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 結局、不本意ながらもそのままの状態で対象者を保護して帰るわけだが、その位置がしっくりくるのか、引き続き俺にしがみついたままの少女。しかもさっきから何処からともなく? 静かな寝息が聞こえてくる。


「ぐふっ……この状態で馬にのらなきゃなんね~旦那ってば! ちょっと同情しちゃうな。俺なら絶対嫌だからな……ぐは!!」

 ん? 今凄い勢いで何かが足に当たったが、まあ気のせいだな。


 見るとラルソーが呑気に頭から砂山につっこんで戯れている。はて、何かを作っている途中なのだろうか……これは……城か? 仕方のないやつだ。

 急に無邪気な砂遊びがしたくなるとは、冒険者とは本当に自由な生き物なのだな。我々国に飼われている者からすれば少々羨ましくもあるが……。



「遊んでないで手伝え」

「……すびばしぇん……」


 ラルソーと力を合わせて何とか抱きかかえ、馬に乗り南方の砦に帰っていくことにする。




 すっかり静かになった砂浜に人の姿はなく、紐のついたカニエール君だけがぽつんと残された。


 ざざざーーん






 しばらく走らせた頃に何かに気が付いたのかラルソーが喋りかけてくる。

「……旦那、顔が真っ赤に日焼けしちまってるとか、色男がざまぁないぜ! ははは」

 気が付かぬ間に、日焼けをしていたらしくラルソーに指摘されてしまった。

「ん? そうか、言われてみれば我々は、大分長い時間浜辺にいた事になるからな」

「あーーあ、この子も所々赤くなってるな。気の毒に」


「まったくだ」


 ちらっと、覗いてみるも所々赤くなっている。俺はともかく、この少女だけは急いで何とかしてやらねばなるまい。


 帰路を急ぎさっきよりも馬を走らせる。


「急ぐぞ」






 日暮れ前に砦へ帰還する。門の中に入る。



 ??


 仲間みんながあり得ないモノを見たようなびっくりした表情のまま指を指して動かない……。

「!」


「どうしたみんな! マーヤ、気をたしかに! おい、しっかりしろ! ディモニーお前まで!」




「くそ! どうやら俺達がのんきに浜辺で寸劇を見せつけられてる間に、この砦は何者かに侵略されてしまったの……か?」

「これは……どうしちまったんだ……」



「……これは、伝説の化け物メデューサのしわざか……」

 この砦はまるで時が止まってしまった様にしんと静まりかえり、今は物音一つ聞こえない。


「可哀想に、みんな固まってるじゃないか……」

「他に誰かいねーのか!」

 



 ガタン!

「だれだ!!」

「生き残りか!!」


 パタパタパタ…


「あ、シドお帰り~~!」

 いつもと変わらないテンポで出てくる同僚に激震が走った!!




 ような顔をされたんだが。



「……そっそれは痴情のもつれか何かの結果なの? そもそもアナタ、皆に見られて随分興奮してるのか顔も真っ赤になってて鼻の下まで伸びてる様だけれど、君は神聖な職場にどんな爛れた情事をぶちこんできたのかしら」

 声の主が、何故だかワナワナしている。


「ソレって、いわゆるプライベートの性癖大博覧会の集大成?? へーへーへーー貴方って大人しそうな顔をしてそんなとんでもないモノを内に隠していたのね。恐ろしい子……今から若干猟奇的な猥褻プレイでも見せつけてくれるのかしら。……それを見たら驚きと兵長の血圧が天井を突き抜けて一気に昇天していきそうね」



「?? 一体なんのことだ」

 訳がわからない。


 俺達の前にようやく降り立った一筋の光明であるはずの先輩ジェネッタからの抉るような言葉のハットトリック、俺のピュアで真っ白な心に次々と会心の一撃を決めてきやがる。せっ先輩が! 目線で軽蔑してくる。目は口ほどにものを言うって?なんなんだよ一体!



 やばい目眩がしてきた。


「……シド」


「!!」

 兵長の冷めた一言で一気に砦に時が流れ始めた。


 さっきとは真逆で、今はやたらとおれの周りが、ざわついている。

「若さか? 若さ故なのか!!」


「なんなんだ、アレは……」

 あ、ようやく同僚ディモニーが喋った。




「バーマン兵長! 良かった! ご無事でしたか!」


「テメエはなにやってやがんだ! 新人!!」

「お前リア充か! はぜろ!」

 外野が過激に騒ぎ出す。まるでジェネッタ先輩が分身したみたいで正直辛い。


「……無事もなにもシドよ、お前は仕事もしないで、今までどこで、何をイタしてきてそんなとんでもない事になっているんだい……?」

「へ?とんでもないって俺は……」


 やばい……兵長の後ろの窓ガラスに、写り出された基地外(俺?)の姿に俺自身にも激震が走る。さっき馬から降り、少女の体を露骨に触らずにどうやって抱き上げて運ぶかという段階だったのだが……




 ……うむ。これは変質者(へんたい)だな!


 傍目からみたら、あられもなくはだけ、破れた衣服を身に纏い、あり得ない丈の特殊な布を腰に結わえ、そこからけしからん事にしなやかに伸びた太股が大胆に露出していて、全体的に少し汗ばんでいてなんとも色めかしい。これではまるでうら若き乙女が激しいプレイの果てに捨てないでダーリン! とばかりに必死にすがり付かれてる俺! に、少女が泣きついて離さない修羅場みたいではないか! しかもそこには最悪なトッピングが添加されていて、そう、彼女の衣服。寸劇の最中に、しおまねきとの小競り合いであのモンスターの自慢のハサミによって無惨に切り刻まれとても残念な事この上ない。わかったことは、あのふざけたしおまねき野郎が、更にこの状況をスパイシーに香ばしくしてくれたと言うことだ。

 冷や汗なのか脂汗なのかもう俺にはわからない何かが滲んでくる。

 なんたるアウェイ!


 ははは……まるで地獄絵図だな。

「はははは!」




 最近配属されたばかりの新人が、真面目な新人の皮をフライング気味に脱ぎ捨て、異世界からきて右も左も分からない少女を騙してたらし込み、別れる別れないのすったもんだの、スキャンダル大好きな世のご婦人が飛び付きそうな泥沼の果てにこんな状態に収まっている風にしか見えなかった!! としきりと寝言を繰り返す鼻息の荒いメイド長マーヤと、この状態はどういう事なのか! 事と次第によっては……云々と、延々と、最近生まれた孫娘を溺愛して止まない初老の上司バーマンの説教は続く。砦の仲間からもかけられ続ける怒号、冷たい視線と折檻(おしおき)、その他諸々の冤罪の嵐なんて全部はねのけてやる!

 俺は負けない! これは誤解だ!

「だから誤解です!」


小一時間経過。


「ぜえぜえ……さっき何回も言いましたけど、実際こうなったのは放置していた自分のせいかもなんですけど、厳格に言うと自分のせいではないっていうか……。そりゃ悪くないけど決して俺の趣味でこんなにしたとかじゃない! ほんと信じて下さい!」

「ジェネッタ先輩も! この俺の澄んだ目を見てください!」

「嫌よ! 汚れるわ!!」

「なんでだよ!」

「釈明すらもまともにできないとは情けない。おまえという奴は!」

「だから、俺たちはそのちょっと個性的(やばめ)なお嬢ちゃんを保護しようとして逆に拉致されて、今まさにこてんぱんで蔑まれてぎゃふんなだけなんだって!」

「……もうよい」

「見付けた時には既におかしい事になってて!」

「真面目にしおまねきがヒモでボケとツッコミで! 俺らは観客で!!」

「やかましいわ! だまらんか!」


「だから手遅れだったんだよ~~!」

「マーヤ、こやつらのバカさ加減に、わしまで頭がおかしくなりそうだ」


「あらやだ! バーマン様、凄い顔色。わたくし、とれたて直送の実家秘伝の薬湯を用意して参りますわ!」


 俺とラルソーはめげずにこれまでの様子を正直に何度も何度も説明したがだれも俺達の話に耳を傾けなくなった。




 解せぬ!

 

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