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歓迎の場へ

ブリ雄が同胞達への御触れを出す為と倉庫を後にし、蒼一が一人取り残されてから早三時間が経過していた。

日も指さない洞窟の中では時間感覚も狂い、蒼一にしてみれば既に昼を過ぎているのではないかとさえ考えていたが、実際にはまだ昼前であった。


「ブリ雄、遅いなぁ……何してるんだ?」


倉庫内にあった様々な物品のお陰で幸い時間を潰すには困らなかったが、それでも長いこと一人で放置されていれば少なからず苛立つのも仕方ない。


そうして一度不満を口にしてしまった以上、蒼一がその苛立ちを隠し切れなくなってきた頃、蒼一の知覚に倉庫へと近付いてくる者が引っ掛かり、蒼一が視線をそちらへと向けると暗がりの奥からブリ雄の姿が現れる。


「やっと来たか。おそ――」


遅かったなと愚痴の一つでも零そうとした蒼一だったが、やって来たブリ雄の疲れ切った顔を見てそんな気持ちも萎んでしまった。


「蒼一様、大変お待たせ致しました」

「あ、いや……うん、なんか大変だったみたいだな」

「えぇ、本当に苦労しましたよ。取り敢えず移動しながら話しましょう。皆を待たせているので」


一刻も早く戻らねばまた面倒になりかねないと、ブリ雄は蒼一の返事も待たずに踵を返す。

そんなブリ雄に気圧されながらも、蒼一は気になっていた事を問う。


「それで随分と時間食ってたみたいだけど、そんなに落ち着かなかったのか?」

「単純に落ち着かせるのに時間を食ったのもそうですが……それ以外が非常に手間で」

「それ以外?落ち着かせる以外にも何かやったのか?」

「はい、最初に先ず蒼一様が肉体を得たという事だけを伝えたのですが、予想通り皆興奮してしまいましてね。そのまま放置すると何するかも分からなかったので落ち着かせるのと行動を制限する意味も込めて歓迎の場を作ろうという話にしたんです」

「歓迎の場?」


歓迎の場と言われ、蒼一がオウム返しに聞き返す。


「歓迎の場と言っても体の良い鎮静剤として言っただけで、そこまでしっかりしたものではありません。巣穴にある祭壇と供物を外に運び出しただけの話です」

「あれを外に全部出したのか?」


乱雑に積み上げられただけとはいえ結構な大きさだった石の祭壇とそれが埋もれる程の大量の供物を思い出し、蒼一はその大変さを想像してそれは確かに時間が掛かるなと納得すると同時にそういった単純作業が心を落ち着けるのにも丁度良かったというのも理解出来た。


「それで時間を置いて蒼一様が肉体を得たという事実を飲み込んだ上で落ち着いたのを確認してから蒼一様を迎えに行こうとしたのですが……」


その直後の出来事を思い出したのだろう。

非常に嫌そうな顔をしながらも続きを口にする。


「私が倉庫の方に入ろうとするのを見て、蒼一様がここに居ると察した何人かが倉庫の中を覗き込むように付いてきたのです。その数人にしてみればちょっと覗く程度の気持ちだったのでしょうが、それを見て出遅れたと思った者達が駆け出しましてね」

「なるほど」


出遅れたと思った者達が焦って駆け出し、そしてそれが伝播するように全員が倉庫の入り口へと殺到して……結果ブリ雄はもう一度全員を鎮静化させなければならなくなったのだ。


「その様子だと、もし一人でも迂闊に俺に近づこうとなりした途端、全員押し寄せて来そうなんだけど」

「心配は要りませんよ」


一部の人間が呼び水となり一斉に囲まれる未来を予想したのか、蒼一が眉を顰めながらそう言うと、ブリ雄が安心させるように説明を続けた。


「確実にとは言いませんが、一応手は打ったので」

「というと?」

「倉庫の外で全員を平伏させました」

「……はい?」

「自由にさせておくと蒼一様が先程懸念したような事態になりかねません。しかし平伏させておけば近づくような真似も出来ませんし、厳粛な雰囲気それ自体が抑止力となりますから」

「それは、まぁ確かにそうかもしれないが」


平伏させておけば確かに自由に動けないし、皆が平伏してる中一人だけ立ち上がるという真似も出来ず、一部の暴走を抑える事が出来る。

ブリ雄のその考えは理解出来たが、蒼一としては何もそこまで堅苦しい物にしなくてもという思いも強かった。


そうこう話している内に外の明りが見え始め、ブリ雄が一旦足を止めて振り返る。


「では、私は先に行きますので蒼一様はここで待って頂き、私が杖で地面を強く叩いて合図を送りますのでその時になったら倉庫から出てきてください。くれぐれも厳粛な雰囲気を壊さぬようお願いします」

「壊さぬようにって」


それって一体どうすれば良いんだよと蒼一が続けるよりも早く、ブリ雄はそそくさと倉庫の入り口から外へと出て行ってしまう。


「しまった、そういえば結局が俺は何するのかとか聞いてないぞ」


時間が経ち蒼一はすっかり忘れてしまっていたが、顔見せの際に何かお願いするかも知れないというブリ雄の言葉を思い出し、それについて何も聞き出さなかった事を今更ながらに酷く後悔するのだった。

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