鍋パーティの準備
「出来たぁーー!」
時刻は昼過ぎ、孤島の浜辺に蒼一の歓喜の雄叫びが響き渡り、遠目に様子を伺っていた者達がその声にビクリと肩を震わせるも、そんな事に気付きもせず蒼一の視線は出来上がった巨大な鍋に注がれていた。
出来上がったのは大人が一人丸々入りそうな巨大な寸胴鍋、多少側面が凸凹しているが使用する分には問題は無く、余った金属板で落し蓋も作ったが微妙にサイズが小さいのもご愛敬という奴である。
「鍋が出来た訳だし、次はどうする?」
「そうですね、まずは海水を三割程度入れますか」
「海水をそのまま料理に使うのか?。ぱっと見た限り澄んでるし煮沸すれば大丈夫そうだけど、塩っ辛くならないか?」
「ですから最初に三割程度だけ入れるのですよ。後は具材と一緒に煮込んで塩気が気になるようなら川の水を足して塩分濃度を調整すれば良いですから」
「なるほど、じゃあ早速魚を獲るか?」
「そうですね。私は鍋に海水を入れるのと蒼一様が採って来た海藻の選別をやっていますので、魚の方は任せて大丈夫ですか?」
「良いぞ。素体になった海のモンスターのお陰か海は大得意だからな……まぁ沖までは出られないけど」
肉体的には海は大の得意だが、精神的には大量の情報の処理が間に合わないので大の苦手という、得意なのか苦手なのか分からない蒼一だが、幸い浅瀬にも大きめの魚はそれなりに居るので魚に困る事は無かった。
ブリ雄が海水を溜めて火に掛けた鍋に食べられる海藻を入れ、その傍ら蒼一はどんどん魚を獲っていく。
「はんひひほっへひはほ!」
「はい?」
(三匹獲って来たぞ!)
「あぁ……魚を口に咥えないで下さい。仮初の肉体とはいえヒレや歯に毒でもあったらどうするんですか。幸い咥えてる方には毒は有りませんが、右手に持ってる方は毒があるので今後は獲って来ないで下さい」
「ぺっ――分かった。でもなぁ、なんか泳いでる魚を見てるとなんかこう口でぐわぁぁ!って食いたくなるんだよ」
吐き出した魚へと視線を落としながら蒼一が何だか物足りなさそうに言うと、ブリ雄が少々呆れたような顔をする。
「完全に肉体に精神が引っ張られてますね。お願いですから我慢できずに海の魚を食い散らかすとか止めてくださいよ」
「一応自制出来てるから大丈夫だって。この感覚を言葉に例えるならそうだな、鮟肝を食べてる時に熱燗が欲しくなる感じというか、真夏にキンキンに冷えたビールが飲みたくなる感じというか」
「何故例えが全て酒なのですか?。蒼一様が好きなのは理解してますが、正直分かり辛いです」
「えぇぇ……じゃあ砂漠を丸一日彷徨って喉がカラッカラな時にオアシスが目の前に現れたくらいの気持ち?」
「大分ヤバいですね。それと酒が同列ってどういう事ですか」
というか良くそれで大丈夫とか自信満々に返せたなと、今度は心底呆れた様子のブリ雄に対し、蒼一は言葉を返す。
「現状我慢出来てるんだから大丈夫だって。肉体に精神が引っ張られてるなら最悪我慢出来なくなったらその肉体から抜ければ良い訳だし」
「そうしてください。素体となったモンスターの巨大さを考えると本当に一人で魚を食い尽くしかねないので」
この孤島において魚も貴重な資源であり、それを一人に食い尽くされてはたまらないと忠告するブリ雄を尻目に、蒼一は漁を再開する。
それから更に魚を二十匹近く確保した辺りでブリ雄からストップが入り、魚を捌いていたブリ雄に合流して蒼一も手渡された石器のナイフで魚を捌く。
「俺、料理はよく作ってたけど魚って殆ど捌いたこと無いんだよな。あんまり魚料理を作らなかったのもそうだけど調理済みの物ばっか買ってたし」
「基本的に料理は凄い凝り性なのに魚料理だけは鮭のバター焼きとか簡素な物ばかりでしたね」
「単純に調理した魚がそこまで好きじゃないんだよ。煮付けとかより刺身とか魚は生の方が好きだし」
「浜鍋作ってる時に生の方が好きとか言わないで下さいよ」
「鍋は別だよ、酒に合うし――っと」
他愛無い雑談に花を咲かせていた時、流れ作業的に魚を捌いていた蒼一の手が止まった。
「どうしたのですか?」
「いや、この魚腹がゴムみたいな弾力してて石のナイフじゃ捌けなくてさ」
「貸してみて下さい」
そう言ってブリ雄は蒼一が捌こうとしていた魚を掴むと、魚の頭を蒼一に向けるようにしながら捌き方を実演する。
「この魚のように皮が丈夫な魚はいきなり腹に刃を刺し込もうとしても刃が刺さりませんので、口の端から刃を入れていって腹を割けば問題ありません」
「おぉ、なるほどな。しかし肝と白子とか食える魚はいないのか?」
「残念ながら今回獲って来た魚の中にはいませんね。そもそも酒の肴だけあっても酒が無ければ仕方ないんじゃないですか?。飲めない酒が飲みたくなるだけですよ」
「それもそうだよなぁ」
肝や白子なんて食べたら酒が欲しくなるのは当然であり、酒が無い状態でそんな物を口にすれば絶対後悔すると蒼一は肝や白子に関しては一旦忘れる事にした。
内臓を取り海水で腹の中を洗った後、魚を豪快にブツ切りにして鍋へと投入していくと、鍋の中から良い匂いが立ち上ってくる。
「お、魚と海藻の出汁が良い感じに出てるんじゃないか?」
「そうですね、味見してみますか?」
「じゃあ一口」
ブリ雄から木製の御玉を受け取り、最初の方に投入していた魚の身と一緒に汁を掬い一口飲む。
「ん、やっぱり塩っ辛いな。魚の方は丁度良い塩梅に感じるけど、汁がこれならもう少し薄めても良いかも」
「であれば川の水を少し足しましょうか。私が水を汲んで来るので蒼一様は残った魚をお願いします」
「分かったー」
こうして蒼一とブリ雄はそれからもせっせと鍋パーティの準備を進め、鍋が完成する頃には日も暮れかけ、予定より少し遅れたものの無事鍋パーティを開催する準備が整ったのであった。




