可愛らしい、パウリナ・フランセン様。
教室に向かう道すがら。
わたくしの元ライバルであるヒロイン。
『パウリナ・フランセン』様と出会いましたのよ。
伯爵令嬢のパウリナ様は。ちょっとボーイッシュな方です。
肩まであるカールが掛かった薄紅色の髪。
可愛らしいお顔立ちに笑顔が似合う活発な方ですわね。
すらりと伸びた手足に制服が良くお似合いですわ~。
「おはようございます。タチアナ様ごきげんよう」
「おはようございます。パウリナ様ごきげんよう」
『原作再現でパウリナ様と王子様くっついてくれないかな~』
なんてわたくし思いましたの。
それ大層いいんじゃなくって!?
わたくしとパウリナ様との関係は良好の筈ですわ。
前世では好感度を上げていますの。
いきなり話し掛けても多分大丈夫。
「パウリナ様、いきなりで不躾とは思われるでしょうが、ご相談がございますの」
「急なお話ですね。よろしいですよ。お時間と場所はいかがなされますか?」
「お昼休みに中庭でお時間いただいてもよろしいかしら……」
「分りました、では中庭でお待ちしております」
「まことに感謝いたします。よろしくお願いいたします」
「どういたしまして。それでは昼休みに」
「はい」
約束を取り付けましたわ。
~昼休み~
「わたくし、王子様と婚約を解消しようと思っていますの……」
「え? そんな事を私に言っていいんですか!?」
「パウリナ様だからこそ、打ち明けるんです。貴方しかいないんです」
パウリナ様は少し考え込んだ後、キッと眉を凛々しく寄せ。
わたくしを真っ直ぐに見据えました。
わたくし『キュン』といたしましたわ。
「……タチアナ様、理由は何ですか?」
「驚かないでくださいましね。わたくし前世の記憶が目覚めましたの……」
「ぜ、前世?? 生まれ変わりの前世ですか?? い、いや。失礼しました! 続きをお願いします!」
「こんな話信じられないでしょうけど、わたくし前世では国を守る兵士でしたの。
前世の記憶に目覚めた今、わたくしは自分の心に従って生きなければいけません……」
おっさんと言う事は伏せているけど、嘘はついてないよな?
思考からお嬢様言葉が抜け始めている。
ごめんあそばせ。
「タチアナ様にそんな事情が……私は味方します!
お心のままに生きられるよう、協力致します!!」
「――お疑いになりませんの……?」
「ハイ!!」
言葉少なく、真っ直ぐな信頼を寄せるパウリナ様……。
わたくしの目から溢れ出た涙が頬を濡らしました。
……前世では転生者と言う事は押し黙って、
バッドエンドを回避する事だけを考えて生きてきました。
『事情を話せば、理解者を得られたのではないか?』
そんな希望が頭をよぎりました。
でもそれはすでに終わった過去。
「パウリナ様、あ、ありがとう、ございます……」
わたくしはこんな良い人を自分の都合で利用しようなんて……。
薄汚れた自分が心底嫌になりました。
「私はタチアナ様の味方です! なんでも仰って下さい!!」
「う、うううう、ぐうう」
わたくしは泣きました。
泣き顔を晒すのが恥ずかしくて両手で顔を隠しながら。
味方を得た安心感。
そしてパウリナ様が余りにも良い人過ぎて。
そんな人を利用しようとしてた自分が恥ずかしくて。
人目を憚らず泣き声を上げました。
わたくしは溢れる涙を止めることができませんでした。