HRF Security & Research 社 日本支部
警護員杜山と詩織とブックサンタ
私の誘拐事件のせいで、チームのみんなが校門脇で立哨する事になった。
この立哨、全員制服ですごく目立つ。
私は学校で目立ちたくないから、せめて私服でと言ったら、湊さんはとても申し訳なさそうに「高坂社長のご指示です。ご不快でしょうがご理解ください」と言った。
パパは神戸の警護は私が指示しろって言ったことを忘れてるのかしら。
この立哨は正門と裏門、1人ずつが立っているのだが、学校が女子高なせいもあって最近はコンテストのように人気順位が噂話として学校中の話題となっている。
一番人気は杜山さんでやっぱりどの学年でも人気があり、さすが女性に苦労したことがないと公言するだけある。
一時期、杜山さんの前でわざと物を落として拾ってもらうのが流行ったくらいだ。
2番目は朝海さんで身長は少し低めなんだけど、物腰がすごく柔らかくて優しいと人気がある。
例の物を落として拾ってもらうというやつではなく、本当に大切なものを落としてしまい、探し回るその姿を見かけた朝海さんは声をかけ、勤務時間外で一緒に探してくれたそうだ。
結局見つからなかったけど、その子を中心に噂話は瞬く間に広がり、「優しいってマストだよね」と一気にランキングを駆け上がった。
3番目が湊さん、小耳に挟んだ情報だと湊さんは「あの人って雰囲気イケメンであって、顔は普通だよね」と人気がない。
スタイル良くて頼りがいもあってカッコいいのに。
みんな目が悪いと思うと咲良に愚痴ったら、「みんなが詩織みたいに助けて貰える訳じゃないもの。当然じゃない!」と呆れていた。
でも、ライバルが少ないのは歓迎すべき事よね。
そんな2学期の期末テストの最終日。
神戸の街も、あちらこちらにクリスマスの飾り付けが始まり、華やかになった頃、私は学校帰りの車内で杜山さんのクリスマスの予定を聞いた。
「ねぇ、杜山さん、今年のクリスマス、お休みなんでしょ。何かする予定でもあるの?」
私は明日からテスト休みでクリスマスはお出かけ予定なのに、今年の杜山さんは珍しくお休みにしていた。
これはやっぱり横浜で彼女とか女の子と遊ぶのかなぁ、と私は漠然と考えていた。
「今年のクリスマスはサンタをやります。ボランティアですね」
杜山さんからは欠片も想像しなかった事を言ったので、私は物凄く驚いた。
「ええっ! 杜山さんがボランティア? そこに狙ってる女の子がいるからとか?」
運転中の一ノ瀬さんは思いっきり吹き出し、杜山さんに睨まれていた。
だってサンタもボランティアも全然杜山さんのイメージじゃないんだもん。
「詩織お嬢様、無線が録音されているのをお忘れですか? もう少しオブラートに包んだ言い方を致しましょう。良家のご息女なのですから」
バックミラーに映る杜山さんはちょっと困った顔をしていた。
「杜山さんなら大丈夫。報告書には書かないって信じてるもん。ねぇ、サンタってお菓子でも配るの?」
私は昔、幼稚園に来たサンタを思い出して言った。
「いいえ、配るのは絵本です。今回は藍野先輩の代理です」
ボランティアで子供に絵本を届けるんだって。
サンタ役は子供の夢を壊さないように、講習を受けた男の人しかやれないそうだ。
湊さんは背も高いから重宝されていたらしい。
そういえば今年のクリスマス、パパと一緒に神戸に来て、その後は私に付き合ってで、湊さんは神戸だもんね。
「へぇ、藍野さんの代理かぁ。グループの保育園とか幼稚園?」
「いいえ、ごく普通の一般家庭です」
基本は希望した家庭をサンタの格好をして絵本を子供に渡すけど、中には家庭の事情があってクリスマスを祝えなかったり、プレゼントが用意できないお家もあって、そういうお家ではとても喜ばれるそうだ。
絵本はちゃんと本屋さんで買った新品で、誰かのお下がりやお古じゃない、プレゼント感と自分だけのもの感を出すのがポイントだそう。
「詩織様も誰かのサンタになってみますか?」
ちゃっかり杜山さんは私に宣伝をしてきた。
「へぇ、神戸でもできるんだ!」
「もちろんです」
サンタになるには提携している本屋さんで好きな絵本を購入して、そのままボランティア団体に回るのだそう。
私が選んだ思い出の本がプレゼントになって、誰かのクリスマスの思い出になってくれるのは素敵なことよね。
「じゃあ杜山さん、明日はその本屋さんに連れてって」
「承知しました」
私は小さなころママやパパと一緒に読んだ思い出の絵本を何冊か思い出して、懐かしさに浸り、喜んでくれるよう真剣に脳内で絵本のチョイスを始めた。
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