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「ん? なにか身に覚えのある感覚……?」


 後ろに知ってる感覚、魔法だろうか……そうだミナヅキの言う所の瞬間移動だ!




「だれだ?」

 振り向くとそこには、不機嫌そうなバーマン兵長が佇んでいた。

「へ……?」

 ……いつ?

「さっきのは……」

 すっと手で言葉を制止させる。

「……様子はどうだ?」


 兵長は、険しい表情を隠そうとしていない様だ。

「それが……丸1日経ってもこの通り、問い掛けにも一切反応を見せません。」



「……シドよ、喜べ。先ほど国からお前とミナヅキの婚姻を認めるとの文書が早馬で届いたぞ」

「え? どうして? こんなタイミングで!?」

 この人は何を言っている? そんなわけない……。だって俺達はまだ…

 息を飲む。


「そう……、まだ指定地域で異世界からの迷い人ミナヅキを保護し要観察中とだけしか報告しておらぬのにな……。そもそも此方からは、お前とミナヅキの事は一言も告げておらん」


「見てみろ、ご丁寧に玉璽も押されている。気の早い事だ。お前の家にも別の何かは届いているだろうな……」

 自分の預かり知らぬところで家まで巻き込んで、一体何が起こっているのか……。あまりの急展開に事態が飲み込めない。



 兵長は、俺とは反対側のミナヅキの横で彼女の手を取ると何かに気付いた様に話し始める。

「ふん……。昔……、何かに取り付かれた男がおってな……、その狂った男の実験室で見たことがある被験者に施されていた呪いを真似たお粗末な劣化版……か……しかも術者はろくな魔力の持ち主ではないだろう……」


「……その呪いとは、一体……」

「人の根源の部分を壊し、意のままに動かし傀儡にする為の……前段階とでもいうか……」

「そんな!!」


「……これが得意で、わしが知る者やその手下の者では、力が強すぎてな……、あっという間に全てを壊してしまって、使役しようにも被験者達が役に立たなくなってしまい、早くに捨てられたものだったが……皮肉なもので、この術者には最適なのだな」

「こいつは、平民と同等程度の魔力しか持たないのだろう。かの者が欲っしたが得られなかった効果がきちんと得られている。……力が強すぎるのも考えものだな」

「そんな……ミナヅキは一体どうなるんですか!」



「だが、ここからが大事なのだが、そこまでは知らぬのか、使役する気はない様だ」



 兵長がミナヅキの頭に手を添えると表情が一変した。


「ん? これには……厄災全てを受け入れず、強い状態異常を無効にする術が元々かけられておるのか。……それなら、これをこうして……」

 ミナヅキが微かに淡く光り、兵長が不敵に笑う。

「これで……よし。くくく……あやつめ、どんな顔をするか……」




「兵長! 彼女は大丈夫なのですか!?」

 ミナヅキの術式に何かが足されたとでもいうのか……、そんなことは可能なのか、理解が追い付かない。


「ミナヅキには、元々、しばらく経つとどんな状態異常も脱ぎ捨てる、というとんでもないものがかけられていたのだが、それをワシが少し、いやほんの少し、いじり直して更に便利なモノに変えてやったぞ」

「それは最近ミナヅキが自らに、施したものです。自分はこの世界の未知の病に耐性なんてないはずだから……質の悪いものとかを、そもそも中まで入れずに、つるっと脱皮で、確か、全部脱ぎ捨ててやる! みたいな事を……聞いております」


 瞬く間に術は書き換えられる。兵長は、魔法に関してもかなりの腕なのだと考えると、ぞくりと鳥肌がたつ。

「ぷっ……面白いな、是非わしも参考にしようじゃないか」

 この国にそれほど魔術の扱いに長けたものが他に存在するのだろうか。

 いとも簡単にやってのけるこの目の前の底知れない強者の事を国はきちんと把握できているのだろうか……? 冷や汗が滲み、一歩も動けない。


「数日後、ミナヅキが本来の効果で、この呪いを脱ぎ捨てた時、脱ぎ捨てた呪いは自動的に術者に降りかかるものとなった。愉快であろう? 因果応報とは良く言ったものだ」

 心から楽しそうにしている。


「兵長……もしかして……貴方も……」

「わしは、その手の魔法が少しばかりで得意なのだ。それ位ならできない事もない。ここの皆にはナイショだかな」

 ナイショとジェスチャーをしてくる位にはいつも通りの兵長がにやっと笑って後ろを向く。


「ミナヅキのいう通りなら、そのうち呪いも、つるっと脱皮だな。あと、これだけは伝えておくが、元通りになったとして、しばらく大人しくして向こうを安心させておく方が至極都合がいいぞ」



 ぱたん……


「ふはは……ミナヅキ、君は本当に素晴らしい!!」

 ミナヅキが助かる! 今はそれだけで十分だ。







「くぁ……!」

「あぁ! 目が覚めたのか! ミナヅキ!!」 

 二日後、俺が彼女を膝枕し、頭を撫でていた時いきなり目を覚ました。

「……シドさ……ああぁ……!!」


 最初は声が枯れていた彼女だったが、渾身の力で俺にしがみついて泣いた。

「ミナヅキ……良かった……」

 今度のその手は、約半日間外されることは無く、俺は彼女の震えが止まるまで、心行くまで腕のなかに抱いて撫でていた。

「手が凄い疲労感で変な感覚です……。そもそも痛いし」

「ふっ……、ミナヅキは、何日も一生懸命握ってたんだからそれは当たり前かな? ほら貸して、少しマッサージしよう」

「……あい」

 珍しく大人しく手を差し出したと思ったら、心なしか赤面している。俺は心底ホッとしている。

 今度は膝がお気に入りなのか、暇があると、膝枕をせがまれる。俺もそんな彼女の温もりが離せなくなり、ついついいつまでも膝にのせて彼女を甘やかしていた。



「本当によかったわ! ミナヅキちゃん……」

「マーヤさん……」

 代わる代わる砦の皆が遊びにきてくれて、ミナヅキも楽しそうだった。


 見舞いに訪れたディモニーがミナヅキのベッドの下で震えているしおまねきに気付いて教えてくれた。暇すぎてベッドの下から変な音がするのに気が付いたそうだ。


「しばらく寝たきりだったけど、動ける様になったらカニエール君を連れて散歩にいこうか。こいつも君と居たくて、ベッドの下から出てこないから……少しは運動させないとだな」

「……うん♪ 行きたい……。一緒に……」






 兵長の言われる通り七日程経った深夜遅く、人知れずミナヅキから何かがつるっと脱げたらしい。本人は脱皮したと言い張るが、その殻は誰かに気付かれる事無く、痕跡も残さず崩れさって消えて行ったそうだ。


 今頃、術者は難儀しているだろうな……因果応報だな。


そー言えばこれ笑い要素が多いやつだった!って後から思い出したけれど、まぁ、変わらずまったりサクッといきます♪


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