10
ジェネッタお姉さんに変なところを見られたまま五日が経とうとしている。ここが二十四時間ぶっ通しの勤務上等とかじゃないなら、多分避けられてる。
「このままだと、絶対よくない!」
メイドのマーヤさんもその話になるとなんだか生暖かく微笑んで言葉を濁してくる。
一生懸命自分なりに考えてみる。
「異世界に来て家族や花菜にも、会えなくて寂しいのに、ここで出来た数少ない顔見知りの人と、ちゃんと分かり会えないのはとても辛い」
そうだ! この世界には無いの日本のごはんでお姉さんの胃袋から掴んで、最終的に籠絡していくのが、成功への近道ね!
「名付けて! お姉さんの胃袋をがっちりキャッチ♪ 誤解を解くきっかけにしてみよう大作戦!」
ジェネッタお姉さんの胃袋をつかむっていうのが手軽で確実な方法かと思って、最近食べた心揺さぶられる美味しい部長のクッキーと、具沢山のお味噌汁を、作っててみようと思う!
マーヤさんにお願いしてキッチンをお借りして、食材も分けていただく。
「こちらが食材から魔石、科学薬品から国宝まで、なんでも揃うバーマン兵長自慢のストックルームでございます」
「わぁーー広い! 天井たか~~い!」
「この中の食材全て使用許可が出ております」
見渡す限り物だらけ! 倉庫だー。体育館位の大きさの空間に木製の棚がぎっしり。何万点あるんだろうか。
「それではなにかご入り用が有りましたら私、別室におりますので遠慮なくお声をお掛けください」
入り口の管理責任者にディモニーってかいてあったけど、ここをキチンと管理するとか大変な仕事してる人もいたもんだね。その名前、聞いたことある気がするけど誰だっけ? んー、ごめん気のせいだったわ。
部長直伝のレシピを一生懸命思い出して、クッキーの材料とお味噌汁の野菜をたっぷり抱えてキッチンとストックルームを何回も往復する。
「凄くたくさんあって選べない」
ん? カシューナッツが見当たらない。ほかになにか……
「あっ、こんな所にじゃがっぽいお芋から伸びきったアスパラみたいな物がある! こんなの見た事なーい。異世界ならではの不思議お野菜かな?」
緑色になってたじゃがいもの伸びた目を刻んでサクサクのクッキー♪ これが良い感じに、ピスタチオとかカボチャの種みたいになってくれると信じて……これは試してみるべきだとアタシの知的好奇心が叫んでる!
更に奥まで探検中♪ 奥まった空間に瓶やら缶やらシャーレに入った何か?とかを沢山発見♪
「小麦はあったし、残りはここかな? あと調味料も探さないと、この鍵付きの……硝子ケースは、よく見たら鍵もしてない、兵長さんの秘蔵の珍味だなー? ふふふ、隠しきれてないよー♪」
「たくさん並んでいる茶色い瓶に小難しいラベルが貼ってあるけど…この瓶の色は茶色いから中身はお醤油かな?? 振ってみたけど中はよく見えないや」
小麦粉、片栗粉、お砂糖とバター♪ あとは油に、じゃがいもの目~♪
「この世界にもオーブンがあってホント良かった♪」
マーヤさんに魔石オーブンを起動してもらって温度は百八十度で十五分♪
「クッキーのレシピは部長がぶちギレながら暗記するまで吐くほど教えてくれたんだった。これでよし!」
懐かしい!
「ちわーっす。ミナヅキちゃん! いい香りしてるね♪それなぁに?」
「あ、昨日の残念な人……じゃなかったシドさんの同僚さん……」
「ははは。ミナヅキちゃんは手厳しいナー(汗)」
「せっかく可愛いのに、そんな、ジト目は似合わないよ♪ 俺たちもっと解り会えると思うんだゼ!」
「仕方ないなー。じゃあこれ味見してください。こちらにきて初めて作ったんですけどここの人からみたら美味しいのかどうか分からなくて」
「オー! じゃあ俺、料理だけどミナヅキちゃんの初めてのオトコって事だね♪ ドンと任せろ!」
「わぁーい。チャラくてキモいですねぇー。刺しましょうかー?」
「ふはははー。俺たちはまだ始まったばかり、お楽しみはこれからだYO♪」
「で。なにつくってるの~?」
「今から故郷の味を作りますから、そこ座ってて下さい」
つぎはお味噌汁、お味噌がないみたいだけど、
「適当に、あったものをぶっこんでグツグツ煮たらほっぺがおちるぅ♪」
ふんふんふーん。
「あれ?」
「どーしたの? 手の届かない物でもある? オレ喜んで取るよ?」
「いや、お鍋の底に穴が空いてたみたいで中身が漏れちゃって!」
「そうなんだw」
棚から新しいお鍋を手に持つ。今度はちゃんと穴を確認して……
「よし、とりあえずこっちの鍋にうつして……と。あれれ?また漏れる。もー! こっちの世界のお鍋はどーなってるの?」
「えええええ」
もう一個、あった! 透けてて綺麗な硝子のお鍋っぽい!
「今度は大丈夫! ようやく落ち着いたみたい」
ホッとした♪
今度は、かき混ぜてるそばから
「あぁ! お玉の先が……なくなっちゃった!!」
部活ばかりで普段から台所に立たないあたしだけど、おばあちゃんが儚くなったばかりの頃、おじいちゃんを元気づけようと、特別にあたしが隠し味たっぷりいれてごはんをつくってあげた事があったの。そしたら途中で今みたいにお鍋の底とお玉が溶けはじめちゃったからそこにあったガラスの器に注いだけどおじいちゃんはこんなきれいな橙赤色の汁は初めてだって誉めてくれて感動して泣きながらうまいうまいって食べてくれたのよ。その後嬉しすぎておじいちゃん寝込んでたけど……よっぽど嬉しかったんじゃないかしら。
ほらね、あたしちゃんとごはん作れるじゃない!
「まー、日本人のあたしが作ったんだから、あたしがお味噌汁っていったら、これはお味噌汁であるべきよ! うん」
あたしって昔っから剣道ばっかりだったけど、いざとなったら出来るオンナなの!
「クッキー焼けたみたい! 同僚さん、早速味見し……て、って、いない……」
静まり返ったキッチン。さっきまで期待に胸を踊らせてたシドさんの同僚がいたのに……。おかしいわ。いつの間にか台所はあたし一人。
「あ、ミナヅキ。何か急用かい? 君が俺を呼んでるって聞いて来たんだけれど」
だれもいなくなって、ちょうど絶妙な、タイミングでお兄さんが来た。
「あ、シドさん! ちょうど良かったこれ味見してみてください♪」
台所いっぱいに焼き菓子のいい匂いがする。
「うん。凄くいい匂いだね。ミナヅキは料理上手なんだな」
「クッキーは、ナッツの代わりに沢山余ってたじゃがいもの……やだ、凄く美味しそう!」
天板から金網の上に並べて。ジャガイモの目入りのクッキーとか、この発想力は○テラおばさんも真っ青ね!
「はい、どうぞシドさんの分です♪ まだまだあるので沢山食べて下さい!」
どうやら慣れない異世界に来てお料理の腕に磨きがかかったのかもしれないわ。
「さくさくのほろほろで凄く美味しい! こんなの初めて食べた気がする」
何個かつまんだ所でそれ以降なかなか手が伸びない。心なしか顔色が青くなってきてるような?
「えっと、他にこんなものも作ったんです」
「う……うん。それは……なにかな?」
一品目がダメなら、それなら二品目のお味噌汁!
「これはお味噌汁といって故郷の味です!」
異世界に味噌はなかったけど有り合わせのものをミックスさせたらそれらしくなった。ちょっと気になるのはお味噌汁がいつもの綺麗な橙赤色じゃない所。でも惜しい所まできてたと思うよ?
硝子のカップに注いだお味噌汁? をシドさんの小刻みに震える手に持たせてあげる……。
「どうぞ♪」
「う……うん……」
緊張してるのか、震えながらではうまく口元にカップを持っていけない。
「大丈夫?」
「……だっ大丈夫……だ……」
ちょっと恥ずかしかったけどあたしがシドさんに飲ませてあげる。
「だっ大丈夫だから……」
にっこり♪
「……すまない……」
「もう、恥ずかしがり屋さんなんだから……」
コップが口元にたどり着く前に、お味噌汁特有の強い匂いだけでシドさんいきなり倒れた!
その後、外部から侵入者が? とか誰が毒を! って砦の中が一時騒然となるわ、何故かあたしまで取り調べをうけるとか散々だった。
しばらく砦中で、私がお兄さんと泥沼愛憎劇の末に、とうとう一緒に死のうと毒を盛ったと噂されてたみたい。
神聖な職場で毒を作るな! と実家の農作物の収穫に出ている調理長に手紙で注意されて、キッチン使用禁止令がだされた。
ひどい、おじいちゃんはうまいうまいって言ってくれたのに。ぴえん!
でも、実際寝込んでいるシドさんを見たら、あたしの自信も、ガリバーサイズから人並みに落ち着いていった。
ごめんなさい!!
お味噌汁だと思っていた似非お味噌汁は、バーマン兵長が適正に処理してくれたと言うことです。
程なくてし更に困惑した表情のジェネッタお姉さんともなんとか仲直りできた。
秋の夜長に居眠りばっかりしてたらストックなくなったです。(´ε`;)ゞ




