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「兵長! お疲れ様です! この後は先日負傷したディモニーとの面会予定でしたよね? その後は書類の確認もございますが……そのローブはまるでお帰りみたいに見えますが、どうなさったのですか?まだ馬車も手配しておりませんよ?」

 執務室に迎えにきたジェネッタがこの後の予定を伺うように話しかける。が、当の本人は飄々とした様子で帰り支度をしている。

「いや、今宵ディモニーに会いたいのは山々なのだが、やむを得ぬ用事が出来てのぅ。いや残念だ!」

 兵長はとても残念そうだ。

「で、本当の所は?」

 ジェネッタが、じと目でぼそっと呟くと

「たまには友と酒を酌み交わすのだよ。ふぉふぉ……ふぉ!!」

「兵長!」


「勘弁してくれ。今決めたのだよ、わしの一存だかな♪」

 パタン

 落ち着いた様子で向きドアを抜けていく。

「ちょっと! お待ちください!」


 バーマン兵長を追ってドアを出るも、廊下にその姿はない。

「あ!ジェネッタ! 兵長はどこかしら?」

 ボゴッ!

「ひっ!」

「兵長はどこ行ったのよ!」

 ドアをぶっ叩くと重厚な木材に拳の後がくっきりと付いた。




「邪魔するぞ」

「ん? レオナルドか、砦の仕事はいいのか? どうせ書類や雑務を置いてきたのだろう?」

「ふふふ……気のせいだな。わしは、グランと違って有能だからな」

 書類を目で追う事を止めない男はグラン・アヴァルト、彼とレオナルド・バーマンは幼馴染みの親友である。

 他所様の執務室にお決まりの席にきっちり腰かけて寛ぐと本を取り出しページを捲る。

「そういえば、当家(うち)が聖女様を無理やり(かどわ)かして嫁にしようとしているという噂についての説明を貰おうか」

「ふっ耳が早いな。昨日だったか、レルベアで何かやらかしたようだが、聞くに怪我を追った少女をそのままにしておけなんだそうだ。そのついでに付随した事象が、いらぬ噂の原因か……。まあ、やった事は正に聖女そのものなのだが……、だが、いくら惜しくとも、そう簡単に王命は覆せんだろうな」

「ん? 回復の魔法持ちだったか? 初耳だが」

 まだ見ぬ娘について思いを巡らせる。

「いや、あれは思うものを自由に作れるのだろうな。あの年でたいしたもんだと褒めてやらんといかぬかのぅ」

 黙々と書類に目を通していた顔があがった。

「……珍しいなレオナルド、君が家族以外を褒めるなんて、明日は雨か?」

 まるで家族バカみたいだと遠回しに言われた気がした。

「何を言っておるのだ。良くできた者を褒めるのは人として当たり前の事ではないのか?」

 さすがの兵長も、一応反論くらいはするらしい。


「ずば抜けた身体能力に加え創造魔法の使い手とは……、エマからもそれとなく聞いていたが、凄まじいな。でもあの()、本当は君の隠し子なんじゃないのか? それならその馬鹿げた能力が君と同じなのも納得がいくが、はて……いつの間に(こしら)えたのだ?」

 気安く冗談を言い合える間柄というのはいくつになってもいいものなのだろう。

「ふざけたことを抜かすとその口を削ぎ落とすぞ、たわけめが」

 時には厳しい目線で睨み合う二人。一瞬、執務室の空気がヒヤリとしたが、それを気にするものはここには居ない。


「ははは、国一番の使い手にそんなことを言われるとは、恐ろしさのレベルが違うな。おー怖い」

 おどけて震えて見せる。

「バカも休み休みいえ。過去はどうであれ、ワシはもう半ば引退した身……。とうに若い者に抜かされておるよ。それにもう殺戮(さつりく)殲滅(せんめつ)も、魔物以外にはせぬよ」

 呆れ果てた顔で衰えたと返事をするも、未だに纏う闘気は衰えていない。

「ふふ、ボクは君に狙われる魔物にだけは、なりたくないな。奴らが何だか気の毒だ」


「わしもグラン、貴様の様な化け物がおるなら、家族を連れていの一番に逃げ出すぞ。ははは」

「お前の家族を迎えたあの地域の魔物がボクは哀れで仕方ない」

 冗談を交えながらレオナルドとグランが不適に微笑む。


「ふっ既に特定ランク以上の個体はあそこにはおらんから気に病む事もないのではないか?皆とうに刈り取った……。他の地域にはうようよ居るかもしれんがの」

 グランは再び書類に目を目で追いながら話を続ける。

「レオナルド、君は一介の兵長に納まるんじゃなかったの? いい年してハンターギルドの仕事を奪ってやるなよ。ギルドマスター殿が嘆いておったぞ?」

 兵長も本を捲る。

「ふん! 奴らが温すぎるのだ。大切なものを失ってからでは全てが遅いのだからな……」


「それは同感だな」

 意見は同じらしい。


 

「ん、そうだお前の息子の嫁に呪術をかけた輩がいたが……」

 既に息子と絆で結ばれ、王からの許可で知らされた間柄の娘を守りきれずに狙われたとはグランとしても面白くないものだろう。

「なんと!? それはまことか? ……いつだ?」

「そうだな、もう済んだ事だが、何とかしたのはミナヅキ自身だったな。数日前に本人が違う意味合いでかけたモノが結果災いを防いだらしい。全ての厄災を受け付けず、つるんと脱皮する魔法……だそうだ」

 異世界人ならではの突飛な発想に、凝り固まった初老二人では想像が追い付く訳がない。

「つるんと脱皮? なんとも、珍妙なものだがその娘は余程の強運なのか?」

 グランが既に人肌以下になっている紅茶をすする。

「異世界にきて早々相手に出会っているところを見ると、ただの凡人では比べるべくも無く……、だろうな。折角なのでわしも手を貸し、少し弄って体から脱皮して引き剥がされた瞬間に送った本人に何倍にも増幅してして戻るべく作り替えてやったわ! これはよく効くぞ」

「ぶっ!」

 口に含んだ紅茶を吹き出し並べられた書類にまんべんなく霧吹きすると。

「だから危篤なのか! どんな、恐ろしいものを当家(うち)の嫁にかけようとしたのだ、ご老体は」

「それな!」


「因果応報とでも、いっておくか」




「ごほん。聞くところによると、偶然にも同じ時期に君の家族が無敵になったらしいね」

 レオナルドが、ちらっと本から視線を外しニヤリとした。

「そのミナヅキの術式を見習って、家族は更に無敵になったよ? いいだろう」

 それでなくとも最強の用心棒が常に人を配置し見張らせているというのに、更に強固な守りが追加されたという報告とか。守備力というより最早、要塞だ。

「ふは! それはもう殺しても死なないんじゃないか?」

「バカいえ、まずそんな不届きなやつは塵も残さぬよ?」

「ふっ……それ一度ボクにも見せて。ボクもエマとローズにかけないと」

 この国には家族大好き同盟でもあるのだろうか……。兵長が無言で立ち上がると友の傍らに立ち、肩に手を添える。

「では、わしは生涯の友を守ろうかの。末永く妻子を守るがよい」

 グランの体が輝く。

「ん……これはややこしいな。こうか? ボクも生涯の友も含めて守るよ」


「ふはははは。わしは何で死ねばいいのだ?」

「さあ、死神も横向いて通るのではないか? ボクもお迎えがくるのはかなり先だな」




「むっ、少しばかりゆっくりし過ぎた。早く帰らねばイジアンがわしを置いて先に寝てしまうではないか!」

「相変わらずのじじバカか」

「グランもじきにそうなる」



 初老同士の男子会は早々にお開きになった。

まったりペースで出せるときに出しまする。


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