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信仰対象とその信者

「ん?」


あれから数時間、倉庫となったいた穴倉の最奥で色々と漁っていた蒼一とブリ雄だったが、不意に蒼一は手に持っていた機械部品から視線を外して顔を上げる。


「どうかしましたか?」

「あ、いや、どうやら皆が起き出したみたいだ」

「あぁ、もうそんなに時間が経っていたのですか」


蒼一が世界としての知覚で近くの穴倉で寝ていた者達が動き出したのを感じ取ったのだろうと、ブリ雄は納得したような表情を浮かべた後、今度は困った顔をした。


「どうした?」

「……蒼一様の事を、同胞達にどうやって伝えるべきかと考えていまして」

「あぁ……なるほど」


ブリ雄が何に悩んでいるかを理解し、蒼一もブリ雄と似たような顔をして頭を悩ませる。


蒼一が肉体を欲しがっているというのはブリ雄以外の者達も知っていた。

何故なら最初に蒼一にそうお願いされたブリ雄が真っ先に思いついたのが既に死亡した同胞の亡骸を利用するというものであり、当然だがそんな真似をブリ雄の独断で行える訳もなく同胞達に相談して全員の同意を得たのだから……まぁその案は蒼一によって拒否されて実行されはしなかったのだが。


兎も角、蒼一が肉体を欲しているというのは全員が知っているのだが、問題はその蒼一が肉体を得たという事は誰にも伝わっていないという事だった。

肉体が完成してすぐ、ブリ雄は巣穴に帰って行ったが疲労のピークを迎えていたブリ雄は同胞達への挨拶もそこそこに眠ってしまい、爆睡したブリ雄が目覚めた時には仲間たちも既に眠っていた為、ブリ雄は蒼一の身体の事も衣服の事も何一つ同胞達に説明していない。


「このまま出ていくと騒ぎになるか?」

「なるでしょうね。知らない存在を見て恐慌状態となって逃げ出したりとか」

「……そんなに?」


それは流石に大袈裟過ぎやしないかと蒼一は疑うも、ブリ雄はそんな蒼一の考えを正すように説明する。


「この島にはずっと私達しか住んでいなかったのです。同胞以外の存在など見た事ない――いえ、存在すら知らなかったのですから、そのくらいの反応を見せても不思議ではありません」

「そっか、そういうもんか……ならブリ雄が御触れを出すのは?世界に同化した俺っていう存在自体は知ってる訳だし、中身は俺だって事を伝えてから出てけば混乱は少ないだろ?」


蒼一がそんな案を出すも、ブリ雄は難しい顔をするだけで返事もせず、暫し間をおいてから首を横に振って口を開いた。


「駄目です。蒼一様は自覚が薄いのかもしれませんが、私達にとって蒼一様は命の恩人なのです。どれだけ私達が蒼一様の事をお慕いしているか、それはあの石の祭壇に捧げられた供物の量を見れば明らかでしょう」


石の祭壇に捧げられた供物と聞いて、蒼一も捧げられてきた供物の量を思い返す。


蒼一がブリ雄達を飢饉から救ってから早二ヶ月が経過しているというのに祭壇への捧げ物が途切れる様子はない。

それどころか毎日五人以上の人数で祭壇への捧げ物を木を削って作り続けているような状態であり、しかも働きに出た他の者達も食料を集めつつも暇さえあれば捧げ物になりそうな物を探しては供えていくという状態だ。

ゴブリンモドキ達の生活は今や石の祭壇(ソウイチ)を中心に回っていると言っても過言ではない。


そんな中で今まで祈る事しか出来ず、見る事も触れる事も出来なかった信仰の対象が目の前に現れればどうなるか。


「間違いなく、蒼一様と説明しなかった場合とは真逆の反応、興奮状態になった者達が一斉に蒼一様へと殺到するでしょう」

「うわぁ……」


恐怖による逃亡ではなく歓喜による暴走、それを聞いた蒼一も思わず顔を顰めてしまう。


「気持ちは有り難いけど、それは遠慮したいな」

「でしょうね。ですので…………そうですね。一旦ここは私に任せて蒼一様はここで待っていて頂けますか?」

「どうする気だ?」

「蒼一様の事を隠し続けるという訳にもいきませんので、蒼一様が肉体を得たという事は伝えてきます。ただその直後に顔を出されるとさっき言ったようになりかねないので、暫く時間を置いてから顔を出して頂ければと、タイミングを見計らって呼びに来ますので」

「分かった、俺はブリ雄が来るまでここで待ってれば良いんだな?」

「一旦はそれで大丈夫です。もしかしたら顔見せの時に何かお願いするやもしれませんが」

「うげっ」


顔見せの時に何かやって貰う。

それはつまりゴブリンモドキ達の前で信仰される対象として相応しい何かを求められるという事なのだろう。

それが演説のようなものか、将又別の何かかは分からないが、プレゼンの類が死ぬ程嫌いな蒼一にとっては非常に不安になる言葉を残して、ブリ雄は穴倉を後にするのだった。

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