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午後の昼下がりミナヅキの自室で極小規模のお茶会が開催されていた。
「あたし、次は大樹を足掛かりにして、そこから更に西を目指したいのです! これ見てください! そっちは海の幸が美味しいんですって♪ 最高じゃないですか? 楽しみですよね?」
ミナヅキの体調が元に戻ってすぐのお茶会で思い立った様に発言した内容に、一同が目を点にしたのは言うまでも無い。
「あのー、若奥様? どこかで頭でも打たれましたか?」
通常モードのリンクスである。
「ううん! あたしは常に正常です! お魚達があたしを呼んでるの。ほ~ら聞こえない? リンクス、主人を信じて旅に出よう!」
「自分で自分の事を正常だなんて言う危ない人を信じろと?」
リンクスがヤバイものをみる目で主人をチラ見するがそれに、気付くミナヅキではない。
「くっくっくっ……さすが今をときめく聖女様は発言が違うのぅ……くくく」
本日の御客様、バーマン元兵長改めレオナルドが堪えきれずに笑いだした。
「聖女様ってなんなんですか! あたしからしたら、聖女様なんて碌な呼び名じゃないし、そもそもあたしはそんなものじゃないですからね?」
どの手紙も書状も宛名ないし中に必ず聖女様へ……とある。中には貴女こそが真の聖女だ! と書かれていて実際の名前は呼ばれない始末。それにも不満が募る。
「そなたの周りはいっそそれでも良いし、相応しいのではとの声が多いと言うに当の本人との温度差が……ウケるのぅ……くくく」
「もー! またからかってますね? 許しませんよ?」
拳を握りしめて立ち上がるもまともに相手もして貰えない。
「恐ろしい聖女様だのぅ♪ それではワシもそれに乗るか。ミナヅキ、西の果ての街シアムに美味い飯を出す店をワシ知っておるのだよ……」
チラチラとミナヅキを伺っている。
「ええ! それ良いですけど。あたし誤魔化されたりしないんですよ? どうせ又なにかであたしをからかって遊ぶつもりなんでしょ!」
簡単には騙されてくれない。
「なら教えずにおくかの。美味じゃのに残念だのぅ~?」
「いや! ……でも、うぅ!!」
「あーー、いつものお詫びも込めてワシのオススメの海の幸をたらふくご馳走しようと思っておったが……」
「おごり? いきましょう! 是非すぐにでも!」
「……ふっ、若奥様って案外チョロいんですね」
主をチョロいと言い残し空のワゴンをひき連れて退室していくリンクスに嫌がらせがしたくなるミナヅキ。
「むっ……兵長!この前行った大樹のある村からスタートしませんか?」
「うむ。クイップル村か。わるくないのぅドラコンとやらにも会って見なければだな。そしてそれは美味いのか?」
「うわー! バカバカ、兵長のぶぁかぁー!! ドラコンは食べ物じゃないですよ! 彼女は今、一生懸命卵を育てているんです、なんて事言うんですか! もう!」
まるでお父さんにからかわれる娘である。
リンクスが帰って早々口を開く。
「御歓談の所失礼します。日程的に今回はシドニール様は一刻も御同行できませんがよろしいので?」
「それは問題ないな。ワシ付いていくからの」
「です」
変なところで息ピッタリ。えっへんと胸を張るミナヅキ。
保護者が、決まれば話は早いとリンクスが恭しく礼をする。
「……畏まりました。それではその方向で手配致します」
静かにドアを閉めると大急ぎで調整に向かう。
「ふぉっふぉっ……」
「そうだ兵長、手を貸して?」
「藪から棒に何をするのだ……?」
ミナヅキは差し出されたレオナルドの手をむんずと掴むと、その指にはめられたお義父様とお揃いの指輪を指で掴み……
「えい!」
今日一番の笑顔で勢い良く引き抜く!
レオナルドも驚き目を見開く。
「やっぱり冒険するなら兵長位だと変装がいると思うんですよね? と言うことで旅ではこのままでお願いします」
「……イタズラっ子め」
いつもは年相応に見せている姿が、指輪を外すと20才程度の若々しい姿に……髪をかきあげて結び直す姿はとても色っぽい。
「お年寄りにいきなり何をするのじゃ……これだから近頃の若い者は……」
「外してこれって事は中身はちっともお年寄りじゃなかったですよね?」
指輪をちらつかせつつ言い返す。
「気のせいだのぅ」




