103
薄暗い闇の中、焚き火の明かりを絶やさぬように維持しつつ、リンクスは山の稜線を静かにながめていた。
過去に冒険者をやっていたリンクスは何度と無く死線をくぐってきて今日があるわけだ。依頼主に騙されて囮にされ身も心も蹂躙され、それこそボロ雑巾の様のように打ち捨てられていた自分。もう心に灯るものもなく、何者にも捕らわれないと心に決めていた鉄壁の囲いを軽々と乗り越えてやってきたグランに見いだされ拾われて再び目に炎が灯った日の感覚を今でも忘れていない。
周囲の反対をよそに信頼を与えられ側用人に取り立てられ数年、異世界からの迷い人付きに大抜擢されたわけだが、ここは非常に面白い。化け物がうようよ行き交う上に、それを作り出す者まで現れた。
この場所は己だけのモノで、誰にも渡さないと独占欲が芽生え、自分自身がギラギラし始めたのが心地よくて仕方ないリンクスは心が躍るのを感じる。
「ん! お腹すいた……」
真ん中のテントからひょっこり顔をだした新たな主人ミナヅキの登場に驚くも、そこにいる存在に安堵も覚える。
「まだ日ものぼっていませんのに……、お茶でも飲まれますか?」
「いいね、くださぁーい」
カップから湯気が立ち、最近ミナヅキの装備の主になりつつあるメガネが曇る。
「ふふふ……、温かい飲み物でメガネって曇るんですね。あたし目がいいのでそんな事も知りませんでした」
同意するようにリンクスが微笑む。
「あ、見て見て! あっちが明るくなってきましたよ?」
ミュースラントの方角が明るみを増してきた。今日は最西端の平原を越えて砂漠の真ん中にオアシスを目指す予定である。
「今日もよろしくお願いしますよ」
「へ? こちらこそ……?」
「砂漠とかの過酷な環境でも枯れる事のない木なんてあるんですね」
「はい、その大樹があるお陰でしょうか、袂にオアシスが出来、そこに作られた集落が件のクイップル村です」
朝御飯を準備しながら雑談をしていた。完成した頃ようやく最後のテントから匂いに釣られてこのパーティーのリーダーが眠気眼で起き出してきた。
「シドさんおはようございます!」
「ご飯ですよ?」
「……うん」
「そろそろ行こうか!」
「はーい!」
シドが先に一歩を踏み出す。
「リンクスさん!」
「はい?」
「頼りにしてます! よろしくね」
「……はい」
嬉しそうに頷く。
「ミナヅキどうしたの?」
「……へ? なにかありましたか?」
思い付く事がなにもないミナヅキが答える。
「いや……今日もいい天気だね」




