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 目の前に、なんだか分からないおかしいテンションの少女がカニと戯れている。


「アタシもう、カニエール君とここで暮らしていくわ。うふふふ~~。お腹空いたよねーー」

「そうなの?君ここで小さい時から一人でいたんだ」

「あたしね、小さい頃は大きくなったら大きなお城に住んでガラスの靴をはいて、お姫様になりたかったの。うん、がんばってここにある砂であたし達の住み処の立派なお城つくるよ!」

「うんうん、ありがとうカニエール君。あたし頑張る」

 ん? 観察してたけど、なにかぶつぶついいながら水辺に生息するモンスターの中でもわりと希少種(レア)だと言われるしおまねきと、実際は噛み合ってないのにとうとう会話が成立しはじめて何気に泣きながら笑っている。なんだかヤバそうなんじゃ?


 数日前、この国最南端の海岸で、ここしばらく一定のパターンの魔力反応が起こっているため、文献によると異世界からそろそろ迷い人が現れそう……。と、国のお偉方から報告が上がって来た為、迅速に調査をせよと南方の砦の指令部から少数精鋭(ひまじん)が派遣されてきた。

 たまたま春に移動で南方の砦を守る騎士団の指令部に配属されたばかりのここでは新人の俺。ああ、ちょうど手の空いた新人がこんな所に! 異世界からの迷い人なら迅速に保護してくるべし。さっさといけ! と、こんな海岸まで冒険者のラルソーと共に確認に来るはめになったのだが。


「しかし、アレは、鈍いのかなんなのか(汗)」

 現地の案内を兼ねてギルドから派遣され、この辺りに明るくて地の利があるどこかくたびれた中年冒険者ラルソーと観察している。


「あの子、俺らの事ちっとも気づいてないみたいみたいだな」

 ラルソーがこちらを伺うように振り向きながら呟く。あれから、どこまで近付いたら気が付くかと2人で1歩ずつ歩み寄って、もう割と真後ろな至近距離で腕を組んで眺めて見てはいるんだが、なかなかどうして気付いてくれない。


 依然として目の前では少女としおまねきの寸劇が繰り広げられていて、割り込むタイミングを一向に見つけられずにいる俺達2人にこれ以上ない位に注目されているにもかかわらず、少女はまったく気付いていない。かたや相方のしおまねきはずっと前からチラチラこちらを見てはハサミをフリフリ決めポーズで挨拶してくる。



 多分この異世界からの迷い人には危機管理能力というものが備わっていなのか、そもそも最初から頭のネジをどこかに置いてきてるのか。


 飽きない事に今度はカニ相手に喧嘩を始めた。



「子供か……」



 ついつい微笑ましくて眺めている俺と、俺がいつまでも動かないから息をのみ、今か今かと指示待ちのラルソーが小声で訪ねてくる。


「……ど、どうするんだ? 旦那」


 これは見たところ十三才くらいか? でも、うちの幼い妹よりもやってることはかなり幼稚だが。



ぐぅーーーー


「あああ!!」


 おっ?ついに立ち上がった!


「お腹すいた~! 誰でもいいからなにか食べさせて! 神様~!」(半泣き)


 ん? 確か、収納袋に……

「ほい」


 そう、行きに寄った最寄りの村で話を聞いた村人の店で情報料として売り付けられた焼きたての特大肉焼き串がしまってあったのだ。


「にゃーん! おっにくぅーーーー!!」

 見つけた瞬間、しおまねきを捨て俺の手に、串焼きにしがみついて豪快に噛りついた(笑)

 まさに入れ食いだ!


「ふぉいひーー!」

 はぐはぐはぐ!

 一心不乱にカジカジしながら、差し出された手を決してはなさない。こんなに旨そうに食べる女子生まれて初めて見た。なんだこの生き物は。

 ……

 どこかでなにかが繋がった感覚がした……気がしたような?

「ん? 気のせいか」


 もぐもぐもぐ

 なんとも幸せそうじゃないか。


「……これ、うちで飼えるかなぁ」

 ラルソーの方に向き、ぼそっと呟く。


「えええ……旦那も物好きだな」

 痛いものをみる目をされた。

「こんな生き物初めてだ」

 今度は思いっきり目をそらされたけどこれも気のせい。




 小腹が満足したのか一気に脱力した少女が砂浜にぽとっと落ちてへたり込む。

 !!

「はにゃあ」



「ここどこ?」

ようやく一息ついたらしい少女が言葉を発する。


「ここはエクスペリエ王国の最南端の砂浜だけど」


「俺はシド。向こうに小さくみえてる南方の砦の騎士団から派遣されてここにきた。こっちは冒険者のラルソー。彼には道案内をお願いしている」


「君はいつからここに?」


「…」


「名前は? ちゃんと言葉はわかってるよね?」


「…」


 矢継ぎ早に聞くもその言葉には一切の反応が無い。理解が追い付いてないのかぼーっとして、不意に無表情でいつの間にか寄ってきた紐のついたしおまねきを抱え込む。

 よっぽど不安なんだろうな。


 俺は自然に手を差し出していた。

「大丈夫? とりあえず立てるかな」


「……」

 みるみるうちに大きく開かれた少女の瞳が潤み、真珠のような大粒の雫がポロポロと、こぼれては出てを繰り返す。

 それまででも十分感情豊かな方なのだと眺めていた彼女の、奥深くに溜め込まれたものが更に激しく堰を切って流れ出てきたらしいそれはとどまることを知らない。せめて見た目も気にせず大泣きした年若いこの人を今だけでも隠してあげたいとマントをかけて腕の中に隠そうとひろげた所

「うわぁーーーーん!!」

がば!!

「ぬぁ!」

「お嬢ちゃん!」

 しおまねきを放り出した少女に、渾身(ありったけ)の力で? 向こうから抱き付かれる形だ。







 先程まで大泣きだったが、今はようやく静かになった。それでも決して腕を離そうとしないのは不安がそうさせるのか。


 俺は黙って少女の頭を撫でた。



「離しそうにないな」

 他人事だからか、ラルソーはこっちに向かってやたら生暖かい目でニヤニヤしてくる。

 少女は相変わらず顔も見えないくらい俺にがっちりしがみついている。この少女、魔法でも使っているんじゃないかと疑うほどの力で。こんな細腕のどこにそんな力があるのか。


「このままじゃ埒が明かないし、いい加減ちゃんと休ませてやりたいから帰るか」


「了解」



ストックをためながら、まったりー投稿していきまーす。

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