35
「ミナヅキちゃん、今夜はお月様が隠れちゃう夜だから、気を付けてね。絶対に窓開けちゃダメよ?」
「マーヤさん、なんですか?それ。あたし子供じゃないのにそんなの怖がりませんよー♪」
「こんな夜はね、全てが隠されちゃって、普段出てこれない不気味な何かが外をさ迷うから、決して外に出てはいけないの。実際、外を彷徨いててどこかに消えたり、寝ている間に傷つけられたりもするらしいから気を付けてね。古くからの伝承? みたいなものよ。とにかく不吉だからしっかり戸締まりするのよ?」
「……そうなんですねー。わかりましたぁ♪」
今夜は全てが隠れちゃう日だから、窓を開けっぱなしにしてはいけないよってすれ違う度に皆が教えてくれるけど……。
「ねぇ、それってあれ? あの……」
「月食? だっけ?なにかあるのかな?」
「そうそうそう! そーゆーやつだった!」
迷信? 眉唾な都市伝説的な? うーん何だか良く分からないや。
「まさかこんな良く冷えた夜に窓開けっ放しな人もいないよねー!」
「よねー。じゃあ窓の鍵も、よし! しっかり閉めた
~。寝るか、あたし!」
「そだね! あたし~♪」
「一人寝が寒ければ……二人で寝ればいいのさ~♪」
「おー!!」
むぎゅーっと。
「あたしがあたたかーい♪ おやすみ~!」
「ん……ここは?」
山の上にある白亜のお城? これって国宝級なヤツだね。うんうん。こんなの見たことないや……。
「ここはどこ? あたしは……一体何処ににいるの??」
渡り廊下に一人置いてけぼり。ステンドグラスから月の光があたしの足元を照らす。
『貴様が異世界からの異分子、……穢れたるものか……』
ずっと先にある大きな扉の向こうの空間。大きな広間にぽつんと誰か立ってる。
『此方へ……来るが良い。』
やだなに、あのギラギラしたゴージャスな老人、全身が透けてる…おばけさん?
「えっやだ! え! 足が勝手に! ちょっと!」
自分の足がまるで言うことを聞かない。勝手に足が動いちゃう……助けて……恐い……
歩みを出す度になにかが纏わりついてくる。冷たくて重い鎖のような。涙が溢れ落ちる。
「……ここ、嫌……。息できな……い、助けて……シドさ……」
「ひっ……」
吐息の届きそうな真近くに、黒い何かを吐いて透けた老人が、此方をじっと見つめて……絡み付くような何かも、あたしが身動き取れないくらいに絡み付いててもうピクリとも動けない。
「……や……」
『余が直々に、にこれをくれてやろう……深く深く眠り、起きればそれまでだ。貴様は全てを失うであろう……。この美味なる呪い、篤と味わうがよいぞ……』
『我を脅かす愚か者は蟻一匹たりとも見逃してやらぬのだ……』
老人があたしの瞳を覗き込む。あたしの目に映る老人は気味悪く微笑み、不気味に見開かれたその瞳には、どす黒い恨みや妬みみたいな泥々した感情が暗闇に蠢いて見えた……深くて暗い……
「あ……あ……あ………」
ガタガタ震えるが瞬きもできない。
ニヤリとした老人が指を下に落とす様に動かした。
「去ね……」
あたしの意識は遠くへ消えて行った。




