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「わっ私は! お二人に一体何を!?」
さっきから茹でダコになりながらも無言で四葉のクローバーを絶対離さない二人と、その事象を自らが引き起こしてしまった事に対する驚きと後悔と反省が交互にイグニスに変な汗をかかせ、彼の心を妄想やら何やらが蝕んでいく。
「あああ……どうしよう! 私は気付かぬ間になにかしでかしてしまったようだ!! 神よ私は何と罪深い事を……!」
その姿に既視感があるシドは、無意識にイグニスの肩を叩いていた。
「だだだだ……大丈夫だ! 君は決して一人じゃない! 俺もついこの間凄い冤罪の嵐で死ぬほど落ち込んだんだ! 俺で良かったら話も聞くし、一緒に泣くよ!」
「とっ友よ!」
男二人が泣きながらハグしようとしている。とてもシュールな光景を遮るようにミナヅキが口を開く。
「あー、シドさんと初めて会った日にシドさんがあたしと二人で結果朝チュンになって周りからも公認になったみたいなやつですか? 懐かしいですね♪」
「!!」
その一言でイグニスの涙は引っ込み無言で三歩後ろに後ずさる。
「ちっ違う! だからそれはわざとじゃないし! 俺のせいかもだけど……、実際はそうじゃなくて……冤罪なんだって! いやちょっと待て、……君らまで何故そんな蔑むような目で俺を……はっ! もしかして疑ってる!?」
今さっきまで真っ赤だった少女二人もいつの間にか護衛騎士イグニスの後ろに隠れて此方を伺っている。
「どうしたの? ティア……」
「ティナ、この人危険……」
「だーかーらー! 違うんだって! 俺の話を聞けってば!」
シドがへたれこんで泣いている。
「もうヤダ……」
『おきた! おはよー!』
「あ、ハレルヤおはよう♪ 今シドさんを囲んで皆で盛り上がってた所だよ」
『やったね! シド、オメデトー! オメデトー!』
「ううう……有り難くない……」
『メシ! ミナヅキ! リンゴー!』
『リンゴ! うまい!』
「きゃあ! 可愛い!」
「さて、イグニスさん、そろそろお昼にしますか?」
「そうですね、私もなにかお手伝い致します」
ミナヅキがお弁当をポケットから出して手渡す。砦の料理長こだわりのお弁当とたくさんのリンゴ達。
「わあ、見たこと無いお料理が沢山!」
「料理長が、あたしの故郷にあった味を再現してくれたんです」
「それは素敵ですね!」
「まあ、主な理由はあたしが料理食べたさにキッチンに入らない事らしいのでちょっぴり納得いかないんですけど」
「まあ、ミナヅキは自分でお料理を作れるの? 凄いわ!」
「ええ……まあね」
「まあ、お爺様にご馳走したのね。凄いわミナヅキ」
お弁当を楽しく食べながらお料理について話をしていた。
お昼が終わったら帰るまで皆で思い思いの時間を過ごす。
二人はイグニスを挟んでハレルヤに言葉を教えていた。カニエール君は近くの大木の根本でお休み中。
ミナヅキは、拗ねて体育座りをしているシドの隣に座る。
「シドさん……きて」
ミナヅキが自分のお膝をポンポンするとシドは渋々膝枕に収まる。と、ミナヅキはシドの膨れた頬っぺを人差し指でぷすっと押すと撫で撫でしていた。
「いい子、いい子」
「……うん」
シドは自分を、大事そうに自分を撫でる手を捕まえるとミナヅキの手を絡め取ってその手に頬擦りすると優しく口付け、掌を優しく撫でたり指先でいじったりとにかく弄ぶ。
「あっ……」
ミナヅキの頬が紅葉していく。
シドは掌を弄りながらイタズラっぽく見上げる。
「ミナヅキ?」
「……うぅ……好き」
満足そうに微笑むシド。
「もう。シドさんったら……」
「……あれが大人……」
少し離れた所で繰り広げられている恋人達の姿に釘付けで目を離せない二人は、自分たちも膝枕をやりたいけれど、恥ずかしくてとても言い出す事ができない。
ごくり。
その日、気持ちだけが少し大人になって帰っていった二人の少女。




