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「これ、本当に身を守っているの? 何かを覆い被せてるみたいに見えませんか?」
「!?」
調べてみると力尽きたそのドラゴンは雌で、何かを庇うように覆い被さって力尽きている。
「こう大きくては中々動かす事も出来ませんね、解体しますか?」
「待って? 多分ポケットにしまえるから……」
その亡骸を労るように一撫ですると、意識を集中して、収納するとそこにあったのは大きな魔石とそれに、守られるように卵が一つ。
「何か、出ましたね。確認致しますのでミナヅキはそのままで……」
「はい!」
「潰された? いや、それよりこれは……、ちょっとひどいですね。上から踏んだものがいたみたいです。多分子を守ろうとしていたようです」
無惨にも何者かの足跡で卵には大きく穴が開けられている。
「中が時折動いてはいるので死んではいないが、まだ生まれるまでは時間がかかりそうです。……これは贔屓目に見ても厳しいかもしれませんね、危ないですからお手をこちらに……」
卵に母親の魔石が寄り添うように共にある。よく見れば魔石から少しずつ癒しの効果が与えられれている。その奇跡の様な薄い糸の癒しの絆に触れた。
パチッ……!
「あ!」
瞬間、何かがミナヅキ達を繋ぎ、卵とシンクロしてこの卵に起こった出来事、この子の気持ちが脳裏に写し出される。
「これは……どういう……」
母が留守の時を狙って忍び込んだのワイバーンと呼ばれるモンスターだった。
「犯人はコイツでしょうか……」
それは狡猾にも卵を探しだすと何度も踏みつけた。
「こら! やめて! だめだよ!」
ミナヅキの拳が空を切り悲痛な叫びが木霊する。
殻が割れ、更に乱暴されそうになっていた所に母親が帰ってきた。
彼女は怒り狂うも我が子に覆い被さり。攻撃を受けながら、自分の防御を一切すること無くすべての魔力を傷つけられた卵の生命維持の癒しに費やした。
「嫌ぁ!」
咄嗟にリンクスはミナヅキの視界を奪うと惨劇が見えないように抱え込む。
「反撃してこないのであればドラゴンも恐るるに足り無いということでしょうか……」
力尽き魔石になっても尚その力を使い続けている。
「そんなのあんまりです!」
リンクスはその光景をミナヅキを抱え込んで見せない様に、目を背けること無く静かに見ていた。
とてもか細い、声にならない気持ちが溢れて届いてくる。
『…………おかあさん、もうやめて!』
「!」
『おかあさん……ボクはもういいから……おかあさん生きて!』
『おかあさん』
「ミナヅキ、落ち着いて! あー、シドはこんな時になにやってるんですかね、肝心な時に役に立たないとか……」
『おかあさん守ってあげられなくてごめんなさい……』
それは後悔の念と悲しみ、思い合う心の束達……卵は全てを写し出すと繋がりは途絶え二人は元いた場所に佇んでいる。
「戻りましたよ、ミナヅキ。大丈夫ですか?」
「うぅ……リンクス」
涙と鼻水にまみれた彼女にリンクスからハンカチを渡されるとミナヅキは離れ卵の前にへたり込む。
「この子が今でも頑張ってるのにあたし達みたいな大人が負けてちゃダメですね……」
先程まで涙に濡れていた瞳を擦ると細めて、うっすらと魂に絡み付いた何かを見極める。
「! リンクス、この子の側に母親の魂が、ほらここにいます。それがあたしを呼んだんですね、多分」
ちいさな卵から決して離れず寄り添うように包んで離れない大きな存在がぽやーっとミナヅキの目だけに映る。
「あたし、この手の癒しは割りと得意だから助けたいと思います。そう、このワイバーンいや、小狡いトカゲのしでかした惨たらしい傷跡を塞いで元あった様に殻でこの子を覆って守りたいです! 壊れた殻はあたしの魔力で補強する事で補って、傷なんてあっという間に治してみせる! この子為の傷は当然治すとして、ベッドをそう"現状回復"そして"超回復"を!」
ミナヅキの掌でやさしく撫でた所がみるみるうちに幾重もの光の粒で修復されていく。ミナヅキは卵全体を隙間無く触り傷一つ無い状態にするとそれを両腕で抱え包む。
「ミナヅキ……なにを?」
ニヤリと微笑むミナヅキ。
「ふふ、見るのは初めてでしたか? あたしから見ると魔法は呪文で繰り出すものじゃないので気がついたらこうなってた……みたいな? です。今日はまだまだありますよ?」
ミナヅキは卵をぽんぽんしてあやすように話しかけると言葉を紡ぐ。
「いい子いい子よ……まだ生まれる前から怖い思いを沢山したね。お姉さん、君をこれ以上不安にさせられないから頑張っちゃうよ? この者の心からの願いを叶えられるだけの……奇跡をここに! ……ほら君が一番側にいて欲しいのはだぁれ? 心の底からもう一回呼んでごらん!」
『……おかあさん死んじゃやだ!』
願いが形になった時、彼女の背中から天使の羽根が生え、それが自分達の周りを包み込むと輝き、光の粒子となって霧散する。その光景は神秘的で、見る者の心を掴まえて離さない。
「くっ!」
他とは比べ物にならないとてつもない量の何かがミナヅキから抜け落ちていくと地べたに崩れ落ち、その場には在りし日のままの若々しいブルードラゴンの姿が顕現していた。
「ミナヅキ!」
「一般人からすると、なんと……非常識なって言いたい所ですが……まあ、いいでしょう。良くやりましたね」
リンクスがミナヅキを撫でると、彼女を庇うようにドラゴンとの間に立ちはだかる。




