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お気に入りのブーツで落ち葉の絨毯を踏みしめザクザク歩く。音が楽しい。
ここも先日まで見る限りの紅葉のキャンパスに、圧倒されたものだが美しく彩られたこの大森林の木々も、数日来ないうちに多くは落葉して随分寂しくなってしまっていた。
「カニエール君、そろそろ帰るよー! おーい!」
シドさんの勤務の都合で、今日はこっそり一人で森を散策していた。
「はー。今日は冷えるなぁ」
夕方に近付くにつれ、息が白くなり、森もどこか物悲しくみえる。ジェネッタお姉さん曰くこの南部の地域でも冬場の高地の一部は寒く、凍えて動けなくなる冒険者もいるそうで、手分けして治安維持に勤めるために各地域を順番に回っているらしい。
あたしは、ひゅんって飛んでぱっと出て、あっという間に帰れるので行動も多少は、自由にして貰えるようになったのだ。
過去にやった大規模な殲滅作戦とその維持活動のおかげでこの地域から捕食者たり得る目ぼしいモンスターはおらず、こうやってこっそり徘徊する許可も兵長から得られたわけだけれども。
いつもより足を伸ばして森の奥ま出来てみたら、少しひらけた所にはえてる大木の根本にカニエール君の魔力っていうかにおいが残ってる。さては、寝床を作って寝てたのね?
「こーゆーのって秘密基地みたいで楽しいんだろうね。その気持ちわかるよ。うんうん」
周りをめぐると大木の傍らに大きな岩と草原が広がっていた。こんなに寒いのによく枯れないね。
「はて、季節外れにこんな所に草原とか……。でも草だけじゃバリエーションがいまいちなんじゃない?」
前に似たような事をした事あったんだ。あの時は花を根付かせようとして、ごっそり魔力を持っていかれて大変だったけど、今回は大丈夫よね?
掌を合わせて祈りを言葉にのせる。
「キミに幸あれ……」
雪の結晶のような光の粒が舞い落ちて、辺りは色とりどりの花畑に変貌していた。
「完成♪」
「まったくもー! どこいったのよ。あのカニは!」
またぞろ徘徊しながら帰ってこられると、途中の村に迷惑がかかるからそれが分かったからには置いて行くわけにも行かない。
パキッ……
「きゃっ!」
「え? 誰?」
振り返ってみたら遠くの方にいた一人のご婦人と出会った。
「ごめんなさいね、こんな森の奥でさぞかし驚かれたでしょう? わたくし大切なものを無くしてしまって、夫とお揃いのペンダントなのだけれども、探して歩いているうちに家のものとはぐれてしまって一人でとても心細かったわ」
プラチナブロンドが軽やかに揺れる、品がよく落ち着いた、身なりの良い貴族さん? だった。
「いえいえ、こんな森の奥で迷子になるとか大変でしたね。あたしペットの散歩中なんですよ。ミナヅキと言います」
「ふふ、そうなの? わたくしはピクシー。貴女に出会えてさっきまであった心細さもどこかにいってしまったの。とても助かったわ。ありがとうミナヅキさん」
よく見ると随分長い時間さ迷っていたのか、ピクシーという女性は少し疲れている様に見えた。
「ピクシーさん、良かったらすこし休みませんか? 随分お疲れみたいですよ」
「ああ、わたくしったらずっと歩きっぱなしで、休みを取るのを失念していたわ」
「お腹も空いてますよね?」
ポケットから簡素な椅子とテーブルセットを取り出すと、夜食に置いてあったマーヤさん特製のお菓子セットを取り出す。
「どうぞ、お座りくださいな♪」
ご婦人は目を丸くした。
「まあまあ、貴女とても変わった魔法が使えるのね。凄いわ。まるで家の夫みたいだわ」
「あははは、これも最近おぼえたばかりなんですけど、手ぶらでどこにでも行けるので割りと便利ですよ♪」
「ふふふ、素敵ね。その魔法がわたくしにも使えたら、娘にたくさんお土産を持って帰ってあげられそうだわ!」
優しく微笑むピクシーさんにお茶とお菓子をお出しする。
「ピクシーさんご家族は?」
「わたくしの家族? 家に生まれたばかりの娘が一人と、強くて頼もしいのにわたくしがいないと途端にさみしがり屋に変身しちゃう夫が王宮で働いているの。わたくしも、これでも他国との外交の橋渡しをする為に、女だてらにと父によく言われるけれど外交官をしているの。結婚と、出産でしばらく休んでいたのだけれど、先日職場復帰をした所なのよ」
「働くお母さんなんですね! うちの母も自宅でですが、道場で門下生さんに、女だてらに毎日剣術を指導しているんです」
「まあ、素敵! 自立した女性っていいわよね」
騎士や兵士に貴族なんてものがいるこの世界では珍しそうなワーキングマザーに出会えた。
「そうですね! 今の時代、女だからって仕事を制限されちゃうのはナンセンスですよね」
「ええ、本当に! 貴女、とても良いこと言うわ! 良かったらお友達になりましょう! わたくしの事はピクシーと呼んでちょうだい♪」
「こちらこそ喜んでです! あたし、下の名前はトオルといいます。良かったらそちらで呼んで欲しいです!」
女子同士会話が弾む弾む。カップにお茶のお代わりを注ぐと周りの気温も相まってほかほかに湯気が舞っていく。
「わかったわ、トオルね! ふふ、このいただいたクッキー懐かしい味がするわ! とても美味しい。家で働いてくれているメイドのミーナがこれと良く似たクッキーを少し前に作ってくれたの。彼女の双子の娘さんにそれを作ってあげたんですって。とても可愛らしい娘さん達でミリヤとマーヤと言うの」
穏やかにきかせてくれる。本当に優しそうなピクシー。ここに来て親友が増えたかも! 嬉しいな。
「そうなんですね♪」
「頂き物ですけどクッキーまだありますよ!」
「ありがとう! でもさすがにお腹いっぱいになってしまったわ。また今度持ち寄って比べてみましょう! ね。楽しみだわ♪」
「いいね! あたしも楽しみ!」
「あー、でも暫くは、仕事で国を離れるの。帰ってきたら一番にトオルに連絡するわ。まだ赤ん坊なのだけれど幼い娘も紹介するわね!」
「ありがとう、ピクシー! あたしも結婚が決まったばかりで、先には……子供とかも出来るかもだからピクシーに一番に相談させてね」
「遠くに行くの?」
「それはちょっと言えないのだけれど治安がちょっと気にはなるわね。不安を抱えてるその国の人達をなるべく早くに救いたいわ! わたくしこの仕事に、遣り甲斐を感じて止まないわ!」
やる気に満ちてるっていいよね! 応援したくなる。
「そしたら、ピクシー! 手を出して!」
「え? なあにどうしたの?トオル」
彼女のひんやりとした手をあたしの、手で包むと言葉を紡ぐ。
「ピクシー、貴女に状態異常超無効を!」
ピクシーのまわりが儚く輝く。
「それと、今のあたしでは多分、出来て一度だけだよ。貴女の心からの願いなら叶えられるだけの……奇跡を!」
言葉が形になった時、あたしの背中から天使の羽根が生え、それがピクシーを包むと輝き、光の粒子となって霧散する。他とは比べ物にならないとてつもない量の何かが抜け落ちていく感覚がして体が崩れ落ちる。
「きゃあ! トオル!!」
ヤバい……体がおもい……息もし辛い……けど、少し休めば大丈夫……。
「トオル! 嫌よ! しっかりしてちょうだい! 折角出来た友達なのに! トオル!!」
いつの間にか膝枕されてピクシーがぽろぽろ泣いている。
「……あ、大丈夫だよ……」
「あたし、ちょっと……いや、だいぶやりすぎちゃったみたい。いきなり驚かせちゃってごめんね」
涙の粒があたしに遠慮なく降り注がれてる。
「トオル無茶しないで……。貴女まで死んでしまったらわたくし……」
手をつないでくれるピクシーの手が、やけにあたたかく感じる。
「……もしかしてだけど、……ピクシーにはもう心からの願いがあったりしたのかな?」
泣き続ける友達に返事はないけれど、何かを成し遂げた達成感が辛さとなって感じられて半端ない。
「ピクシー、あたしで貴女の願いがちゃんと叶えられてたら嬉しいな……」
「わたくしね、願ってしまったのさっき……」
「うん……」
「愛しい人と共にもう一度生きたいって! ……そしたらトオルがこんなになってしまって! ごめんなさい! 許してトオル……」
「そっか……ピクシーの願いはちゃんと叶ったっぽい?」
「多分……?」
「なら……いいよ! 良かった。じゃあ、遠慮なくクッキーの持ち寄りするんだからね! わかった? ピクシー」
彼女は溢れる涙を流しながら精一杯の微笑みをあたしに向けてくれた。
「ええ……トオル! 約束よ。貴女に家族を紹介させて!」
「ミナヅキ! なにかあったのか!?」
薄々感じてたけど、シドさんが飛んできた。……ですよねー。絆ってそういうことなんだろうね。
「急にミナヅキが危ないって感じたんだ! そしたら君は砦にいないしこうなったらって飛んでみたらここにでたのだが……」
シドさんの知らない女性に膝枕をされて寝転んでいるあたしをどう扱っていいのか悩んでる顔してるね。
「トオル、そちらの方は?」
少しだけ持ち直したので座り直してシドさんを紹介する。
「こちらはあたしの恋人で大事な人で婚約者……みたいな? シドさんです!」
つい弾みで婚約者って言っちゃった! 恥ずかしい!
「まあ、貴方がトオルの未来の旦那様? もしかして心配してきてくださったのね? 素敵な方ね。貴方、わたくしの学友のグランにとてもよく似ているわ。グランの親戚か何かなのかしらね」
「グラン? ……俺は、シドニール。シドニール・アヴァルト。しがない騎士です」
「わたくしはピクシー・バーマンと申しますの。よろしくね」
「え!!? バーマン? 思いっきり知ってる名前なんですが……」
「ああ……俺も思いっきり知っている家名だな」
楽しんで書いたので頑張って読んでください。
いつも見てくださってありがとう
(人´∀`)♪




