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 ぐい!

 砦内の廊下を歩いていたとき急に隣から袖を掴まれたシド。


「ん? どうした?」

「もうすぐ春だなぁ……、おい」


 同僚ディモニーが片手に持ち歩いていた大きめの穴の空いた広報紙を広げて顔を隠して立ち止まると、その目の前を春物の衣装に身を包んだ休日の女子職員たちが楽しそうに歩いて行く。

「……そんな当たり前の事……それがどうしたんだ?」

「なあシド、あれみて何も感じないのか!?」



「は?」


 この上なく幸せそうにため息をついて眺めて呟く。

「お前もさぁ、うちょっと本能に従えよ……? 春は女の子達の薄着が始まる季節じゃないか、脱がす手間(たのしみ)は無くなるが、解放感に女の子達のガードも一気にゆるくなるんだぜ? これはチャンスだ、最高だろ?」


「あ"!?」

 シドの怒りが光より早く、不届き者の脇腹目掛けて一発食らわせている。

「げほ! ぐほ! 何すんだよ、お前!」


「黙れカス……天誅だ……。」

「くっそ、痛ぇな! 足の骨折も治ったばっかりなのに何すんだ……くぅ」


「貴様は真面目に仕事をする気にならないとだぞ」

 付き合いきれないシドは歩みをすすめる。


「待てよ……相変わらず冗談の通じない野郎だな……まあ今年こそ俺も愛しのハニーちゃんを迎えに行かなきゃだけどな!」


 兵長に伴って施設内を移動する先輩の姿。その落ち着いた雰囲気が醸し出す色気がなんとも言えない。今日もいい女である。


「……ジェネッタ先輩の事も俺に任せとけ! あのタイプはぐいぐい来られるのに弱いんだ。そのうち俺がガンガンデレさせてやんよ? くぅ! 皆まとめて嫁にもらってやるからな!」

 (くだん)の先輩に投げキッスを繰り出……

 ザシュッ!

 ……した瞬間に目の前を(かす)めてディモニーの目の前にダガーナイフがガツンと突き刺さっている。

「ひいいいいー」

「お前は命知らずなのか……?」








「こっこんにちは」

「ようこそお出でくださいました、御客様」


 親友ピクシーのお茶会にお呼ばれしたミナヅキ。

「奥様がこちらでお待ちです」

「いらっしゃい、トオル♪」

「こんにちはピクシー! 今日も素敵ね~。やっぱりナチュラルな色彩も着こなせるようになりたいわ」


 いつもよりナチュラルな装いのピクシーがふんわりタッチでお迎えしてくれる。親愛のハグ。こころなしか背丈が低く感じる。


「ん? ピクシー、今日はヒールじゃなくてパンプスなの?」

「ふふふ……やっぱりすぐわかっちゃう? 実はね……」



「えー何々?」

「ゴニョゴニョ……」

 耳打ちで、小さく何かを告白する。



「うそ!」

「……ええ」

 ミナヅキは興奮気味にピクシーをハグする。


「おめでとう!」



「まあ、御客様も奥様もこんな所で立ち話もなんですからおかけになってはいかがですか……?」

「ふふ……ミーナありがとう、大事にしないとだわ。座りましょうか」



 ソファーに腰かけるとミーナがピクシーのお腹がが冷えないようにひざ掛けをかける。

「所でトオルの所は、結婚式のご予定はいつなのかしら? 出来れば参加したいと思うけれど。わたくし出れるかしら?」

 急に自分に向かって放たれた言葉の矢に射ぬかれたミナヅキは必死に羞恥の表情で否定しないながらも戸惑いしどろもどろしている。

「えええ! それは……えっと……まだ早いよピクシー! だって恥ずかしいし……あのその……急がなくても……」


「ふふふ……、初々しいのは結構だけれど、さすがに相手が筆頭公爵家のご長男となれば……ねえ」 

「やだやだ! 恥ずかしい……うぅ」

 いつもは強気なミナヅキだけれど、自称庶民代表は主役に大抜擢される事には慣れていない模様……。

「でも親しい者や身内だけのガーデンウェディングも素敵でございますよ?」

「そ、そうだよね、それって素敵だと思う♪ うんうん」


「ふふふ、トオルは存外照れ屋さんなのね」

「あたしみたいな庶民代表はこれまで散々目立たず堅実に生きてきたんだから今さら主役は厳しいのよ……」




 常に突飛な行動をしないように、周りに合わせるように、協調性というものを叩き込まれてきた、いいのか悪いのか分からない教育の成果が、カリキュラムも届かなそうなこんな異世界(ところ)で炸裂するとは、文部省もびっくりであろう。



 土地を治める貴族のご子息様の結婚ともなれば沢山の民衆の目に晒されるだろうという気恥ずかしさにうち震え悶える庶民代表と、元々貴族だから、気にしないピクシーとの見事な対比が特徴的なお茶会であった。

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