102
「ミナヅキ、ご飯ですよ」
テントを設営し終わったら暇だったのでいつの間にか焚き火の前で横になっていたミナヅキにリンクスが声をかける。
「あ、あたし寝てた……」
「ふふふ……ミナヅキおはよう」
どうやら人前でシドの膝枕でぐーぐー寝ていた様で、急に羞恥が走って追い付いてきた。恥ずかしさに顔を隠すも耳まで赤くて前が向けない。
「はにゃぁ! ごめんなさい!」
ニコニコご機嫌のシドが恥じらうミナヅキを抱き寄せようと手を伸ばす。
「ミナヅキ、おいで」
「あ! や……」
目を潤ませて恥じらうミナヅキに萌えたのかシドは彼女の頬に手をやると唇を……
「はい! ストーップ……そこまでです」
突如二人の境界に無情にも振り下ろされる熱々のお玉。
「ひゃあ!」
「おまっ! ……リンクスいたのか……」
シドがさっきまで抱き寄せていた場所がもぬけの殻になりその手は空を掴む。
「いい加減これが旅の途中だと自覚してくだいませ、シド? それにミナヅキ、焚き火の明かりが多少の火照りなら隠してくれますからちょっと位で動じないで下さい」
「はっはい!」
ミナヅキは背筋を伸ばす。
いいムードに一石(お玉)を投げ込まれたシドはちょっと不満げで。
「くそっ、悪かったな……リンク!」
「こんな野外でご飯ですって! わくわくしますね、シドさん♪」
「そうだな、ミナヅキ」
「鴨の香草焼きに、具沢山の野兎のスープです。パンとご一緒にどうぞ♪」
「わぁぁ、いい香り! スープもこんなに! いただきまーす」
野外のご飯に舌鼓を打つと自分の分をあっという間に完食してしまったミナヅキ。
お腹いっぱいで幸せそうなミナヅキが雑談を始める。
「旅の途中の野外でこんな豪華にいただけるなんて思いませんでした! 明日はあたしも一品作ってみようかな?」
!
最後の小さな呟きも聞き逃さなかったシドの体が無言で大きく震えはじめた。器に盛られたおかわりのスープの水面までもがプルプル震えて止まる気配もない。
そのただ事ではない雰囲気を察してか、
「こ、れ、ミナヅキの分だけなんですが料理長が食後のおやつを作って持たせてくれましたので一日一包みですがお渡ししますね」
可愛くラッピングされた乙女チックな包みを手渡す。
「彼からの伝言は、く、れ、ぐ、れ、も、血迷って自らお料理しようとしないでくださいね!? だそうです」
アヴァルト家に引っ越した直後、余りの格式の高さ(見た目)にガッチガチに緊張していたミナヅキに気晴らしにどうですか? と何も知らないメイドの一人に何気なくすすめられて再びキッチンに立ったミナヅキがシドの為だけに拵えたパッと見無害そうな焼き菓子風の物体Aを忙しい合間に差し出されるがまま一口食べたシドが卒倒し、一時意識不明に陥ったので、毒殺事件が疑われたが、やっぱり駄目だったかとミナヅキが泣きながら癒しをかけた事件がまだ記憶に新しいシドである。
スープの器をリンクスに渡すとミナヅキの手を握る。
「ミナヅキ! 俺、頑張るから! 君に苦労は絶対かけないからね! 絶対だよ! だからお願い俺を信じて!」
「あははは……じょっ冗談ですって! うわっシドさん、冷や汗が出て手汗まで出てますけどリンクスさんのお料理が美味しすぎて感動してうち震えているんですね? うんうんわかります! あたしもそうでした! 天才ですよね?リンクスさん!」
青い顔をし必死に妻にすがり付き、怯えながら何かを切願する夫の図……。
「……これが何の寸劇なのかはわかりませんけど、ありがとうございます?」
楽しい夕食の後は焚き火を囲んでゆっくりする。
「ミナヅキ、これどうぞ」
手渡されたのは可愛いお花の形の匂袋のニューバージョンだ。
「慣れない場所だと眠りが浅くなるかもしれませんから」
「わぁ、これも可愛いですね! ありがとうございます~」
「シドにもこれ……何だか急遽だったので麻袋ごとなんですが、癒し効果が望めるといいですね?」
「痛み入る……」
特大サイズの匂袋を受け取り握りしめるとようやく一息ついた顔をする。
「うわー、特大ですね♪ これなら多少のストレスも癒し効果でチャラにしてくれそうですね!」
その元凶が笑顔でストレスがチャラだという。
「お……おぅ……。そうだな、ミッミナヅキ!」
何故だか胃腸がヒュッとする感覚がしてシドが青くなる。
「明日も早いのですから、ミナヅキは早く寝てくださいね」
「あ、はーい♪ お休みなさい」
もぞもぞとテントに潜り込むと五分後には寝息が聞こえてきた。
「さあ、シドニール様もお休み下さいませ」
「リンク、……言葉」
「あ! 失礼しました。シド」
リンクスがやっちまったと舌を出す。
「シドも、今夜はおやすみなさい。明日からは交代です」
「……悪い」




