孤島の現状
蒼一とクラリッサが罪の味を堪能した翌日の昼頃、蒼一達は孤島へとやって来ていた。
「なんか、凄い久しぶりに来た気がする……」
「まだ一週間と経ってませんよ。まぁ、ここ数日は濃密だった事は認めますが」
「こんなやり取り、前もやんなかった?」
「やった気がしますね。何せ一度西の大陸に行くと何だかんだトラブルに巻き込まれてますからね。このままでは皆の言語習得や孤島の開発が遅々として進まないので、勘弁頂きたいです」
「言語の方は早めにお願いしたいが、島の開発の方は程々にな。俺としては服を着てくれてるだけでも十分なんだから」
以前は姿がゴブリンモドキだった頃からずっと襤褸切れ一枚だったが、人間の姿になってからは穴だらけの襤褸切れ一枚では色々と見えてしまい、非常によろしくない状態だった為に、強引な改革を忌避している蒼一だったが、そこだけは主義を曲げて押し通した。
「安心を、無理強いはしてませんよ。巣穴から住居に移る事に関しても、違和感を覚えるものは拒絶する者は居ませんでしたから。まぁ、衣服を身に纏う事に関しては窮屈だと嫌がる者が何人か居ましたが」
「あれ、無理強いしてるのって俺だけ?」
「そうなりますが、嫌がっていた者も"蒼一様の為ならば"と了承していましたので、それ程嫌がってはいませんでしたよ」
「それ渋々了承したって事だろ」
まったく、どの口が無理強いはするなだなんてほざいているのだと、蒼一は自分で言っていて恥ずかしくなっていた。
「あ、そういえば」
そんな事を話しながら歩いていた時、不意にブリ雄が思い出したかのように口を開く。
「ムーとクレアはどうしたんでしょうか。我々が戻ってくれば何時も真っ先に出迎えに来るのに」
「あー、クレア達なら今は家の方に居るな。まぁ、見に行けば分かるさ」
「?」
見に行けば分かると、答えを口にしようとしない蒼一にブリ雄は首を傾げるも、蒼一の様子からして緊急性は無いものと考え、敢えて追求はしなかった。
それから間もなくして木造のバンガローが建ち並ぶ居住区へと到着する。
「なるほど、確かにアレでは出迎えも出来ませんね」
ブリ雄の視線の先、そこには静かに寝息を立てる子共達に寄りかかられ、身動きの取れなくなっていたムーの姿があった。
「ム、ムー……」
身動ぎ一つ出来ないムーは子供達を起こさぬよう、か細い声で鳴く。
「うん、ただいま。ムーは子守か?偉いな」
「ムー……!」
「え、違う?昼寝してたらそうなってた?あー、まぁムーって背中の甲羅を除けばぷにぷにで柔かそうだし、枕にしたら気持ち良さそうだもんな」
「ムー!」
自分は枕じゃないと、ムーが抗議の鳴き声を上げると、寝息を立てていた子供達が何事かと飛び起き、周囲をキョロキョロと見回す。
「あー!蒼一様!ブリ雄!おかえりなさいませー!」
飛び起きた子供達の内の一人が、二人の存在に気が付き、そう声を上げると、その場に居た全員が一斉に二人の元へと集まってくる!
「おかえりなさいませー!」
「なさいませー?」
「ごちそう!」
「おかえりーなさいませー!」
「あはは、皆ありがとう、でも一人なんか違うのが居たな?」
蒼一を前にして挨拶そっちのけで御馳走などと口走る食いしん坊は、この島に一人しか居ない。
「こら、クレア、まずは出迎えの挨拶でしょう。いきなり"ごちそう"だなんて、そんな挨拶を教えた覚えはありませんよ」
「う……ごめんなさい」
ブリ雄の言葉の全てを理解出来た訳ではないが、雰囲気から怒られていると理解したクレアはしょんぼりと肩を落とす。
すると見かねた蒼一が一歩前に出て、悄気返るクレアの頭をポンポンと叩きながらフォローを入れる。
「まぁまぁ、前回の生ハムパーティーから随分と日が開いちまったし、待ち遠しくて仕方なかったんだろ。それに、皆も御馳走食べたいよな?」
蒼一がそう尋ねると、子供達も目を輝かせながら御馳走!と口にし始める。
「まったく、蒼一様は甘いのです。このままパブロフの犬のように、御馳走=蒼一様という風に結び付けられ、蒼一様と顔を合わせる度に涎を垂らすようになったらどうするおつもりですか」
「それは……ちょっと困るな」
「でしたら飴だけを与えるのではなく、時に鞭も与えてください|
流石に御馳走を作るだけの人間とは思われたくないと、蒼一は少し反省する。
「でもほら、どっちにしろ今日の目的って、前回から間が開いたし、またパーティーをしようって話だったろ?」
そう、今回二人が島に帰ってきた目的は、第三回目となるパーティーを開く為であった。
ただし、今回のパーティーは今までとは違い、蒼一とブリ雄だけで用意するのではなく、全員で協力するものだ。
「それじゃあ、時間も掛かるし、早速始めるか!第三回目は野菜パーティーだ!」
連続にはなりますが、またしても食べ物ネタです。
これが終わったら暫くは狩りだったり他のネタになると思うので。