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平穏の終わりは平穏の始まり

初めての方は初めまして。

シリアスばかりで心が疲れたので、ならギャグとかほのぼのばかりの小説も書こうと本作の執筆始めました。


初回導入という事で何やら不穏な空気が少し出てますが、これも最初くらいです。

何か重要そうな事喋ってますが、本作を読み進める上ではそんな重要な事は殆ど喋って無いので大丈夫、大体がこの小説外の話です。

いやまぁ世界観は共通なのでこの小説にも関係はしてはいるんですが、こっちは設定上シリアスやるつもりはないし、小難しい設定を深く説明する気も無いので気にしなくてもへっちゃらです。

出したとしても表面サラっと撫でるレベルです。

疾うに日も暮れた午後十時の閑静な住宅地、街灯と住宅から漏れる明りに照らされた薄暗い道を一人の中年男性が歩いていた。


名前を『栁井(やない) 蒼一(そういち)』、とあるソフトウェア開発会社に勤めるプログラマーである。

平平凡凡、特段プログラマーとして優秀という訳でもなく精々アルゴリズムを考えるのが他人と比べて得意なくらいで、その代わりというか他人のソースコードを読むのが苦手な中年のおっさんだ。


「ったく、最近の若い奴は……コーディング規約を無視しやがって、バグ取りするこっちの身にもなれってんだ。なぁーにが『僕はこっちの方がスマートだと思います』だよ。社会経験一年目の若造がナマ言うんじゃないよ全く。ただでさえ他人の書いたもんを読むのは苦手だっていうのに、規約を無視した自称スマートなコードなんて読めるかッ」


余程不満が溜まっているのか、午後十時を回り人の姿が無いのをいい事に蒼一は最近配属されたばかりの新人に対する愚痴を零す。


「期待の新人か何か知らんけどさ……どうもプログラマーを舐め腐ってる雰囲気がプンプンするんだよなぁ」


数日前、蒼一は上司からとある新入社員の教育を任された。

何やら院卒で将来システムエンジニアとして活躍を期待されている新人という事で、上流工程(システムエンジニア)の前にまずは下流工程(プログラマー)の経験を積ませるべく、社内でもプログラマーとしての経験の長い蒼一に白羽の矢が立った訳なのだが……エリート意識が強く、システムエンジニアを志望していたという事もあり、プログラマーの事を下に見ているようなのだ。


確かにシステムエンジニアは上流工程、要件定義や基本設計を行い、チームをマネジメントしていく立場であり、プログラマーは下流工程としてその指揮下で働く存在ではあるのだが、あそこまで露骨に下に見られると例え有能でも蒼一としては同じチームで働きたくはない。


「あれが育ったら、アイツの書いた仕様書でコーディングしなきゃならんのかねぇ……」


どれだけ有能であってもシステムエンジニアになるまで最低三年は先だろうが、憂鬱な未来に足取りも重くなり、テンションと共に自然と下に落ちていた視線を正面に向けた時、蒼一の視界に妙なものが飛び込んでくる。


それは街灯の下に佇む一人の人影、遠目からでも分かる白衣に身を包んだ人間が蒼一の方に顔を向けて立っていた。


(こんな夜中に、あんなところで何やってんだ?)


誰かと待ち合わせでもしているのだろうかと考えた蒼一だが、道を二本外れて大きな通りに出ればコンビニもあるし、わざわざ目印も無いこんな場所を待ち合わせ場所にする意味はない。


(春だしなぁ、不審者だろうか)


住宅街で大きな独り言を呟きながら歩いていた自分の事を棚に上げ、少し警戒しながらも仕事に疲れ一刻も早く帰りたかった蒼一は回り道する事無く帰り道を真っ直ぐに進む。


そしてその街灯下の人物の姿がハッキリ視認できる距離まで近づいた時、蒼一はその選択を後悔した。


立っているのは二十歳ぐらいの眼鏡を掛けた男で、遠目からも分かったが白衣を着ており、その視線は蒼一の方に固定されている。


(やべぇ、こっち見てるよ。面倒でも回り道すりゃ良かった)


蒼一と男までの間に脇道は存在せず、横道に逸れるには一度来た道を戻らなければならないのだが、怪しい人間を前に背後を見せるのも嫌だし、何より相手に対して意識している事を悟られるのも不安で仕方ない。


こういうのは関心がない振りをして何事も無く通り過ぎるのが一番だと、蒼一は足早にその男の脇を通り過ぎようとした、その時だ。


「異世界転生に興味はありませんか?」


挨拶も無く不躾に飛んできたその質問に、蒼一は思わず顔を顰めてしまう。


不審者だとは思っていたが、これは頭の可笑しい人間か、将又新興宗教か何かの勧誘か。


(最近そういうの多いしなぁ……それに便乗したなにか何だろうけど)


これは無視するのが最善だと、返事をする事もせずそのまま通り過ぎる、筈だった。


「あ――れ?」


しかし気が付けば蒼一の視界いっぱいにアスファルトが映り、身体は前のめりに地面に倒れ伏してる。


何の前触れも無く、気が付いた時にはそうなっていた(・・・・・・・)この状況に蒼一の理解が追いつけないでいた時だ。


「これが例の堕し児(オトシゴ)か?」


横合いから唐突に聞こえて来た、自分に声を掛けて来た男の声とは別の男の声に蒼一が視線を向けると、白衣を着た男の横に燃えるような真っ赤な頭髪の男が立ち、地面に転がる蒼一を見下ろしていた。


「大半が十代の内に、早い者だと生まれて直ぐに物語を紡ぎ出すというのに、まさか無事にここまで成長するとは……奇跡だな」

「えぇ、それに関しては僕も驚きでしてね。彼なら次の実験に丁度良いかなと」

「入れ物は?普通に人間か?それとも以前にやった筒状の武器のように何かしらの無機物か?」

「あぁ、RPG-7に入れた彼も面白かったですねー。出来れば彼の妻子共々サンプルとして回収したいところですが、後期型の申し児(モウシゴ)が護衛についてるので手が出せないんですよねぇ」

「玖番機の『管理者』だったか?俺でも勝てない相手か?。前に『管理者』の後続機である拾番機と戦った事もあるが」

「無理でしょうね。地力の差もそうですが向こうは三色、単色の貴方じゃ相性が頗る悪い。全力を出す前に殺されるのがオチですよ。第一、拾番機は成長する事を前提にしています。元から完成品として製造された他の『姉妹(シストラ)』達と比較する事自体が間違いなんですから……それに今の彼は貴方に届き得る程の成長を遂げていますよ?」

「……流石はオリジナルの模造品、とでも言っておこうか」


(なんだコイツ等、人の横で訳の分からん話しやがって……あぁクソ、やっぱ頭の可笑しい奴だったか)


どういう訳かまるで力の入らない自分の身体、逃げる事はおろか指一本すら動かせない状況に焦燥感を覚えても可笑しくない状況なのに、あぁ。


(駄目だ、意識が……朦朧として――)


訪れるのは焦燥感ではなく多大なる脱力感、このまま意識を失えば間違いなく碌な事にならないと分かっている筈なのに、どうしても押し寄せる脱力感に抗う事が出来ない。


「で、コイツは何に入れるんだ?お前の事だ、もう決めてあるんだろう?」

「勿論、ここまで平穏に生き続けていた貴重なサンプルですからね。適当な人間に入れてアッサリ死なれては管理も面倒ですし、誰もが迂闊に手を出し辛い物に入れようかと」

「それは?」


蒼一が完全に意識を失うその刹那、赤髪の男の質問に白衣の男は口角を吊り上げて答える。


「彼には"異世界"に転生して貰います」

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