蒼一専用装備の開発
「おぉぉぉぉぉぉ!これは凄い!」
蒼一に倉庫まで案内された神が倉庫に乱雑に置かれた様々な物品を見て興奮した様子でそれらを舐めるように見つめた後、近くにあった戦闘機の残骸を調べ始める。
「これがスラスター、それで……お、ここの外装外れるようになってるな、どれどれ……」
「あのー」
「これはプラグの差込口か?。主翼の下部に取り付けられてるって事は、なるほどコイツは作戦によって装備を適宜換装出来るようにした多用途戦闘機か。興味深いな」
「ねぇ、ちょっと」
「こっちは操縦席か。装備の多彩さからして複座かと思ったのに、単座でこれだけの装備を全て制御するなんてどんなFCSを積んでるんだ?。バラされてなければ確かめる事も出来ただろうに……よし、コイツを完全に復元してそれから――」
「すんませーん!ちょっといい加減手を止めて貰って良いですかねぇ!?」
「ん?あぁ、悪いな」
蒼一の事を思い出したのか、神は戦闘機から目を離すと蒼一の方へと歩いてくる……途中、三回程未練がましく戦闘機の方を振り返っていたが。
「それで俺が魔術を使えるようにしてくれるって話でしたが、具体的にはどうするんですか?」
「やる事は簡単だ。蒼一の中にある始源を魔術を発動させても問題ない濃度まで薄める希釈装置を作るんだ」
「希釈装置?」
「正確には装置というか装備品だな。籠手とか鎧とか、防具でなくともチョーカーみたいな装飾品でも良い。やる事は始源を希釈するだけだから形状は自由自在だからな。何か希望はあるか?」
「急にそう言われても」
魔術を使えるようにしてやると言われて、まさか装備品を作る事になるとは思ってもいなかった蒼一は必死に頭を悩ませる。
装備品と言われて蒼一の頭を真っ先に過ったのは魔術なんてものが存在するファンタジー世界らしく刀剣の類だったが、装備品という事は最低でも帯剣はしていないと希釈装置として機能しない以上、四六時中腰に剣を差しとくというのは非常に煩わしい。
次いで浮かんだのは防具だがこっちも剣と同じ理由で身に着けてないといけないという時点で駄目だ。
咄嗟に良い案が浮かばなかった蒼一は間繋ぎで神にオススメを聞いてみることにした。
「神様のオススメって何か無いんですか?」
「俺のオススメか?。別に形状によって性能に差が出る事は無いんだが、そうだな。普段使いの出来る装飾品の類を普通ならオススメするところなんだが……」
チラリと背後にある戦闘機の残骸へと目を向けた後、神は蒼一にある装備を提案する。
「飛行ユニットなんてどうだろうか」
「飛行ユニット?」
「バックパック・スラスターをイメージして貰えると分かり易いかもな」
「それはロボットが装備してるような感じの?」
「あぁ、そのイメージで合ってる。普通に考えれば始源を希釈するだけのものに飛行ユニットとしての機能を持たせる利点は全くない訳ではないが、正直薄いだろう。それでも飛行ユニットと告げたのは――」
「――空を駆けるというのは男の浪漫だから、ですか?」
ニヤリと口を歪めて言葉を継いだ蒼一に対し、神もそんな蒼一の言葉に驚いたような顔を見せながら、しかし直ぐに蒼一と同じように口を歪めて笑い、そして
ガシッ!
無言のまま二人の間で固い握手が交わされる。
元人間の世界と異世界を管理する神、来歴も生まれもまるで異なる二つの存在はたった一つの価値観の元で今固い絆で結ばれたのであった。
という事で始まった蒼一専用のバックパック・スラスターの開発だが、蒼一がアイデアを出し神はそれを形にするだけで基本的には口出ししないという形でスタートを切る。
「基本の形はどうする?ランドセル型か、それともウィング型か?」
「ウィング型が良いんですけど、ただゴチャゴチャしてるのは好きじゃないんですよね。例えばこれが全身重装のフルアーマーだって言うならバックパックがゴチャゴチャしてても釣り合いが取れてるとは思うんですが、バックパックだけならスッキリした方が好みではあります」
「それならV字型のウィング二枚でどうだ?」
「良いですね。それを左右の肩甲骨辺りに配置する形で、あとウィングの間に希釈した魔力を溜めておくタンクみたいなのって配置出来ますか?」
「可能だが、タンクなんて付けてどうする気だ?。希釈装置の性能的に別にわざわざ溜めておかなくても魔術の発動に影響は無いが」
「いやー別に神様の技術を疑ってる訳じゃないですよ?。単純に俺にやりたい事が在りましてね……実は――」
「――ほう、なるほど。確かにそれは浪漫だな」
「でしょう?」
クククと傍から見たら悪だくみをしているようにしか見えない笑みを浮かべながら、二人はあーだこーだと語り合いながらバックパック・スラスターの開発を続けるのであった。