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「こっちからも素敵な紅茶の香りがしてきます~♪」

 手繋ぎデート気分でシドさんを引っ張って街を歩いていく。王都の南西、南のエルモアとの中間にある街で、シドさんの実家の治める領地ミュースラント。香り豊かな紅茶が有名である。それに、この場所は、あたしが好きに闊歩(かっぽ)できる数少ない場所のひとつ。

 この街では至る所で紅茶の香りがしていて、ずっと深呼吸していたい街だと思う。幸せのアロマに包まれたこの癒し空間に連れてきてくれて本当にエマ義母様(かあさま)に感謝しかない。

「この街はどこもいい香りがしますね」

 一面、紅茶専門店が並んでいる、メインストリートを歩いているあたし達。

「そうだな。ここら辺はいたるところに茶畑&穀倉地域が広がっているから自然にここに色々集まって来てるだけだと思うが……、一本奥に入ればどこも変わらずこんな感じの田舎じゃないか?」

「……この街を田舎と位置付けるシドさんって……ひゃ!」

 考え事をしてたら微妙な段差に足を取られて、転びそうになっちゃった。

「危ない! ミナヅキ」

「……ありがとうございます」

 うう……ちゃんと前みないとだめじゃん! あたし。



 事の発端は、エマ義母様(かあさま)がボランティアで訪問したお茶会で、さるご婦人の一言。

 最近ミュースラント教会の塔の最上階にある展望室にモンスターが巣を作ったらしい。様子を見に行った者の話によると、鳥のモンスターではないかとの話だったけれど、それがどんな姿かは確認できなかったのよ! 恐ろしいわ! との事。ちょうどいい人材が思い当たったエマ義母様が、その件は是非任せて頂戴!

 という訳でリンクスさんがお願いのお手紙を届けてくれたのが一昨日。まるでこちらの休みの予定まできちんと把握したかのような依頼に躊躇(ためら)うも、断る事も出来ずお受けするしかなかったシドさん。

 連れていって貰えないと嫌だから、楽しそうだからという本来の理由をバラさないようにシドさんに付いてきたあたしです。



「ほへー、ここが教会ですか。ここも大きくて立派ですね。どこもそうですが、宗教ってスゴいですよね~。で、あの上に見えている辺りに巣があるらしいと?」

「……のようだ。危ないし、ミナヅキまで来ること無いんだよ?」

 

「いえ……あたし、どうしてもシドさんのカッコいい勇姿をこの目に焼き付けておきたくて……! (とりあえず楽しそうだからどうしても来たかった!)」

 おっと、心の声が副音声となって色々駄々漏れになっちゃった♪ てへ。



 にこやかにシドさんと階段を登っていくと、かなり行った先に展望室へと続くドアがありそこはしっかりと施錠されていた。


「へー……貴族の御子息なのにコネなし前提なのですか……?」

「ああ。貴族という理由だけで自分が偉いと勘違いする事が無いようにと、小さな頃から何かにつけて特別扱いをしない家だったな」

「そっか、でもそういうのいいですよね」


 シドさん曰く、偉いのは父と母で、自分は取り立てる程の功績もなく、ただそこの家の息子なだけ。領民は皆敬ってくれるが、家族の中での扱いはそうでもないというシドさんに、平民代表のあたしとしては好感度大幅アップです! おめでとうございます! 大好きですよ♪


「ここから先には行けない様にしてあると聞いたな」

「まだ先にいるモノの正体も判明していないなら仕方ないですね」

 預かった鍵で解錠し、ドアをこえて進んでいく。


 風通しの良い空間の屋根のある部分の奥に草やら木の枝等を集めた場所があった。確かに、ここが巣みたいだ……。何がいるのか……。


「ん……?」

 そこに何かが見える……。はっきりとではないが目を凝らすと見えるものもあるらしい。

「今はいないようだが……。エサでも取りにいったのだろうか?」

「え!? そこ、そこの隅っこに何かいませんか? とても弱々しい……」

「え、ちょっと待って? 君には何が見えてるの?」

「ほらここ!」

 隅っこに丸まって、弱々しくうずくまっている薄汚れた老鳥がちゃんといた。きちんと認識したら頼りないけど見えるようになってきた……。

 あたしは歩みよっていくも、シドさんには変わらず見えてない…らしい?

「あたし、よく見える目があるのでその効果でしょうか……」


 あたしには見えてる鳥……。

「ミナヅキ! ちょっと……危ない!」

「静かに……怯えてしまいますから……」


「あぁ、すまない……」

 途中何回か小さな膜? ……とにかく何かに? 引っ掛かるような感覚はあったけれど、それは大した問題ではないのでどんどん近寄っていくと、弱りきった鳥さんがへたれていた。

「ちょっとあなた、こんなにぼろぼろになっちゃったの?」

『……く……るな。ニンゲン……』

 小さな声に似た何が確かに聞こえる。

「……君はおしゃべりできるんだね。あたしミナヅキっていうの」

 怖がらせないように、にっこり微笑んで一歩づつ歩みをすすめる。その子は既に弱りすぎてて存在自体が薄まってるのかもしれない……。

「可哀想に。大分弱ってます。痛っ! こら、つつかないの、いい子だから落ち着いて!」

『嫌だ……来るな、……触るな!』

 興奮して一生懸命に(くちばし)で攻撃されるけど、どこか力無いから痛くない……。


「シドさんは、そこで待っててください。この子、多分鳥さんです」

「ぬぅ……分かった。だけどミナヅキ、危ない事は絶対ダメだぞ?」

「はい。心配してくれてありがとうございます」

 弱って動けなくなってる鳥の傍らに座り込むとあたしは痛々しい姿に胸が痛くなる。

「ねえ、元気になってあたしとたくさんお話しない? 色々聞かせて欲しいよ」


『……嫌だ……もう、痛いのは嫌なんだ……来る……な』


『……死にたい……』

 ここに何枚か無惨に落ちて散らばっている羽根が七色で綺麗。

「あなた元はとても綺麗な子なのね」

 そっと撫でると複雑そうにする癖に、とても気持ち良さそうにするから静かに優しく触れていく。

『……勝手に触る……なよ!』

 嫌だと言いながら、触られるのは心地よいのかまんざらでもないらしい。

「そうなの? ならこうやって最後の時まであたし、君と一緒いるよ」


『……うぅ………君のやりたい様に……すればい……い……』


 日が落ち、風が冷たくなってきた。もう初冬といってもいいこの時期、夜は冷えるからと、シドさんが毛布を持ってきてかけてくれる。この子が寒くない様に距離をつめて二人で囲んで様子をみている。

「ねえ、期間限定で今ならわがままもたくさん聞いてあげるし? ……だからもうちょっと頑張らない?」

『……』

 鳥が切なく横たわっている。寒さが堪えるのかほとんどしゃべれないでいる老鳥を静かに見守る。

「シドさん、手貸して下さい」

「ん。こうか?」

「はい、ここですよ。ほら……」


 手を繋いで老鳥まで導いてここだよ。と感覚を共有してみると……。

「あ、見つけた」

「ねえ、鳥さん、こっちの頼りになるイケメンはね、シドさんって言うのよ。あたしの彼氏なの! 初めて出来たんだよ」

 馴染んできたのか、ついにシドさんにも見えるようになってきたみたいで、紹介して一緒に触れていく、とても苦しそうに時折鳴くのに、手が触れると頭をあたし達に擦り付けてかわいい。とうとうデレた記念に微笑みかけたら気に障ったのかちょっぴりかじられた。

「ごめんて」



「いい子、いい子だよ。元気になって五月蝿いくらいにおしゃべりしようよ……ねぇ」

 せめて痛みを和らげてあげたい。最後くらい安らかに……。撫でていたら光の粒が涙のようにぽろり、ぽろりと…こぼれ始める。


『くるしい……辛い! 怖い! これを乗り越えてもまた何回もやってくる。悪夢と痛みをもう我慢したくないよぉ……! 助けてミナヅキ……寂しいよぉ……』

 もう、満足に動くこともできない老鳥の目から涙が溢れている。

「大丈夫、あたしがずーっと一緒にいてあげるよ。痛いの痛いの飛んでいけ♪ だね!」


 丸い光の粒が膨らみ老鳥を包み込み次の瞬間儚く(ほど)けて消える。



 残されたのは幾本(いくほん)かの美しい羽根と砂のやま。冷たい北風だけが無情にも吹き付けてくるばかり。消えた……。


「鳥さん……」

 さっきまでそこにあったモノがあたしの掌をすり抜けてどこかに行ってしまったのか……。温もりを無くした掌が自らの顔を覆って隠し、しばらくあたしは世界を真っ暗にする。


 聞こえるのは風の泣く声と、あたしのむせび泣く音だけ……。










 山の稜線が微かに明るみを持ち始め、お互いをライトの魔法無しでも確認できる頃、あたし達の鼻の頭は真っ赤で無言でそれを見つめ合っていた。


 ふと、シドさんが何かに目を止める。

「……ミナヅキこれ……もしかして」


 飛び散った羽根と砂の山になった老鳥だったものが強風に舞わされる。そこに一欠片(ひとかけら)の炎が現れ、みるみる広がると中から小さな小さな雛が顔を出した。


「ミナヅキ、まだ終わってなかったよ!」

「……はい?」

 涙と鼻水でグシャグシャになった顔をあげるとそこには……。




 その生き物は儚いが、誰にでも目視できる程に強く、命の灯火が確かにそこにある。


『ぴー……ぴー……ぴー!』


「い"ぎでだぁ"!!」

 まだ羽根もない小さな雛がミナヅキの膝にすり寄って甘えている。

『ミナヅキー!』

『エサーくれー!』

『さむいぞー!』

『だっこしろー!』

 必死に小さな羽根をパタパタさせて喋りまくる。

 じっと良く見て小さく呟く。

「……ぐすっ……良かった……鑑定……」


 名も無き鳥

 伝説の生き物、不死鳥の雛。



「もしかしてじゃなくても、君は不死鳥さんだったんだね」

『さむいぞー!』

『だっこしろー』

 ……凄い鳴いてる(笑)

『ミナヅキ!』

『せきにんとれー』


「不死鳥って実際にいるものなのか……。物語の中でしか聞いた事が無かったんだが」


「君、本当はスッゴいよく喋る子だったのね。ちょっ! 責任って何!?」

『さむいー!』

『なまえつけろー!』

『シドー!』

『エサよこせー!』


 これは……一人じゃ寂しい訳よね。


 納得だわぁ。


「取り敢えず連れて帰ります。いいですか?」

「うん。楽しくなりそうだな。」

 何はともあれ鳥が生き返って、シドさんが小動物を掌に包んで凄く嬉しそうに眺めてる! 良かったです。

 あたしも嬉しい!

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