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朝焼けが、カーテンの隙間から差し込んできてあたしに新しい朝だよと告げてくる。
うっすら目を開けると体を起こす。
「痛っ」
体の至る所が痛い。所謂筋肉痛というやつか……。
多分、普段使わない所を沢山使った……のかもしれない。うん……こんなところは使わない。
ゴロゴロゴロゴロ……
「にゃああああ……!」
お布団に顔を埋めて顔の火照りをなんとかすべく、冷静に冷静に……落ち着けあたし。
昨日の……
「あたしも……好き……シドさん!」
枕を抱いてもふもふしていた。
「シドさんたら。あんな事とか……そんな事とか、きゃーん、やだ、どうしよう♪ うふふふ……」
枕ごと自分を抱き締めて身悶えちゃう!
「そろそろウザイわよ? ミナヅキ」
「はぅあ!! ジェネッタお姉さん! いつの間に!!」
秒でベッドから飛び起き、あたしの鼓動が今だかつてない勢いでなり続けてる。何だか訳の分からない汁がありとあらゆる汗腺から滲み出はじめるとか……。
「いっ……! いつから! こここここここに!?」
お姉さんはゆったりとソファーに腰掛け足を組んで座っていた。
「何分前から? いや、どこから?」
気が気でない状況に、身の置き場もない状況でハラハラしている。
「え? そんなに、聞いてないわよ。多分? にゃああああ……! とかワケわかんないトコからだもん。ノックしたのに返事ないし? 覗いたら奇声を発してたから驚いたわ」
「……ほぼほぼ全部じゃん」
あああ! なんたる生き恥! すいません、今すぐ入れる墓穴はどこですか!
「ふーん、へー、ほー……あんた達そうなの?」
「いや! そんな! あぅ……! お姉さん……違っ……いや、違わな……いけど! そんな目で見ないで!」
挙動不審気味にあくせく取り繕っているあたしにお姉さんは盛大にため息をついてこういった。
「とうとうなんでしょ? よかったじゃん」
「へ? ……え?」
「これであんた達が少しでも落ち着いてくれたら儲けもんじゃない?」
「……あ、はい」
ばつが悪くて頭かいちゃった。
「はい。朝イチに兵長からお届けよ。なんでも奥様からのお茶会のお誘いみたいよ? そのままお返事聞いてきてって」
「……いきます! よろしくお願いします?」
「はいはい、じゃあそうお返事しておくわね。あんた達、もうあんまりはっちゃけるんじゃないわよ?」
「てへへ……」
「ミナヅキ様ようこそお出で下さいませ!」
「……おじゃま……します」
相変わらずのバーマン家の使用人さん総出のお出迎えに庶民のあたしは慣れる事がない。そこでは緊張感がおしゃれしてご挨拶していた。
「トオル! いらっしゃい! 待ってたわ~♪」
落ち着いたドレスに身を包んだ貴婦人ピクシーが階段をしずしず降りてお出迎えしてくれる。
あたしはこの前エマ義母様にプレゼントされたものの中から黒地に赤のリボンや差し色がお洒落で、ロリータっぽいテイストのミリタリーなかっこいいドレス。白髪だからコスプレしてるみたいな気分になってる。朝からマーヤさんによって作り上げられた可憐な令嬢です。あたしじゃ再現不可能ですけど。
「ピクシー、あたしもよ。会いたかったわ、今日はお誘いありがとう!」
カントリー調のホールを抜けてサンルームに通される。
ここは白を基調にした空間に、外に一面にカラフルなバラが植えられたお庭を臨む女の子らしい場所だった。
「カラフルなバラね。ピクシーの趣味なの?」
「いいえ、これは主人がわたくしを思いながら調えてくださったのよ。こうやって生きてるわたくしが愛でるとは思ってなかったでしょうね。そこかしこに家族への愛を感じるの。嬉しいわ」
「素敵ね」
ピクシーおすすめのアールグレイっぽい紅茶を楽しんでいた。
「主人に、聞いていたけれど、ミナヅキまで本当に髪の色が抜けちゃったのね。ちょっと見せてね」
彼女が立ち上がって此方にやってきて隣に腰掛ける。
「そうなの。似合ってるかな……どうかな?」
はにかんで髪の毛を一房持ち上げて見せてみた。
「まあ、エキゾチックでとっても素敵よ」
ピクシーがあたしの頭を撫でてくれる。手つきがうちのお母さんみたい。
「パゴラーンの民とわたくしの同僚達を救ってくれたのね。外交官としてのわたくしの唯一思い残した事だったから……。ありがとうトオル」
「うん。あの人達をそのままにしておけなかったから、兵長に力を借りてちょっぴり頑張りすぎちゃったみたい」
「トオル、頑張るのはいいけれどあんまり無茶しないでね」
「やだ、ピクシーその台詞うちの母さんみたい。あたし無茶ばっかりするから……よくそうやってね……言われてた……の」
優しい掌に母の優しい面影を思い出して自然と涙が溢れて堪えきれない……それに気付いたピクシーがあたしの事を包み込むように抱きしめる。
「うぅ……お母さ……ん!」
母さんの温もりに包まれ……。
「母さん……あたし……あたし……」
「トオル、いい子よ」
「うぅ……、いや……だぁ……母さ……ん」
ここにきて自然と堪えていたものが全部出てしまった様で、いつの間にか泣き疲れて意識が落ちてしまっていた。
「ただいま! おや……?」
「あなた……」
人差し指で沈黙を促す。
「泣きつかれて寝てしまったの」
「ずっと我慢してたのね……。可哀想に……」
あたしの事を大事そうに抱えてくれていたピクシーからあたしを受けとると兵長は部屋まで送り届けてくれた。
「ん、どうしたんだ? ミナヅキ」
翌日は、一日シドさんの背中にはりついて離れられなかったあたしをずっとそのままにさせてくれた彼。優しく包みこんでくれたピクシー、運んでくれた兵長も、何も言わずに見守ってくれる皆も。
あたしは、この世界の優しさによって生かされているのかもしれない。




