暇を持て余した世界の遊び
(ひーまーだーなー)
ブォン!!
(なんかやれる事ねぇかなぁ)
ブォン!!
(ブリ雄達の方は皆健康的に肉付いて来てるし)
ブォン!!
(木の実を生産する以外にやる事がないものか)
ブォ――
「――何をやっているのですか?」
(ん?ブリ雄か。一体何時の間にそこに……悪い、水切りに夢中になって気付かなかったや)
そう言いながら、蒼一は海に向かって投げようとしていた直径三メートルの岩を地面に落とし、何時の間にやら傍に近づいていたブリ雄の方へと意識を向ける。
「最近、我々の住処である岩山の一部が不自然に削れていると思ったら……」
(洞穴と繋がらないように気を付けて削ってるから別に良いだろ?。それより何か用があって来たんじゃないのか?)
暇で暇で仕方ない蒼一はブリ雄に対しちょっと期待を込めながらそう聞き返すも、ブリ雄の口から語られたのは単なる定期報告であった。
「残念ながら蒼一様のお暇を潰せるような話ではありませんよ。何時もの報告です。本日も仲間達の中で体調不良を訴える者はおりませんでした。皆非常に安定してきてます」
一度は飢え死ぬ寸前に陥っていたゴブリンモドキ達、食料問題は解決したが飯を食った途端に万事解決という程単純な話ではない。
長期に亘る絶食状態のせいで食糧問題が解決した後も暫しの間は体調が芳しくない者もそれなりに存在していた。
そこでゴブリンモドキ達の言葉が分からない蒼一はブリ雄を使って体調不良者が居ないかを調べて貰い、もし体調不良者が居たらブリ雄の知識を借りながら問題解決に当たる。
そうやって問題解決を繰り返す内、最近では体調不良を訴える者も少なくなりここ一週間は穏やかな時間を過ごしていた。
(そっかぁ……皆安定したか。そりゃあ良かった)
「……本当にそう思っております?」
(思ってるよ。流石の俺も自分の暇潰しの為に誰かの不幸を祈るような真似はしないぞ)
祈りはしないが、もし体調不良者が現れれば嬉々としてその問題解決に当たっただろうけど、という副音声は心の奥底にしまいはしたが、ブリ雄の視線は何処か冷たい。
「平穏である事は良い事ではありませんか」
(それには賛成だけどさ。娯楽の類が何もないのがなぁ……)
「仮にあったとしても、蒼一様がその娯楽を遊べるかは微妙ですが」
(むぅ)
実際、手足の存在しない蒼一でも出来る暇潰しというのは非常に数が少ない。
その数が少ない中でも出来る暇潰しが言葉遊びに思考ゲームなのだが、その処理能力の高さのせいで開始からものの数秒で終わってしまう。
後は先程までやっていたように岩肌から削り取った岩を直接操って海に向かって投擲し水切りに興じるくらいで、他に思いつく暇潰しもない。
そんな状況なものだから何か無いかと考える蒼一に、ブリ雄はある提案をする。
「岩を削ったり持ったり出来るのでしたら、オセロやチェス、将棋等は出来るんじゃないんですか?」
(…………おぉ)
ブリ雄のその提案に蒼一はそれは有りだと考える。
今まで一人で出来る暇潰しばかりを考えていたが、蒼一の知識を習得したブリ雄という存在が居る今は二人で出来る遊びも可能なのだ。
「ただオセロにせよチェスにせよ、どうしても駒が必要になるので用意しなければなりませんが」
(ソイツは問題ないさ。今の俺にとってはその面倒も格好の暇潰しだからな)
そう考えてみると、案外暇潰しはあるもんだなと蒼一は駒作りを始めるのだった。
あれから丸一日が経ち、ブリ雄が定期報告の為に蒼一の待機場所となっている海岸へと向かっていた。
まだ一日しか経っていないし、チェスは難しくてもオセロや将棋の駒くらいは用意出来てるのではないかと考えながら森を抜けたブリ雄の視界に、とんでもない物が飛び込んでくる。
「これは……」
それは実物大の精巧な馬の彫刻、しかもただの馬ではなく背に兵が跨った騎兵の彫像、つまり
「チェスの騎士ですか。しかしこれは」
(お、ブリ雄来たのか。悪いな、まだ駒の方が揃ってないんだ)
「蒼一様、駒という事は、この巨大な騎兵の彫像はやはりチェスの騎士なのですか?」
(おう、そうだぞ)
自信満々に告げる蒼一に、若干呆れたような視線を浜辺に並ぶ他の駒達へと向けながらブリ雄は口を開く。
「良くもまぁたった一日でこれだけの彫像を、しかもここまで精巧な作りのものを」
(最初は普通の駒だったんだけど、掘り進める内になんかどんどん気分が乗ってきてな……それで一つだけ精巧なのもバランスが悪いなと思って)
「それで全てが同じようなクオリティになった、という訳ですか。しかしこれ程真っ白な岩を一体どこで――いえ、そういえばそうでしたね」
その白い岩の出所を詮索しようとしたブリ雄だったが、自身の中にある蒼一に関する情報の中に、蒼一が"色"の情報を書き換える事が出来るというものがあった事を思い出す。
「黒の方がまだ揃ってない状態ですか。どうやら今日は遊べそうにないですね」
(ん、何だブリ雄も遊びたかったのか?)
「えぇ、実はちょっと期待していたんですが、駒が揃っていないのでは」
残念ですが今日はと言葉を続けようとしたブリ雄の背後にドンッ!と巨大な岩が落ちてくる。
「なっ!?」
その音に反射的に振り返ったブリ雄の視界に映ったのは片面が白でもう片面が黒の真円の岩だった。
「これは、オセロの石?」
(そっちはチェスや将棋の駒と比べて簡単だからな。もう用意はしてたんだ)
蒼一はそう言いながら、用意していたオセロの石の全てを浜辺まで引っ張り出し半々に分け、砂浜に線引きしてオセロの盤を描く。
(それじゃあやるか!)
「はい!――と、言いたいところですが」
ふとブリ雄が自分の横に積み上げられた石を見上げて言う。
「この石の大きさはどうにかならなかったのですか?どう考えても一枚百キロ以上はありますよね?。チェスの駒はもっと重そうですが」
どう考えても自分が持ち上げられる大きさではない石に対し、ブリ雄がそう不満を口にする。
(………………………………そこは、考え付かなかったなぁ)
肉体を持たないという弊害、物体の重量に関係なく持ち上げたり出来るものだから完全に失念していたと、蒼一は結局全ての駒をリサイズする事となるのだった。
余談だが、チェスと将棋を提案したブリ雄だがどういうものかを蒼一の知識から得ているだけで肝心のルール等については殆ど知らなかった事が判明し、そして当然蒼一の知識を引き継いでいるブリ雄が知らないという事は蒼一もルールに関しては知らないという事であり、作成されたチェスと将棋の駒は浜辺のオブジェトとして飾れる事になった。
蒼一なら大きさと質量の情報を弄れるので作った駒も無駄にはならないのですが、蒼一にとっては格好の暇潰しなので作った巨大駒は全てそのままに、改めて作り直してます。
まぁ最終的には作り直し分も含めて無駄になったのですが。