第8話 旅立ち
「陛下は、身罷られました。」
叫ぶような、泣き声が聞こえる。そして、イドリスさんが声をかけてくる。
「陛下の御遺体お渡し致します。」
「いえ、その必要はありません。丁重に葬ってください。」
「わかりました。ありがとうございます。」
僕は、周囲を見渡す。これで良かったのだろうか?。マックスの頭で考えた事では、これ以上の解決法はなかったであろう。しかし、新たに芽生え始めたマキシの感情が、もっと良い解決法があったのではと、言ってくる。
僕は、イドリスさんに声をかける。
「では、我々はこれで。パナ、残って後の事頼む。エピジュメルと、ポルビッチも残すからよろしく。」
「はい、わかりました。マックス様。」
僕達は、玉座の間から出るために扉に向かう。すると、三姉妹が寄ってくる。僕は振り返る。
「申し訳ありません。こんな事になりまして。もっと良い解決策があったかもしれません。」
「いえ、ありがとうございました。お父様と最期の別れが出来ましたし、お墓を作る事も許可して頂きましたし、本当にありがとうございました。」
「そう言って頂けると、助かります。」
リリアちゃんは、健気に微笑みながら話してくれた。そして、ローズさんも、
「ありがとな。本当に。でも、大公家とマキシには、恨みが残るよ。すまん。こんな事言って。」
「いえ、こちらこそ、申し訳ありませんでした。それに、故郷を離れなくてはいけなくなって、そちらも、申し訳ありません。」
「それは別に、私はレイリンの騎士学校戻るし、リリアも来年から騎士学校入学するし、リコリスも連れて、レイリンに行くよ。」
「そうですか。では、皆さんお元気で。」
僕は、もう会えないかもという考えて、リリアさんに声をかける。
「リリアさん、では、さようなら。」
「いえ、また、どこかで会えると思いますよ。その時はよろしくお願いいたします。」
僕は、玉座の間を出て、廊下を歩き振り返る、手を振ると、三姉妹が手を振ってくれた。帰ろう。お祖父様の所へ。
僕とレオポルド、そしてDr.メックス女史は、兵士をパウロス達に任せて、一足先に帰路についた。
馬で走りながら考える。これからも、いろいろな出会いによって、感情が芽生えるかもしれない。そして、それならば行くべき場所は一つだな。
「レオポルド、僕レイリンの騎士学校に行くよ。」
「はい?。若、本気ですか?。」
「ああ、いろいろな出会いが、僕を変えていくかもしれない。」
「わかりました。では、私もお供を。」
「入れるわけないだろ、レオポルド。一応護衛連れて行かないといけないなら、ランドールと、ハインリヒを連れて行くよ。」
「では、私はどうすれば?。」
「前から考えていたんだけど、自前の騎士団が欲しい。レオポルドその準備しておいて。」
「なるほど、わかりました。今回動かした騎士、魔術師は、マックス様の騎士団のようなものですし、後は…。」
レオポルドが、頭の中で人選に入ったらしい。頑張ってもらおう。
そう言えば、騎士団の名前何にしよう。陽炎騎士団?、純血騎士団?、狂剣騎士団?うーん。無限騎士団。夢幻騎士団、幻夢騎士団。いいな。げんむ騎士団。なんとなく気に入った。
「レオポルド、騎士団の名称は、幻夢騎士団でどうだろう。」
「わかりました。面白いですね。夢、幻ですか。」
「夢幻だと、語呂が悪いから。逆にしただけどね。」
「わかりました。では、そのイメージで、やっていきます。」
「よろしく頼む。」
軌道列車の特等個室の窓を開ける。軌道列車は、魔導技術を使って走る。魔導諸国が開発し、大陸横断列車の開通と共に、技術提供を受け、一路線のみ帝国でも開通させたのだ。西から来る大陸横断列車と逆方向、港町メーアに向かう路線だ。
レイリンに向かうには、途中の街ジョスーで降りて、北へ馬で向かうのが早い。馬は、ジョスーで買うなり、借りるなりしようと思う。
「気をつけて行ってらっしゃい。長期の休みにはできるだけ、帰って来てね。」
「あんまり無茶な事はするなよ。気をつけてな。」
「はい、わかりました。お母様、お父様。」
「若、お気をつけて、ランドール、ハインリヒ、若を頼んだぞ。」
「はい❗。」
「レオポルド、後は頼むぞ。」
「はい、畏まりました。」
お祖父様の許可をもらい、お母様を説得して、レイリンの騎士学校への入学許可を貰った。レイリンの騎士学校は、身分関係なく騎士を育てる為の学校だが、大公家からの莫大な寄付金に、無条件で入学が認められた。いいのかな?。これで。
学費をとらず、寄付や、依頼料で運営されているので、コネ入学枠があり、大丈夫なのだそうだ。僕は、見事バカ殿枠での合格となった。ちなみに、ランドールとハインリヒには、推薦話があって、断ろうとしていたタイミングで、僕の決断だったらしい。騎士学校と言っても、騎士のパートナーとなる魔術師の育成もしており、ハインリヒも入学する。
レイリン、元はトゥルク神聖国の王都があったが、帝国によって攻略された後、トゥルク神聖国の騎士学校がそこに残り、名を変え出身国や身分関係なく、優れた人材を集める騎士学校になった。そして、その騎士学校を中心にレイリンは、自治都市となっている。
「では、ランドール、ハインリヒ行くぞ❗。」
「はい、マックス様。」
軌道列車は、静かに動き出す。
帝国歴344年7月。第1章完。