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「はい、トオル様! そうみたいなんですよー♪」
メイドさん達に聞くところによると、お義父様のしおまねきは年若い様で自分より一回り甲羅が立派なカニエール君にやたらとご執心の様で、ひたむきに後を追いかけて回っているという。でもその一方、カニエール君はクールなものでスピードを緩めその子が見失わない位に、面倒はみるけれどそこまで気にはかけていない様で、追いかけっこ感覚で逃げ回っていると聞く。
「青春まっしぐらだねぇ……」
「ホントですよねー」
年が近いメイドさん達とは女子トークをしてしまうが偉い人には残念ながら内緒なのである。
「よろしいでしょう。明日はお休みと致しましょう。それではごきげんよう」
貴婦人のお手本みたいな綺麗な礼をし、ご婦人が帰られる。
「ありがとうございます! マダムシャンティ」
ここにきて新たに指導を仰いでいる家庭教師のマダムシャンティからようやくで及第点を頂くと明日は数日ぶりのオフの日になる。
「若奥様、明日は何かご予定はございましたでしょうか?」
授業終わりでお茶を入れながらリンクスからリサーチがかかる。
「んー……明日はお勉強がお休みの日なのでこの世界で最初に来た砂浜に皇でも誘って行ってみようと思います。あとあたしの事はトオルと呼んで下さいとお願いしているのですけど……」
「ふむふむ……畏まりました若奥様。明日はお弁当を準備致します」
「むぅ……直す気皆無ですね……ぷー」
シドさんとお義父様達とで朝食を済ませると、リンクスを連れだって砦に向かう。
直に返す予定の自室……家具や感慨深く眺める。窓から見える景色も懐かしいとさえ思える程だ。
「……色々あったなぁ」
暫くするとジェネッタがやって来た。
バタン
「あ、ミナヅキ! アンタん所の刀見なかった?」
「皇ですか? あははは……? 今日はまだみてないで~す。どこか行くんですか?」
「あらそう? うちの討伐の範囲ギリギリのところに大型モンスターが出たとの報告があがってきたのよ。折角だからあの子に腕試し? させてあげようかと思ったんだけど……」
ちょうど暇潰しになりそうな話題が投入されてついつい立ち上がってしまうミナヅキ。
「え? なにそれ楽しそう! それ、あたしが!」
……ぽん!
「……あ!?」
背後から肩を掴まれ軽い威圧を感じる。
「あははは……状態ですって! リンクスさん、聞こえてますかぁ~? ほらほらスマイルですよ~♪」
「もー、どこいったのよ! ほんとにー」
バタン!
「若奥様、ここに至るまでの事を思い起こし、くれぐれも危ない真似はお止めくださいませ!」
「皇、……浜辺に着いたらポケットからでるのよ?」
『あい』
懐かしい塩の香りがする。そこは変わらぬ砂浜、空を大型の鳥類が闊歩し、浜辺は実に穏やか……。
「あたし、ここでシドさんやとカニエール君と出会ったんですよね。とにかく生きるために必死だったんだと思います。で、気がついたらシドさんに張り付いていて……」
「お二人のなれそめでございますか」
「あ! ……うぅ……そうなります」
無意識に話していたせいか、相手に指摘されると恥ずかしくて挙動不審になってしまった。
「此方にテーブルを設置致しますね」
「あ、はい!」
「何か纏わりついてくる気持ち悪い風が出てきましたね……明日は雨かな?」
と、そこに一際大きなつむじ風が。
「うきゃ……目に砂が!」
渦を巻きつつミナヅキ目掛けて吹き抜ける。
「最悪だ…この風危ない! 知気を付けて!」
「トオル様!」
リンクスが手を伸ばすも一足遅く……一瞬の出来事。イタズラに駆け抜けた風は浜辺に窪みを作る程に砂をえぐり霧散していった。主は消え、浜辺の木々も渦を巻いていた風の勢いで一部薙ぎ倒された。




