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人間っていいな

(いーいーな、いーいーな、にーんげんっていーいーなー)


ゴブリンモドキ達が暮らす孤島、視界の先で世話しなく動く外見上は人間の姿を見つめながら、蒼一はお尻を出した子が一等賞になりそうな歌を非常に暗いテンションで歌っていた。


元は明るい童謡の筈なのに、中年おっさんの感情の失われた低い声で歌われた今は空寒さを通り越して最早ホラーである。


幸い、そんな蒼一の歌が聞こえないゴブリンモドキ達はせっせと巣穴に収穫した木の実を運び入れたり、薪となる枯れ枝を集めたりと各々の仕事に精を出していたのだが、その中で不幸にも蒼一の声が聞こえてしまうブリ雄だけが、空を見上げて顰めっ面をしていた。


「蒼一様、またですか」


ブリ雄達が人間の姿となってから三週間程が経ち、最初はそれぞれの外見と名前を結びつける事に必死だった蒼一も今では無事全員の顔と名前を覚え、全員の生活をひっそりと見守っていたのだが……。


(だって、だってさぁ……皆凄い活き活きと生活してるんだもん。羨ましいって思うのは仕方ない事じゃん)


中年のおっさんが"だもん"とか年齢を考えろと言いたいがそれは兎も角、人間の身体を失って早二ヶ月近く、肉体が消失した事で疲労や空腹といったものを感じなくなった蒼一だが、それでも欲求の類が消えた訳ではない。


収穫した木の実を美味しそうに頬張る者達、言葉はないが身振り手振りで楽し気に意思疎通を図る者達、それを見て自分も同じように食べてはしゃぎたいと考えるのは極自然な事だろう。


結果、蒼一はそうして楽しそうに生活しているゴブリンモドキ達の姿を見かけては、ついつい嫉妬の感情が漏れ出すようになってしまっていた。


「お気持ちは察しますが、でしたら以前提案した案を実行するのは如何ですか?」


(いや……流石にそれはちょっと)


以前に提案された案、それは自分も人間の身体が欲しいと蒼一が最初にブリ雄に相談した時の事だ。


ブリ雄の魔術で空っぽの人間の身体を一つ作れないかと相談した時、ブリ雄は蒼一にこう答えた。


「流石に私も無から人間の身体を作り出す事は出来ません。そうですね……過去に死んだ同胞達の骸を使い、それを骨組みとして後は魚の身体で肉付けを行えば可能かもしれませんが」


というような提案をされたのだが、流石にブリ雄の仲間の骸を使うというのは死者への冒涜というか忌避感があるし、骸を使わず魚だけでどうにか出来ないかと聞いてはみたが、ブリ雄の魔術はどうやっても肉ならば兎も角、細く脆い魚の骨から人間の骨格を作るような事は骨の大きさ的にも強度が足りなさ過ぎて無理とのことだ。


この島にはブリ雄達以外にしっかりとした骨格を持つ生き物は居ないし、人間の身体を手に入れるにはどう足掻いても丈夫な骨格が必要不可欠であり、となるともう島の外へ出て探しに行かなければならないのだが、蒼一は現状処理能力の関係で海を渡る事は出来ない以上、それも不可能だ。


「最悪、人間は兎も角として軟体動物で良ければ用意出来ますが」


(それは……蛸とか烏賊って事だよな?それはちょっと遠慮したいなぁ)


外見の問題もそうだが第一それでは水中でしか動けないし、かといって陸上の軟体動物と言えばナメクジになってしまう。

移動速度が極端に落ちるような肉体は出来れば遠慮したい。


「となると……はぁ、仕方ないですね。一応準備だけは進めていましたが」


(何だ、何か考えがあるのか?)


「えぇ、確認ですが蒼一様は海の外へ今も出られないのですよね?」


(あぁ、一週間くらい前にも一度試したが、相変わらず情報の処理が追い付かなくて無理だった)


蒼一がそう答えると、ブリ雄は"そうですか"と残念そうに、というよりはちょっと嫌そうな感じで口を開く。


「であれば、私が直接海に出て蒼一様の身体を構成出来る素体を探してくるしか無いですね」


(探してくるって……)


ブリ雄の言葉に蒼一は視界を島の外に広がる広大な海へと向ける。


(どこで何を探すつもりなんだ?他の陸地なんて全く見えないし、そもそも海を渡る手立てがあるのか?)


蒼一の尤もな疑問にブリ雄は言葉で答えるよりも実際に見せた方が早いだろうと、全身に魔力を漲らせた次の瞬間、ブリ雄の身体が宙高く飛び上がった。


(うおっ!?)


突然ロケットのように垂直上昇したブリ雄に驚いた蒼一だが、空中で制止したブリ雄を見て驚きは直ぐに興奮へと変わる。


(おぉぉぉ!もしかして魔術で飛んでるのか?)


「その通りです。しかし軽く浮くだけのつもりだったのですが、ここまで飛び上がるとは……後で仲間達に説明しなければなりませんね」


眼下で驚いた顔で空を見上げブリ雄を指差す仲間達を一瞥すると、ブリ雄はその視線を大海原へと向けた。


「海には強大なモンスターが数多く生息しています。その多くがかなり丈夫な骨格を持っている筈です」


(なるほど、それを素材にして身体を作ろうって事か)


「可能ならば無駄な荒事は避けたかったのですがね、蒼一様がそれ程までに人としての肉体を望むのであれば、モンスター達には犠牲となって貰いましょうか」


仕方がないと、そう割り切ったブリ雄は蒼一の肉体を作る為の素体を入手する為に、早速準備を始めるのだった。

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