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きっかけは些細な事だった。
パジャマパーティーの際にも思ったが、しばらく観察してみても皇が眠そうにしている姿をあたしは見た事がない。逆は既に沢山恥ずかしい醜態を見られてるけど……。
「主様、今日もいいお天気ですね」
「そうだねー。おはよう♪」
目が合うといつも通りあたしの側に皇がいてあたしの身の回りを世話してくれるのだけれどそれ以外、ふとした瞬間はわりと気だるそうにしていていたり、ため息なんかもついちゃったりしている。
もしかして魂を具現化した時になにか不手際でもあったんだろうか。気になりだしたらいてもたってもいられなくて……。
「皇はさ、大体夜はいつも何時位に寝てるのかな?」
「わたくしの就寝……ですか……。わたくし実は、わたくし自身にとって睡眠があまり意味がない気がいたします。基本疲れも致しませんし、この上はお仕事を! と、主様のお姿を確認し、観察し始めました。一日が二十四時間、それが倍あっても足りない様な気がしてなりません」
何かを思案する物憂げな表情も様になってるけれども!
「ちょっ! なんて残念な理由♪ しっかりして! 皇はちゃんと生きてるんだから、夜はちゃんと休むべきだよ? 倒れちゃったら大変じゃない!」
皇はなにか信じられないものを見た顔をしている。
ここは引いてはいけないやつだ……。
「……! 主様はもしやわたくしを心配して下さっておられるのでございますか? わたくしなど、高々(たかだか)一振りの刀に過ぎませんのに。……なんという過分なお心使い、皇は幸せにございます」
衝撃に打ち震えるような喜びの表情で皇が跪きあたしの手を取り唇を落とす。……だめだ。これは何だか分からないけどとにかく何かが重症だわ……。こういうのって専門のお医者がいるんだっけ?
「でもね皇! 貴女が普通に人として生きていく上で睡眠は欠かせないとても大切なものだし皇にも自分を大切にしてほしいの」
「!! ……かしこまりました、主様。わたくしお気持ちに添えるように致します!」
「絶対よ? 自分を大切にしてね、約束なんだから……ね?」
なんだかちゃんと伝わってない気もするけど、とりあえず睡眠を取る約束を取り付けたあたしは部屋を出てランチに向かった。
部屋に残された皇はにこやかに微笑む。
「……ええ約束ですとも」
白亜の宮殿の奥深くに恨みにまみれたうめき声がこだまする。
「ぐぁぁ……許さぬ! 許さぬぞぉ! 穢れた異世界人め!」
苦々しい表情、涙をたらして苦痛に歪む黄金色の老害に寄り添う貴婦人。
「ああ! あなた! どうなさったの!? しっかりなさって……」
「ユークリッド様……」
「まあ、ソクパスあなたまで……泣いていてはわかりませんよ!? これはなんの騒ぎですか? せっかく持ち直したというのに」
「エリオール様はこの度いらした若々しく才能に溢れる件の異世界人殿にひどく嫉妬なさっておいでなのです。うぅ……」
ガシャン!!
「あなた!」
「許さぬ! 許さぬ! 許さぬぞぉ! ……余の目が……ぐはぁ、黒いうちは……好き勝手させて……た……まるものかぁ!!」
「うぎゃ!」
闇に紛れて暗闇を纏った男の視界を己の返り血が染め命が刈り取られていく。
事切れた彼の物言わぬ瞳に月夜に照らされた微笑みが写し出されていた。
「わたくしがこの砦に来てからもう五人……」
「と、その刀を狙う輩が二人か……」
背後から塊が二つ投げられる。
「! わたくしが人間に後ろをとられるなんて……。あ……」
「ふぉっふぉっふぉっ……。ミナヅキがそなたの睡眠不足を気にしておったからのぅ」
後ろから音もなく現れた人物に目をやった瞬間に暗転し強き者の腕の中に落ちる少女。
「最近何者かがうろついていると思ったが……主に心配をかけずに大人しく眠るが良いぞ」




