1.嵐の前
双璧4999年大晦日の夜、16歳の少年ロイは自宅のソファに横たわりながら手元のデバイスを眺めていた。
手元から飛ぶ光の筋は少年の目線の前でスクリーンを形作り、その向こうでは派手なバニーガール姿のお姉さんが道行く人々にマイクを向けている。通りがかった会社帰りの男がミレニアムの胸騒ぎを押さえきれない様子で、興奮ぎみにスクリーンに訴えかけた。
「いや~、奇跡っすよ!ちょうど5000年ですよ、生きててよかったぁ~」
男の周りからも酔った人々の叫びや怒号が歓声となって辺りを賑やかに包んでいた。街全体がライトアップされ、ビル群が反射した光は幻想的な雰囲気を醸し出している。
そんな華やかな風景に目もくれず、少年は目を細めてうつむき、呟く。
「クソみてぇな世界だ」
ロイは金も彼女も持たず、勉強が出来るわけでも運動能力が優れているわけでもない、取り柄のない高校生だった。少なくとも彼はそう思っていた。
紺色の髪に深く蒼い目をした彼は、この世界に対するある種のあきらめ、ただそれだけを瞳に写して16年を生きてきた。
彼の興味を引くものなど何もなかったのだ。
能力がないから、興味を持っても仕方ない、という考えもあった。
そんな憂鬱をぶら下げて、ただ時間を浪費するというのが彼の生き方だった。今までも、そしてたぶんこれからも。
すこし寝るか、、
布団を被ろうとしたその時、野太い声が部家に響き渡った。
「ロイ、帰ったぞ!」
「親父、今日は早いのな」
「ったりめぇよ!なんで大晦日まであくせく働かにゃならん」
そう言うと、抱えた荷物をどっさりと机に置いた。
幼い頃に母を亡くしたロイにとって、父親のウェルドは、唯一の家族だ。
「ロイ、これを見ろ」
「なになに、ミレニアムケーキ、、」
5000を型どったチョコレートがでかでかとケーキに乗っかっている、、。というかケーキよりチョコのほうが大きい、、。
「親父、これ、、」
「駅前で売ってたんだ。流行ってるみたいだぞ」
ったく、この人はすぐに流される。
薄ら笑いを浮かべながら、まぁこういうのも悪くないか、とぼんやり考える。
「ところでお前、学校はちゃんと行ってるのか?」
「冬休みだよ」
「けっ、いいねぇ、学生は」
助かった、サボってるなんざ口が裂けても言えない、、。
ホッとしながらロイはミレニアムケーキを口いっぱいに頬張った。
なんだ、見た目よりもずっとうまいじゃないか、これ、、