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 風に舞わされ、投げ出される様に林が見える三叉路(さんさろ)の真ん中。


「痛っ……! ここどこよぉ? ……え!? ……嘘」

 立ち上がるとメガネをかけ直し、(ほこり)もはらわず答え合わせをするように林を抜けていく。息が切れるのも忘れて……ただひたすらに、久しぶりに全力疾走というものをしてみた。

「嘘嘘嘘……!」

 思い出のままの門扉をくぐると玄関に滑り込む。目からはいる情報も何処からともなく漂ってきた鼻につく防具の匂いまでもが懐かしい。家に帰ってきたんだ、体全体がただいま! と訴えている!



 涙が溢れて滲んで見えてきた景色に歓喜した瞬間、今朝まで(かたわ)らにあった愛しい人のはにかむ姿が脳裏にフラッシュバックした時、意識が(かす)れて玄関に倒れこむ。

 ガタン!




 ふと気がついたら玄関で物音がした気がする。道場の納屋に住み着いた猫の子がまたイタズラでもしたのだろうか……。

 もう長い事まともに笑うこと無くソファーに倒れこみ、朝から夜まで電話を眺めてはぼーっと鳴るのを見つめているだけの表情(かお)で、何かを期待しながら、いないものを確認する為にその音の方に寄せられていく。


「……はぁ」

 ため息まじりに引き戸をあけて重い足を一歩一歩踏み出す。

 ひゅ!

 息をのむ。そこに倒れこんでいたのは、髪の色こそ違うけれど、見間違えるはずの無い愛しい我が子……。


「あああ……」

 震える腕でもう決して離すものかと抱え込む。




 次に目を覚ましたら寝室のベッドだった。

「こっ……これ、絶対知ってる天井だ……!」



 興奮気味に体を起こすと何かしらの違和感を覚えて顔に手をやろうとした自分の手首に、自分が愛用していた……。


「あたしの……リボン?」


 それは手首にしっかりと結わえられ、不器用に連結されベッドにすがり付くように寄り添う母の手首に繋がっていて……母の目は真っ赤に腫れて涙にぬれて震えている。


 ドクン……


「お母さん……」

「……!」

 ミナヅキからの問いかけに言葉にならずにウンウン頷く母は、その手を引き寄せると力の限りに娘を抱き締め泣き叫んだ。

「わぁぁぁぁ……!」



 もう会うことは叶わないと思っていた母の温もりがそこにはあった。どれぐらいそうていただろう窓の外は夕暮れ時をおしえてくれている。

 こんな風に泣く母を初めてみたミナヅキ。当たり前の様に与えられ気にもしなかった事、自分がどれだけ親に愛されていたのかを知った気がする。


「起きたのか、享!」

 駆け込んできた父を見る。想像より老けているし、そこはかとなくやつれてもいて驚いた。しかも、あんなに家庭を顧みなかった人がお玉を持ってエプロンをしていた。

「享……」

「え……あ、ただいま! こんな時間に父さんが……?」


 ちょっと複雑そうな顔をして横を向く父はどこか居心地が悪そうだった。

「……母さんが落ち着いたら、こっちに来なさい。飯にするから」

「……はい」





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