93+α
「あの子、お義父様の従魔になったんですか?」
「そうなの、トオルがあの魔物をテイムするかもしれないのに……」
朝食時にエマ義母様が困り果てた表情で教えてくれる。
朝までにミナヅキが連れ帰ってきたしおまねきをまんまと自分の従魔にしてしまったことにエマは大きく憤っているようだった。
「力にモノを言わせて人のものをかっさらうみたいな事を止められなくて本当にごめんなさいね」
「いえ、エマ義母様あの子が選んだのならこれ以上素晴らしい飼い主さんはいないので問題なしですよ」
「考え方によっては旦那様の従魔をなんとかしようとする愚か者はいないとみてよろしいかと」
「その入れ知恵はお前ですか?リンクス」
「あー、リンクス。しおまねき達は今はなにしてますか?」
「今は若奥様のしおまねきと共に中庭でお散歩中で、不死鳥はまだお休みの様です」
「ぶっ! あの夜型の鳥目は朝遅くて夜元気って、学生か!?」
「そう言えばお義父様とシドさんは?」
「旦那様とシドニール様は昨日から王都ですのでお帰りは予定通りですと三日後で御座います」
「え? お義父様は昨日いたような?」
「……そうで御座いますね、シドニール様は王都でただただ真摯に業務に向かわれておられると報告が来ております」
一緒に行ったのにシドだけ帰って来ないのは何故かと疑問に思ってみたが、頑張っている様が手に取るように想像できてしまうミナヅキは、それを応援すべく家で大人しく待つことにした。
朝日の差し込むリビングの窓を開けて辺りを見回すと眼下には程よく整えられた中庭が広がっている。どこ迄がこの家の敷地なのかはちっとも分からないが、良く見てみると、木々の隙間から七色に輝く甲羅が反射していた。
「カニエール君達は割りと近くにいるんだね」
不意に後方から声がかかる
ドサドサドサドサ……
「若奥様……本日分のテキストは此方に置かせて頂きます。少し控えめに致しましたから早々に終わるかもしれませんね、それでは失礼致します」
「うぐぅ……ありがとう、リンクス……」
しょんぼりとしながらソファーに腰かけ、本を手に取り捲り始める。
どれぐらい経っただろうか一冊の半分を読み終えるかどうかのタイミングで目の前が揺らぎ、そこにシドが現れた。
「あ…れ? シドさん? おかえり?」
「悪い、昼まで寝かせて……」
そう言い残すとミナヅキの膝に倒れ込んで……落ちた。
「シドさ……!」
既にすぅすぅ寝息を立てて寝入っている。サラサラの髪の毛を優しく撫でるミナヅキの表情はどこ迄も穏やか。
「お疲れ様です」
「おやおや……」
リンクスが膝にシドをのせて一緒になってうとうとしているミナヅキから本を取るとそっと出ていく。
「あなた! もうやめてくださいまし! いくらわたくしが癒しても、こんな調子ではあなたの体は次の魔法に耐えらません!」
すがり付く妻を見やることなく、自分の世界を極めていく。魔法石で底上げし、老体に鞭をうち次なる一手をなりふり構わず模索する。
「うるさい、うるさい、うるさい! 黙れ愚鈍のモノめ、余のいく道を阻むでないわ!」
長年懸命に寄り添うも、迷い人が現れてからというもの、聞き及ぶその豊富な魔力、豊かな才能に嫉妬し、こちらが何を言おうが思いは通じず、老人は妻をなぎ倒すとその豊かな髪を鷲掴みにする。今日ここに来ただけで既に所々傷だらけになり、苦悩に揺れる王妃の瞳からは大粒の涙が溢れる。
「そうだ、そなた余を愛しいと思うなら、そなたにあっても何の役にも立たぬその魔力をわしに寄越すのだ! それが良いなぁ! うぐ……ゲホゲホ……ぐは!」
幾度となく癒しを与えられ、修復され続けた体は次第に術を受け付けなくなり、体の芯から綻ほころび始める。
「お止めください! ……お願いですから……ああぁ、あなたぁ!」
「なにが、ルディオじゃ! なにが聖女だ! 皆で余をバカにしおって! 今度こそ、息の根を止めてやるのだ!」
このごろでは、己の欲求に関して以外何も聞き入れなくなってきている。
「こんなになるまで願うなんて!」
「わたくしも一度だけ貴方の願いを共に祈りましょう。あの不届き者を惑わしてご覧にいれますわ」
それに手を貸す聖女。




