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ミナヅキはマーヤに最低限に髪を揃えて貰う。
「はい、ミナヅキちゃんできたわ」
「わぁ! ありがとうございます! お手数おかけしましたぁ」
ハサミを片付け、床の髪の毛を処理する。
「いいのよ。でも、女性の髪のをこんなにするなんて、犯人の頭は全員虎刈りで良いわね」
「あはは……女性の敵にはマーヤさん厳しそう。怖っ」
「貴族社会ではどんな事でケチを付けられるかわかったもんじゃないのよ?気を付けないとダメよ?」
穏やかに微笑みながら優しく教えてくれる。
「マーヤさん、皇の事ありがとうございます」
「いえいえ……お手伝いして貰ってるのだから逆にこっちがお礼を言いたいくらいよ」
やること無さすぎてストーカー化してたので、その力をこの砦で役立てて貰う事にしたのだけれど。空いた時間はミナヅキを守り、この頃は討伐隊にも参加しているらしい。
「適材適所?楽しそうに息抜き出来て良かったです。あたしだってたまにはそーゆー活動も行きたいんですが……」
「ミナヅキちゃん?」
後ろから肩に手を置かれて振り向くとマーヤさん……の笑顔の圧!
「ひい!しません!しません!すみません!!」
この前、拐われて騒動になったミナヅキにそんな許可が簡単に出るわけない。
「……やぶへびだわぁ……」
ヒヤリとしたミナヅキ。
部屋の隅に置かれた大きな卵形の籠の中から突如として大きな声がする。
『ぽっぽっぽー……へとぽぽー!』
籠の中から頭がひょこっと持ち上がると外に飛び出す。
「ぶっ!ハレルヤ起きたんだ。ほんと変な事ばっかり覚えてるね、ハレルヤ!おいで」
『おーけー、オーケー!』
目標を見定め、助走を付けてバサバサ飛んで膝に乗り、もうワンクッション、必死に羽ばたき肩に乗ろうとしてくる。
「あははは……羽根でビンタされてる気分だよ。イタ!タ……ハレルヤ、ちょっぴり飛ぶ練習しないとダメかもねー……」
文明の下、部屋や廊下の明かりの下で生活しているからか、鳥目の癖に夜型のハレルヤ。運動不足なのか元は大きめの鳩位の体だったのに、今では野生ではあり得ない大きさに変わりつつある。成長(老鳥)はもっと大きく孔雀の様だったが、こう……縦ではなく横に伸びたこのメタボ鳥。
「シドさんに予定を聞いてみて、これ終わったらお散歩いこうか」
「じゃあお茶の仕度をするわね」
「ありがとうございますマーヤさん!」
『おさんぽーぽーぽー!』
「ハレルヤ、たのしみだねー」
各自準備をしたら、砦の入り口で集合する。
「じゃあ行こうかミナヅキ」
「シドさん、ありがとうございます!ルディオも手を出して!」
「うむ、こうか?」
景色が揺れると頭がくらくらしながら着いたのは大森林の入り口。
ミナヅキには、最近分かったことがある。…瞬間移動も人により上手下手があるらしい…と。自分の口が割けてもそんなこと言えやしないが、シドの時だけ漏れなく酔うのだ。車の運転の様に、転移させる術を行使する術者の技量が左右するようだ。その証拠に兵長のはちっとも平気なのだ。お義父様の所も複数人ができるらしいがそれぞれらしい。経験を積んでシドにももう少し慣れてほしいミナヅキである。
「これは…緑が心地よいとは思わなんだが、素晴らしい風景だな。」
「ねー、世界には美しいモノが溢れているんですよ。」
シドが難しそうな顔をはじめた。
「皮肉な事に美しくないモノも沢山あるのだろうがな。」
「美味しいものを食べて癒されましょ♪今日は、おやつも沢山持ってきましたよ~。」
「おお、それは僥倖♪ありがたく頂くとしようか。」
『リンゴ!リンゴ!』
シドの懐からハレルヤが叫びカニエール君が飛び出そうとする。
「あ!カニエール君!今日はハレルヤも連れていって!お散歩コースを教えて遊んでやってくれないかなぁ?」
カニエール君が一瞬考えると、ご自慢のハサミでハレルヤをクイクイ呼んでいる。
「沢山遊んだら後でたっくさんリンゴ食べようね!」
『あそぶー!たくさん!リンゴー!』
カニエール君の上にハレルヤがしがみつき、森の彼方に消えていった。
「さて、あたし達も行きますか。」
「うむ。」
すっとシドに手を掴まれて、森の奥まで歩いていく。




