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素体を求めて

ブリ雄が準備をすると告げてから数刻が経ち、日も落ちたばかりの海岸で蒼一はブリ雄がやってくるのを待っていた。


(用意って、一体何の準備をしてるんだろうな)


蒼一の肉体を作る為の素体を探すとは言っていたが、具体的にはどのようにしてそれを探してここまで運んでくるのか、その手段に関しては蒼一も良く分かっていない。

その説明も出発前に纏めてするという事で蒼一もこうして一人オセロに興じながら暇を潰していた時だ。


「お待たせ致しました」


(お、来た――か?)


砂浜にやって来たブリ雄の姿、正しくはその手に持っている物に蒼一の視線が釘付けになる。


ブリ雄の手に握られていたのは太めの枝を加工した杖のような物と石を削って作った二つの棒状の何かを持っていた。


(その手の中の奴は?流れ的に今回の件に関する物なんだろうけど)


杖の方はある程度の予想はつくが、石の方は見当の付かない蒼一がその物品に関して質問し、ブリ雄がその問いに答える。


「杖の方は御想像の通り、魔術の発動媒体ですね。媒体が無くても魔術自体は使えますが、それだと細かな制御が難しいのですよ。空を飛んだ時に感じた事ですがどうも私は特にそこら辺が苦手らしくてですね」


(その為の杖か。石の方は?)


「転移魔術用の接続装置ですよ」


(転移魔術!?そんな事まで出来たのか……凄いな)


「知恵の実に内包されていた知識があったからこそ、ですよ。自力で習得した訳でも無いですし、凄いという意味なら蒼一様の方が凄いのでは?」


(俺が凄いだなんて、そんな訳ないだろ)


確かに最低限の知能しか持ち合わせて居なかったモンスターにこれ程の魔術の知恵を授けたと考えれば確かにブリ雄の言う通り凄いのは蒼一の方ではあるのだが、蒼一にしてみればアレは知能アップを図った事による偶然の産物であり、何よりもあの時謎の誰かの介入が無ければブリ雄は間違いなく死んでいた。

それを自分の功績とするのは違うと思うし、何より蒼一にとってあれは結果的に上手く行っただけで失敗以外の何物でもないのだ。


(世界の力が使えるってのは確かに凄い事かもしれないが、それはあくまでちゃんと使えればの話だ。殆ど適当に弄ってるだけの今なんて褒められる程上等なもんじゃない)


「……何もそこまで卑下しなくとも、確かに十全に扱えているとは言い難いでしょうが、それでも蒼一様は一定の成果を残しているではないですか。だからこそ、私は――いえ、私達はこうして今も生きているのですから」


蒼一が世界としてその力を十全には扱えていないのは紛うことなき事実である。

しかしその拙い力のお陰で、ブリ雄達が今こうして生きているというのも紛れもない事実だ。


自分は凄くなんかないと卑下する蒼一とそんな事はないと蒼一を褒め称えるブリ雄、生産性の欠片も無い言い合いに発展し掛けているのを何方ともなく気が付いたのだろう。

互いにそれ以上の主張はせず、話はブリ雄が持ってきた転移魔術の為の道具へと移る。


「接続装置と説明しましたが、蒼一様にはポインタとメモリアドレスと言った方が理解し易いですかね」


(あー、オッケー把握した。双方向ではなく一方向限定なのね。それでどっちがどっちなんだ?)


「杭のように尖っている方がメモリアドレスになりますね。尖っていない単なる長方形の石がポインタになります」


その説明で蒼一は二対の石の棒の用途を瞬時に理解した。

簡単に説明すれば杭のようになっている方が転移したい場所のマーカーで、もう片方がその杭の位置座標を記録しマーカーの座標位置を知る為の道具になる。


「メモリアドレスの方を地面に突き刺して、魔力を通せば」


杭状の方を砂浜に深々と差し込み、魔力を流すと側面に描かれた小さな魔方陣が輝き出して設置を完了させ、ポインタとなる石の方にも魔力を通し無事接続された事も確認した。


「これで何時でもここに戻って来れるようになりました」


(ほえー……魔術って便利だなぁ。試しにやってみてくれるか?)


「予備が在れば良かったのですが、残念ながら石で作られたこれは消耗品なのですよ」


石で作られたこれらは別に石でなければならないというような物ではない。

しかし転移魔術を発動させる際、大量の魔力が魔方陣へと流れ込む為に一定の耐久性が必要であり、普通の石では精々一回か二回発動すれば十分というレベルである。

木製では一回の発動にも耐えられず、可能なら金属製が望ましいが金属を加工する術がない現状では素材としては石で精一杯なのだ。


(そっか、じゃあ仕方ないな……どれくらいで帰って来れそうなんだ?)


「早ければ日ノ出までには帰って来れるとは思いますが、結局素体が見つかるか次第ですので、下手をすれば数日掛かるという可能性もありますから……そうですね、最悪でも明日のこの時間までには」


(分かった。留守の方は大船に乗ったつもりで任せてくれ)


「はい、頼りにしております。それでは」


ブリ雄はその場で一礼すると、ふわりと空中に浮かび上がりそのまま海上を凄まじい速度で飛んでいく。


(すげぇな……)


ブリ雄の姿は既に視界に無く、その速度に思わず感嘆の言葉が漏れる。


(俺もあんな風に飛びたいなぁ)


実体を持たない蒼一もある意味では空中に浮いているような状態だが、しかしそれと空を飛ぶのとは蒼一にとてはまるで違うものなのだ。

どれだけ空高く飛び上がっても、どれだけ素早く視点を動かしても、浮遊感も風を切る感覚も得られず、ただ空を飛びたいという蒼一の欲求を刺激するだけで何の欲求も満たされない。


(何時かは、俺も――)


空を飛んでみたいと、その為にはブリ雄が持ち帰った素体で作った肉体が必要だと、蒼一は先程旅立ったばかりだというのにブリ雄の帰りを今か今かと待ち焦がれるのであった。

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