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「ぐぬぬぬ……ミナヅキ……、なにをどう想像したらそんなものができるんだ?」
シドさんは先ほどから額から汗を流しながら真剣に考え続けている。これについて詳細な説明を求められてもあたしにはお手上げなんだけど、感覚で伝えられたら何とかならないかな?
「イメージとしては、永続的に自分の側にあって、中に入れた物の時間を止めて腐敗することがなくて、ちゃんと整理もできて、とにかく沢山……そう、シドさんなら兵長自慢のストックルームのアイテムが全部はいる位! そんなイメージで空間収納を作れるように……でしょうか? 例えば」
あたしはシドさんの手に自らの掌を絡ませるとポケットに一気に手を突っ込むと中の空間で指を離しりんごを掴ませて一緒に取り出す。
「こんな感じで?」
「ぬぉ……! これは一体どうなっているんだ。更に分からなくなってきたぞ。……そもそも俺にそんな事が出来るんだろうか……。なんなんだこの魔法は……」
また難しい顔をしてりんごと睨み合っている彼を見守りながら、あたしはハレルヤに、新しい言葉を教えている。
「よ、よ、よろしくおねがいします!」
『よろ、しくよろー! しくよろー!』
「了解です」
『りょー、りょー』
「荒巻鮭」
『あらしゃけー! しゃけー!』
「なまむぎ なまごめ なまたまご」
『なまむーぎー、タマたまーごー』
「……ジェネッタお姉さん」
『ドコカニ彼氏オチテないかなー?』
「……ちょっ! なんでそーゆーのだけはちゃんと覚えてるのよ!」
変な言葉しか覚えないとか……。教える側の真剣さの問題かしら。
木陰から春の陽のあたたかさが感じられる。その眩しさに見上げると空は雲ひとつない青空。
「もうすぐ、半年かぁ」
優しい風がそよそよとあたしの前髪を揺らす。
いきなり連れてこられたこの世界だけど、随分仲間も増えて愛着も沸いてきたものだなぁと感心する。
「……そろそろ出てきたらどう? 皇、起きてるんでしょ?」
先日からずっとこっそり収納ポケットに隠れている皇に問いかける。
あたしは日本刀を掴んで出すと、柄を撫で、そっと頬擦りする。
ぽわん
『……主様……』
あ、戻った。
しょんぼりしている少女皇を膝枕する。柔らかなブランケットをかけてあげてついでに頬っぺをむにむにしてやった。にひひ。
『はうう……主様……』
「どうしたの? 兵長にいいように眠らされたの、そんなに引きずってるの?」
その出来事を後から聞いたあたしだったけと、相手が兵長と聞いて仕方ないかも? って思ってしまった。
「うん、上には上がいるもんだよね。皇、空を見てごらん。空はどこまでも広いしすっごく綺麗なんだよ。目を閉じているのが勿体ない位だよね」
ブランケットを握りしめた皇は顔は見えないけど微かに震えながら無言で頷いていた。
「今日はいいけど皆心配してるんだからね」
『シドヘタクソー!』
「うるさい!」
『へたれー』
「あーもー! 集中できん!」
あたしが皇を撫でている間に、少し離れた所で口喧嘩が勃発していた。
「機会があったら兵長に鍛えて貰おうね。あたしも頑張るし」
『あい……』
あたしは皇をいいこいいこしてあげた。
従来当たり前の様にあったものを新たに1から作り出す発想がなかなか難しいシドさんです。そんなの、これを使えばいいじゃない?って思いがちなのかもしれません。




