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ブリ雄の大変身

あの命名騒動という名の蒼一とブリ雄の喧嘩(?)から数日が経ち、ゴブリンモドキ達全てに名前が付けられ、蒼一もやっとの思いでその名前の全てを覚えた頃だった。


(名前は覚えたけど、外見での判別がつかねぇ!!)


そう、今度はゴブリンモドキ達の外見が問題であった。


それぞれ微妙な違いはあれど、蒼一には本当に微妙な違いでしかなく、ブリ雄の時のように固体内に流れる情報で見分けるという方法もあるにはあるが、あれは名前以上に更に覚えにくい代物だ。

ブリ雄の時は正直ブリ雄一匹分の個体情報を覚えるだけだったので問題は無かったが、流石に三十二匹の個体情報と名前を紐づけするというのは現実的ではない。


それをブリ雄に相談したところ……


「なるほど……でしたら丁度良い魔術があります。ただ一度も試した事は無いので数日お時間を頂いても宜しいでしょうか?」


という返答が帰って来た。


蒼一にしてみれば何の手立ても無い以上、ブリ雄に任せるしかないし魔術を使った解決策というのも非常に興味があったというのもある。


結局それから更に数日経ち、蒼一も一向にゴブリンモドキ達の見分けが出来ないままであったある日の事だ。


「蒼一様、以前相談されていた件ですが、解決の目途が立ったので報告に参りました」


何時もの定期報告(オセロ)の時間、何匹かのゴブリンモドキを連れてブリ雄は蒼一の元へとやって来た。


(おぉ、遂にか)


相談した後も一応は頑張って覚えようとはしていた蒼一だったが、正直半ば諦めかけていたところだったので嬉々としてブリ雄達を歓迎する。


(それで具体的にはどうやって見分けられるようにするんだ?。魔術を使うとは聞いてたけど)


判別出来るようになりたいというだけではなく純粋にその魔術を使った方法に関しても興味がある蒼一は今か今かとその瞬間を待ちわびていた。


「では、御覧に入れましょう!」


そんな蒼一の目の前でブリ雄は大仰に手を広げて見せると、次の瞬間ブリ雄の全身が光り輝き、周囲を眩い輝きが埋め尽くす。


(うぉ!?)


不意打ち気味にそんな輝きを見せられた蒼一はそのあまりの眩しさに視線を下げ、光が収まるのを待つ。


十秒、二十秒、三十秒――どれだけそうやって視線を下げていただろうか。

今まで静かだったブリ雄が、蒼一に向けて声を掛けてくる。


「こんなものでどうでしょうか?」


(…………………はい?)


その声に反応して視線を上げた蒼一の視界に映ったのはブリ雄と同じ背丈で小麦色の肌をした筋肉質の二十代後半くらいと思われる一()の男の姿。


「蒼一様が判別出来るようにするには人間の形を取るのが最善かと思ったのですが」


(お?……おぉぉぉ!?)


突然目の前に現れた正体不明の人間がブリ雄の声で喋り蒼一は激しく混乱するも、腐っても世界である蒼一の高速化された思考能力が実時間においては一秒にも満たない僅かな時間で思考を再起動させ、そして直ぐにその答えに至る。


(そうか、人間の声を出せるよう声帯を弄るのに使用した魔術で、今度は全身を人間に改竄したのか……)


「そうです。正確に言えば全身と言っても表面上だけで中身は殆どそのままなのですが、ただそれでもこれ程の大掛かりな改竄となると流石に不安もあったので、暫く色々と試していたのですよ」


(その成果がこれと、いや確かにこれはすげぇな……)


良い感じに肌の焼けた細マッチョの爽やかイケメンへと大変身を遂げたブリ雄の姿を繁繁と観察した後、蒼一は大変身を遂げたブリ雄の傍に控えていた三匹のゴブリンモドキの方にも意識を向けた。


(ここに連れて来たって事は、この三匹も変身が出来るのか?)


ブリ雄以外に居たのはブリ雄と同じくらいの背丈の雄が一匹、それより頭一つ分程背の低い雌が一匹、その雌に抱えられた赤子が一匹だ。


雄と雌は兎も角、まだ乳飲み子でしかない子供も魔術が使えるのかと蒼一が驚きを露にしたが、ブリ雄が直ぐにそれを否定する。


「いえ、自力では不可能ですので私が魔術を掛ける形にはなります。ここ数日の内に仲間の何体かは簡単な魔術を使えるようにはなりましたが、流石に肉体を改竄する程の魔術となると……」


(まぁ難しいわな……それにしても、へぇー他にも魔術が使える奴が増えたのか。ほぉーん?)


魔術を使う事が出来ないとブリ雄にバッサリと言われてしまった蒼一は、その魔術が使えるようになったという者達に少なからず嫉妬の感情を向けてしまう。


そんな蒼一の内心を感じ取ったブリ雄が苦笑いを浮かべながらも、傍で黙って待っていてくれていた仲間の肩へと手を掛ける。


「それでは蒼一様、こちらの方も宜しいでしょうか?」


(あ、うん。やってくれ)


「では」


集中するようにブリ雄が瞳を閉じてから一拍を置き、次の瞬間ブリ雄の両手が光出し、その光はブリ雄の掌から手を置かれているゴブリンモドキ肩へと伝播していき、その全身が光に包まれてから凡そ三十秒後――


「――終わりました」


そこに立っていたのはブリ雄と同じく小麦色の肌を持つ三人の人間の姿だ。


(おぉ、皆しっかり人間になってるな。赤ん坊の方も……ちなみに俺の声が聞こえるようになったり、喋れるようになったりはしない?)


「残念ながら……そのどちらも知恵の実の影響が大きいのでしょう。一応声帯の方は人間の物と同じに変化しておりますが、言葉の方がまだ」


(ですよねー……そんな都合良くはいかないか)


それでも外見が人間になったというのは蒼一にとっては外見で判別が出来るようになり非常に有難く、今これ以上望むのは贅沢だろうと蒼一はこれから変身を遂げたゴブリンモドキ達の外見と名前を必死に覚える作業に入るのだった。

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