだ?」

「一つは蒼一が経験したように敵となる存在が居る世界へと堕し児が何らかの手段によって移動する事、それが故意であったり事故であったりは堕し児の物語に因るがな。そしてもう一つがそれとは反対、平和な世界に外敵がやって来るパターンだ」

「それは」

「分かるか?。堕し児たった一人存在するだけで平和だった世界が一瞬で世紀末へと転じる事だってある。それが堕し児が持つ物語の強制力の凄まじいところであり、この世界の神が堕し児を毛嫌いしている理由がそれだ。まぁ堕し児を毛嫌いしてる癖に顔を合わせて会話しただけで情が移って嫌うに嫌えなくなったのはアイツらしいが」


この世界を管理する神の事を考え苦笑いを浮かべる創造神だったが、一方でそんな話を聞かされた蒼一の表情は曇っていた。


「この世界は、平和な世界なのか?」

「んー平和の定義が難しくはあるが、どうなんだろうな。蒼一の元居た世界と比べれば殺伐とはしてるだろうが少なくとも世界を滅ぼしかねない魔王的な奴や終末兵器の類は存在してないし、そういう意味では平和なのかもな」


少なくても今は――そう後に続けようとしたその言葉を飲み込んだのは蒼一が自身がそんな堕し児である事を気にしている事を、創造神が察した為だろう。

自分がどういう存在だったのか、それを聞かされて少なからずショックを受けた様子の蒼一は堕し児の綴る物語について対処法は無いのかと質問を投げる。


「その堕し児が持つ物語ってのは神様でもどうしようもないのか?」

「その物語が一つ目の最中だと言うのなら管理神でもどうにか出来るだろう。ただ一つでも物語を超えた後となると正直厳しいだろうな。大抵の堕し児が一つ目の物語を超えた時点で管理神を殺せるだけの力を得るから、そうなってくるとそれ以後の物語は俺達の手には負えないんだよ。そんな堕し児と同格かそれ以上の奴が敵として立ち塞がる訳だからな」


物語がそこまで進んでしまえば管理神程度の力ではどうしようも無いと創造神は肩を竦める。


「世界を管理する神を殺せる力って……正直凄すぎて良く分からないんだけど、そんな奴らが何人も居るのか?」

「凄すぎて、か。普通の人間だった蒼一の感覚ではそうなのだろうが、全体から見れば俺達管理神なんてちっぽけな存在だよ。ただ世界を管理する為だけの幾らでも代えの利く消耗品でしかない。俺達を殺せる存在なんてそれこそ堕し児や忌み児に限らず掃いて捨てる程居るだろうな」


言葉だけ聞いていれば自嘲しているようにしか聞こえないその言葉だったが、それを口にした創造神の表情は至って平常であり、ただ純然たる事実を語っているだけに過ぎないという事を蒼一は理解させられた。


「ま、気にするだけ無駄って話だよ。俺達がどう足掻いたところで物語(うんめい)ばっかりはどうしようもない」

「……あの男達は、一体何のために俺をこの世界に放り込んだんだろうな」

「それが分からないのが一番の不安だな。これが単純に事故か何かで異世界転生しましたって言うなら、堕し児としての物語が紡がれただけと別段気にするような事も無かっただろうが、間に眼鏡(アイツ)が挟まっているというだけで不安要素が格段に増えるんだよな」

「その眼鏡の男だけど、俺と同じ堕し児なんだよな?。そいつも何か物語を紡いで来たんだよな?。どんな物語なんだ?」


謎の多い眼鏡の男、ソイツが辿って来た物語を知る事が出来ればその人となりや実験の目的が見えてくるのではないかとそう問い掛けた蒼一だったが、創造神は静かにかぶりを振る。


「アイツは堕し児という存在が明るみになる前、比較的初期の方に生まれた堕し児だ。誰もその存在を気に掛けていなかったし、アイツがその存在を知られるようになった頃には既にああだった。だからアイツが紡いだ物語に関しては俺にも分からないし、知っている者は殆ど居ないだろう」

「そうなのか……」


堕し児について、当初知りたかった事に関しては知る事が出来たが、しかしそれ以上にまた謎が増えたのも、その殆どが自分が知り得たところでどうしようもない領域の話だという事実に蒼一は頭を悩ませる。


「なんでそんな傍迷惑な存在がこの世に存在するんだろうな」


話に聞いただけでも厄介極まりない堕し児という存在がどうしてこの世に生まれるに至ったのか、何故自分はそんな存在として生まれてしまったのか、思わず漏れてしまった蒼一の言葉に創造神は淡々と言葉を返す。


「さぁな、何故あの人が堕し児という存在を生み落とすような真似をしたのか、それは俺にも分からない」

あの人(・・・)?ちょっと待ってくれ。それって」


創造神が重大な事を、堕し児が人為的に生み出された存在であるという事実を口にした事に気付いた蒼一がそれについて追求しようとするも――


「――悪いな、時間切れだ」


そう告げた創造神の目の前には完成した蒼一専用のバックパック・スラスターが鎮座していた。

それでもあの人と呼ばれた人物に関して問い質そうとする蒼一だったが、約束は約束だと創造神は取り付く島もない様子でそれ以上答える事は拒否し、蒼一も渋々諦めるのであった。

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