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「あ、またここに来ちゃったんだ」
白亜の宮殿の奥深くに自分は立っていた。
何かをけしかけられる度に脱皮してお返しているわけだが、何やら近頃は段々と弱ってきてるのではないかと思われるこの老人。玉座と思しき高みから感じられる威圧感は感じられるのに回を重ねる毎にそれ以外のモノが目減りしている気がする。
『許さぬぞ、穢らわしい異世界人め……』
一歩一歩前に進む度に老人は威嚇してくるけれど、何かを消耗し過ぎて震えている様にみえる。
「ねえ……いつまでこんなことを繰り返すの? あたしは平気だけど、あなた結構弱ってきてるよ? 気付いてないの?」
『……黙れ……貴様の様な下賎の輩など……余は認めぬ……騙されぬ……』
突き出される手がもう上がってない。
「そこそこで諦めないとおじいさん……早死にす……」
折角喋っていたのに一気に現実世界に返品された気分だった。
「ばかだなぁ……頭痛い……」
目を開けたらまぶしい日差しと見慣れた天井だった。
「良かった!ミナヅキ目が覚めたのね。バーマン様を呼んでくるわね」
「主様!良かったです」
今回は半日位で目が覚めたらしい。皇は泣きすぎたのか目元が大変なことになっていた。
朝から起こしてもピクリとも動かないミナヅキに驚くも段々症状が軽くなってきているのでそこまで問題視もされなくなってきていた。
「ミナヅキ、おはよう。気分はどうじゃな?」
兵長がミナヅキの手を取って目では確認出来ないモノを確認しているらしい。
「……二日くらい休まずに寝不足になってひたすら働いているみたいな? かんじです?」
「それは……最悪だのぅ」
思いっきり嫌そうな顔で手を放すと体調の悪いミナヅキのベッドの横に置かれている椅子に腰かける。
「これで三回目かの……アレは元気そうだったかの?」
「……いや、段々何かが目減りしてきてるみたいでほとんど動けてなかったです。もうやめるように言ったんですけど」
聞くところによると、夢の中に出てきた老害的なおじいさんは兵長やお義父様も知っている人物らしい。
あの弱々しい様子を見ていると何だかこちらが苛めているようにも見えてくるのが不思議だ。
「もしあのおじいさんが友達なのなら止めてあげたらどうですか?」
「……友達だったらな……」
表情一つ変わらない顔で軽く否定してくるとか……。
「……違うんだ(笑)あははは……」
この世界も皆仲良しとはいかないみたいだね。どこの世界も一緒なのかな。
「あたしが住んでた世界も平和そうに見えて蓋を開けてみたら違う所もたくさんあったんです。戦争ばっかりしてたり、力で押さえ込んだり……どうして仲良くできないかなー」
「それが人というものなのかのぅ。そこまで規模が大きくならんでも、妬み嫉みは捨てられない者もおるよ」
「あのおじいさんはあたしの何かが羨ましいとか妬ましいとかなんでしょうか」
兵長がため息をつき窓のそとを一瞥する。
「だからといってあんな老害の我が儘をきいてわざわざ死んでやることもないしのぅ」
「まあ、そうですね」
「そんな人でも最後の時くらいは穏やかに逝って欲しいけどな……」
「ミナヅキ……」
「はい?」
兵長の手がミナヅキを優しく撫でる。
「……ありがとうございます」
「あ、そうそうピクシーは元気ですか?」
「ああ、母子共にすこぶる元気にしておるよ」
これまでとはうってかわって感情豊かに喜びを体現している兵長に安心させられる。
コンコン
ドアの外で待機しているだろうジェネッタが次の予定に繋ぐためにここでの終了を知らせる。
「では、そろそろ行くが、脱皮するまで安静にのう」
「はい」
「ミナヅキ! 大丈夫かぁ!!」
入れ替わるようにシドが慌ただしく入室してきた。
「シドさんおはようございます! 聞いてくださいよ。すごく怖かったんですよー」
「可哀想に!」
ベッドに腰かけたシドにしがみつき膝枕の状態に持ち込んだミナヅキはホッとため息をつく。
「……抜群の安定感……」
「ん? どうした?」
「何でも無いで~す♪」
一週間はいまいち調子の悪そうだったミナヅキもつるんと脱皮したらスッキリ爽快、晴れ晴れしく日常に戻っていった。




