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「あっミナヅキちゃん、さっきはありがとう」
遅れて中庭の稽古場にやってきてみた。けど、左右どちらを見てもシドさんだけいなくて、なんとかっていうチャラい同僚さんが、ひーひー言いながらひとりで腕立て伏せをしている。
「シドさんはまだ来てないんですか?」
名前を呼ぶのもちょっと気恥ずかしい。
「あんの鈍感男は気合いが足りないから先にサクッと外周30周してもらってるわ」
「わぁーー、そうなんですね……」
「ミナヅキちゃん、今日は見学していく?それとも、参加する?」
「いやいや、今日は遠慮しておきます。他に気になる事があって…」
「あったあった」
「こんな所に、この子一人でいたので、仲間の所に連れていってあげようと思って」
兵長から借りてきたスコップと小さなバケツを片手に。
「仲間?」
「たしかここの横辺りに、この野花がたくさん咲いてたので……」
根っこを傷付けないように丁寧に掘り出して、一旦小さなバケツにいれてっと……
「じゃあちょっと仲間の所に戻して来ます」
間違えても落とさないように、静かに走っていく。
「男の趣味もだけど……物好きねぇ……」
見送るお姉さんがなにか呟いてたけどよく聞こえなかった。
一気に門を越えて……えっと、あそこ!!
前に、どこかの部屋から砦の横側に、少し丘になってる所があって同じ花が沢山自生してたのが見えてたのだ。
「ここなら君も寂しくないよね!」
鼻歌を歌いながらスコップでこの子が入るだけの穴を掘って、両手の掌で優しく包んで……
『これでもう寂しくないよ……』
「ん? 何か言った?」
そんな風に何かが語りかけたような気がする。音じゃない何かがあたしに届いた。
「ああ……て。ふふふ、アナタなのね? じゃあちょっとだけサービスしちゃおうかな? あたし最近魔法を覚えたの!私のはちゃんとした魔法じゃないかもしれないけれど……」
掌に気持ちとありったけの想いを乗せて祈る。
「キミに幸あれ……」
掌から、ぱぁーーーーっと光の粒が溢れだして…て
ごそっと何かが引き出されてしゃがんで居られなくて座り込んじゃった……。
ぽん!
「えっ? 今度は何?」
目の前に小さな幼女が現れた。宙に浮いてるけど、妖精かなにか?なの??
少し透けてる……。
『ありがとう! お姉さんのお陰でなんとかなったわ。私この世界に誤って落ちてしまって、一人でどうすることもできないで迷子になってたけど……』
『私一人の力では、このまま枯れるしかなかったけれど、お姉さんの魔法のおかげで私もここでちゃんと生まれることが出来そうよ。嬉しい!』
「なんだ! 今の光は!」
外周を周遊中のシドさんが駆けつけて来てくれた。
「君は、えっと……セレンじゃないか?」
あ、とても嬉しそうなこの子はシドさんの、知り合いなのね?
「そうなの? よかったわ? こんなのでよかったら、何回でも祈ってあげるわ! どうぞ幸せになって!」
『ありがとう』
次第に薄れゆく幼女セレンの姿、満面の笑顔で幼女からありがとうを言われた。
セレンという幼女は光の粒となってふわふわとどこかに飛んでいった。
「あの子はお知り合い?もしかしてこの前言ってた妹さん?……とかいいますか?」
「いやいや違うよ、うちの妹は普通の人間だ。今度ミナヅキにもうちの家族を紹介しよう。きっと喜ぶだろう……と、俺は、あとここを三周してくる! 待ってて!」
急ぎ足で駆けていく。
「どうしよう、普通に恥ずかしいのにちっとも慣れないよ……」
もう……さっきから事ある毎に顔がずっと熱いよ!
花畑に一人。実は体から力が抜けて動けないでいるあたし……
そのあと自然を満喫~~砦の周りを優雅に巡り各地を周遊30周の旅を華麗に終えたシドさんがこちらに来て、青くなって動けないでいるあたしを慌てて抱き上げて運んでくれる。
「そんな状態になってるなら、遠慮なく言ってくれていいのに、心配するだろう?」
「……ごめんなさい」
抱きかかえられたら顔が背中で隠せないよ。動けないし、だるい…
「おーーい、シド! ってなんだよ! お前ら……」
「俺が心配して見に来てやったのに! いちゃつきやがって……クソが!!」
砦に戻ると、何とかという同僚さんが、なにやら大騒ぎしていたらしいが、だんだん眠くなってきて、その頃のあたしに聞く耳はなかった。知らんがな!




