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「なになに? うわー、あたしが夢で毎晩遊びに来てる? もう私達は無二の親友ですね♪ とな? ……ないわー」
手紙の中には、会ったこともない貴族の人から心の友扱いされていて、貴族のお友達なんて片手で足りるくらいしかいないはず? なのに、何故か軽く見積もっても三十人位は親友がいることになっている。
「なんたる眉唾……」
あきれ果てて深いため息ひとつ。
どれだけ拒否して見ないでいても、着実に日々増えていくお茶会のお誘い、手紙の山と減らない教科書の山。
「うえーっ、今日こそやる気だったのに……」
「若奥様?」
「やっぱやだ! やる気無くした! ご貴族様の対応はリンクスにまかせる! ……じゃあだめ?」
リンクスは何かを目算してひとり相づちを打つ。
「よろしいでしょう。この夢見がちなご婦人方の対応はこちらでいたしましょう。政治的に難しい所は旦那様とシドニール様のご指示を仰いでまいります」
「ん? たまには言うこときいてくれるんだ?」
絶対に反対されると思ったものがすんなりと通った為、何だか肩透かしを食わされた心境になる。
近頃増えた庶民や町の代表からの投書に目が止まる。
この町はフルーツが特産物でこれからの時期はさらに甘さが増して美味しくなります! 是非とも此方にお越しの際は御立ち寄りください!
我が町は漁業の町です。取れたて新鮮なお魚が貴女様をお待ちしています。
うちは地鶏が人気です。
乳製品なら何処にも負けません!
ここには温泉があります。是非とも湯治にいらしてください。
そして更に数枚の手紙の束を捲るとそれをまとめてポケットにしまい込む。
「……うん……よし、冒険に出ようか!」
立ち上がろうと足に力をいれた瞬間にガシッと肩を掴まれた。
「若奥様、藪から棒に何を仰るので?」
リンクスが動きを制止しながらジト目でもの申す。
「やだなぁ、屋敷の中をウォーキングして冒険してくるだけですよ~♪」
「ああ! お待ちください」
ガチャ!
振り切ってドアを抜けていった。
「ちょっ! ……いない。……どれだけ足がはやいんですか!」
視界にうつるものが切り替わると、何度も訪問した事のあるグランの執務室(王都)に立っている。目の前にその部屋の主が在室中だった。
「ん? トオルじゃないか、現れ方がレオナルドとそっくりだね。遊びに来てくれたのかな……そこにお座り?」
書類から目を離し嬉しそうに微笑む。今はイケおじのグラン公爵モードらしい。
「おじゃまします♪」
高級そうなソファーに腰かけるとグランは立ち上がりいそいそとお茶を用意してくれている。
「リンクスが口煩くてまいってしまうよねー?」
「ありがとうございます」
イケおじの入れるコーヒーが差し出される。
「確かにそうですけど、今日はお願いがあるんです」
ポケットから数枚の紙を取り出しそれを握りしめたままグランと向き合いにっこり微笑む。
「あたし、屋敷の中に閉じ籠りっきりじゃ見えない所……そう、もっとこの世界の事を知りたいなーって思ったんです」
「ん……危険な事なら許可出来ないし、シドニールは毎回は付けてあげられないけどいいかい?」
「はい! 気ままに……そうですね、諸国を旅する感覚で行きますから、大丈夫です。」
もといた世界で、それはそれは偉いご隠居様が長らく放浪して世直しする物語が流行ってたのを思い出した。
「なになに旅なの? いいね! ボクも付いて行こうかな!? あれが歩き疲れると可哀想だから、たまには付き添いも変わってやろう!」
「ふふふ! 喜んで♪」
コンコン
「旦那様、此方に若奥様は……」
「あ、お疲れ様でーす♪」
「リンクス遅かったじゃないか、トオルが待ちくたびれているよ?」
側用人の心を逆撫でるあっけらかんとした態度で二人に出迎えられてリンクスは膝をついて悔しがっている。
「悪い奴らの親玉も一掃されたし、ここは可愛い子には旅をさせろ! なんだよね。……と言うことでトオルとシドニールにはハネムーンに行って貰うから旅の用意をしてやって?」
「ちょっ……無理です、旦那様!」
「無理じゃないさ、お前はボクを誰だと思っているのだ?」
ギロリと見やるとリンクスは主の前に跪く。
「畏まりました……」




