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「ふぐっ!」
雑種といわれて近所の可愛くない野良猫を想像するミナヅキはその半グレのブサイクなボス猫とリンクスを重ねてしまい、笑いを堪えるのに、さあ大変……そんな空気でもないのに、自然と体がプルプルして耐え、その空気を察知してか、リンクスが目でふざけんな! とミナヅキ向かってギラギラ訴えている。その姿すらもツボってしまう状態で、耐えろ腹筋! といった所だろうか。
『さあ、どうする? 妾と共に大樹の上にひとっとびするか? まあ、妾もあの状態になるまで堪えておったから、しばらくぶりの我が家なのだが……』
遥か向こうに拝める大樹の方角を望むと青い瞳を輝かせる。
「ブルードラゴン、ちょっと待ってくれ、貴女をそんな姿にしたものがそこにいるかも知れないのなら、何も手を打たず帰ったではこの卵とミナヅキが危険なのではないか? 彼女など、可哀想に今も震えている……」
シドはミナヅキを抱き抱える。
「我々の大切な存在と守らねばならない幼い者を危険にさらすかもしれないですから、卵はミナヅキに預け、まず私と貴女とで大樹の見回りからすべきでは?」
本来なら絶対的強者であるドラゴンがこの場にいる下位に指図される事などあるわけがないからか、眉間が一瞬ピクリと反応したかに見えた。
「!」
『うむ……、守るべき子を守れずに再度危機に晒すのは有るべきでは無い故に、それに乗ってやろう、勇気ある冒険者達よ』
ブルードラゴンに運んで貰う事になるリンクス。
「では我々は先に様子見してきますから、シドは、ミナヅキとこの卵を頼みましたよ? シドは腕や足の一本位無くしてもいいのでこの二人の事は死んでも守るのですよ?」
「うっ……痛いの怖い!」
ひゅっとなってシュ……で、卵に寄り添って丸まってしまった。
「ミナヅキは……あぁ、いつも通りでお願いします」
ものすごく残念な者をみる目がしたようだが、今のミナヅキには見えていない。
『では、参る!』
「え!」
大きな鉤爪でリンクスを外套ごと掴むと大きく羽ばたいてテイクオフ。その羽ばたきは少し離れたミナヅキ達を吹き飛ばすのに十分な勢いで……。イタズラそうに微笑むドラゴンの瞳と、鷲掴みにされて複雑な表情のリンクスが遠くに霞んでいった。
「所謂、空の王者の帰還とでもいうのか……、騎士としてはちょっとリンクスが羨ましくもあるな」
「ふふ……本人は驚きの余り涙目でしたけどね。さあ、この子を運ばないとですね。ポケットに入りますかね? うーん? あっ!」
何かを思い出したミナヅキは、不思議なポケットの中から風呂敷より大きな布を取り出すと器用に卵を抱えて体に巻き付けた。
「いつだったか、海外に嫁いだ親戚の操さんに教えて貰ったやつなんです。この布をこうやってこう。ほら、抱っこできました。ベビースリングとか言うんですって」
しっかりとした安定感で中に抱いたものを怯えさせることなく運べそうである。
「なかなか器用にできるものだな」
「ええ……操さんが、いつか享にも赤ちゃん出来たときに覚えておくと便利なのよって教えてくれて……ん?」
「……」
シドが口元を押さえて目を逸らして赤面している。
「あ……いえ! その……うぅ」
どんな状況でもこの人たちは真っ赤な茹でダコになるらしい。




