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泰皇国立皇統学院記 〜 一年目 秋 〜  作者: 都月 敬
2日目
8/23

夕_食堂1


 第二回会議は、食堂の調理室を借りて行われることとなった。

 各国担当それぞれが検討した商品候補を、この場で試作、試食してみた上で、売り物を絞る。調理に使う器具や、かかる時間、手間なども調査しておく必要があるため、極力本番に近い内容で行うことが重要だ。

 また、一人前に必要な材料の量や価格を確認し、仕入れルートを検討する必要もある。今回は特に、央香国では珍しいものをターゲットとしているため、材料を揃えるのも一苦労だ。食堂にあるものを使ってもいいと言われてはいるが、講義後に追加で材料を買い出す者あり、午後の講義をサボって自宅まで取りに行く者あり。

 かくして、準備は整った。


「では、どなたから行きますか?」


 審査委員長を命じられた碧流が、全員に問いかける。

 碧流が審査委員長となったのは、別に責任者だから、という理由ではなく。

 唯一、候補となる料理を何も用意してこなかったからだった。

 海辺に住む流族にとって、主な食料は当然、海のものだ。流族でお馴染みの海産物は、海から遠い泰陽では仕入れが難しいか、できてもコストがかかりすぎるため屋台には向かない。それどころか、万が一にも食中毒などを出せば、客にも学院にも教団にも、多大な迷惑をかけることになるだろう。

 と、滔々と碧流は語ったが、もちろん、非難は轟々で。

 公平な視点で、責任を持って最終決定を下す審査委員長となることを条件に、何とか罰を免除されたのだった。根に持っているヤツはいるけれど。


「はい!」


 先陣を切って、勢いよく手を挙げたのは、やはり南須国兼孔族担当、紅兎。

 碧流は他の三名に異論がないことを確認し、作業の開始を促す。


「じゃあ、まず最初に、炭を起こします!」


 意気揚々と作業を開始する紅兎。

 それを見守る碧流以下四名。


 食堂の裏口から外に出て、持参した焜炉に炭を入れ。

 その上に細い薪を並べていき。

 火打石を持ち出して、危なっかしい手付きで何度か擦る。


「……炭起こしって、どれくらい時間かかったっけ?」

「炭起こし自体はすぐだけど、落ち着くまではけっこう待たなきゃだね」


 答えながら、なおも火打ち石を打ち付ける紅兎。

 まだまだ炭は起きません。


「――――じゃあ、その間に二番目の方」

「放置かい!」


 さすがに五人で炭の起きる様子を眺めているほどヒマではない。

 炭は紅兎に任せて、次の試食を進めよう。


「じゃあ、私が行くね。簡単だし」


 次に名乗りを上げたのは北厳国担当、紫絡。


「北の料理、ってわけじゃないんだけど、収穫祭らしくて、学院生らしいものを、と思って」


 そう言って取り出したのは、ごく薄く焼いた丸いパンのようなもの。


「これは、今朝焼いてきたんだけど、屋台で焼いてもいいと思う。焼くのはすぐだし」


 次に出てきたのは野菜。こちらは生で食べられるものばかりだ。


「野菜は全部、細切りに」


 なかなか手慣れた手つきで野菜を切っていく紫絡。


「最後に、鶏肉を甘辛ダレで焼いたもの。これはその場で焼いた方がいいかな。注文の前から焼いておけば、時間はかからないし。で、これを薄く切って」


 皮に焦げ目のついた鶏肉を、薄く削ぐように切る。


「で、これを全部、パンで巻いて、食べる」


 パンの中心に野菜を一通り適量乗せ、その上に鶏肉を乗せて。細めの三角形になるようにくるりと巻くと、紫絡は自らぱくりとかぶりついた。


「うん。冷めてても、まぁ、いけるかな。野菜のシャキシャキと鶏肉のジューシーさで勝負。甘辛いから、ツマミにも、ごはんにもなると思うよ」

「巻いて、売るんですか?」


 興味津々で覗いていた雪祈の質問に、紫絡は次のを巻きながら。


「そうだね。注文を受けたら、巻いて渡す感じかな。野菜は切っておけばいいし、巻くだけならすぐだし。はい」


 手渡されたパンをしげしげと眺めてから、雪祈もぱくりと一口。


「へ〜、けっこうさっぱりいけちゃいますね。食べ歩きにも便利だし」

「ずるい!」


 炭起こしが飛んできた。


「はいはい、ちょっと待ちなさいってば」


 手際よくもう一つ巻き上げた紫絡が、ぱっくり開いた紅兎の口に差し込むように食べさせる。

 手も使わずに口だけで、もぐもぐと咀嚼してから、ポツリと一言。


「――――肉じゃない」

「あれ、鶏肉入ってなかった?」

「鶏肉が肉か!」

「肉だわ!」


 全国の鶏と養鶏関係者に謝れ。


「もの足りない。。。」


 ぶつぶつ言いながら、焜炉へと戻る紅兎。


「ったく、肉はあんたの担当でしょうに。はい、青華と、碧流くんも」


 最後に渡されたパンを手づかみでぱくり。


「美味しいですね。採れたての野菜を使えば収穫祭っぽさも出せるし」

「うん。でも、学院生らしさ、というのは?」


 青華に真顔で訊ねられた紫絡は、なぜか少し照れたように。


「なんか、お洒落じゃない? 彩りも綺麗だし」


 確かに、中身は赤、白、緑の野菜と鶏肉で、カラフルではある。

 その回答に、青華は一拍間を置いてから。


「……あ、ああ。お洒落な。」

「わ、わぁ〜。お洒落〜。」

「何よ、雪祈まで!」


 青華と雪祈に二人がかりでお洒落いじりされる紫絡。

 これはなかなか珍しい光景だ。


「で、審査委員長は?」


 若干キレ気味に感想を問われる碧流。もう一度ゆっくりと味わってから。


「美味しいんですけど、最初のコンセプトだった、央香国にないもの、っていうのがあんまり感じられないのが残念ですね。北厳国っぽさを出す工夫とかは、何かないですか?」


 あえてお洒落には触れず、委員長らしい答えを返してみた。


「……一応、持ってはきたんだけどね、北っぽさ」


 痛いところを突かれたという表情で、紫絡はおもむろに別容器を取り出すと。

 取り出した別の肉と、しおれた野菜のようなものを、やっぱり細切りに。

 改めてパンに巻き直すと、また全員に配った。もちろん、見た目は変わらないけれど。


「肉、ではある」

「――――しょっぱい」

「微かなお洒落感が、なんだか懐かしいおばあちゃん色に。。。」

「おばあちゃんって何よ、雪祈!」


 一口食べて。

 不満げながらも食べ進める紅兎。

 口を離した青華。

 そして、中身を見つめて硬直する雪祈。


 豚肉も野菜も塩漬けだった。

 彩りが渋くなった上に、この薄いパンでは受け止めきれない塩っ気が口中に充満する。これは、飲み物なしではつらい。が、ツマミになるかと言われると、微妙。

 自分でも一口食べてみて、紫絡が苦笑混じりに言い訳を重ねた。


「北の食材をいろいろ思い出してはみたんだけど、やっぱりこれになっちゃうのよ。北は冬が長いから、食材を保存しておくために、何でも塩漬けにするの。だから、やってはみたんだけど、ちょっとしょっぱいよね」

「いや、かなり」


 そもそも塩漬けというのは、もっと少しずつ食べるものだったはず。

 しかしパンに巻くことを考えると、ある程度の量がないと様にはならない。なら、一度水洗いして、塩を落として。いや、ダメか、味がぼやける。


 結局、一名を除き、二口目を前にして、パンを睨みつけて固まるという結果に終わってしまい。


「わかったよぅ。そもそも北の食べ物を持ってくるって発想が無理だったんだ。いいよ、次行って、次」


 紫絡はすっかりいじけてしまったが、もう掛ける言葉も見つからなかった。

 仕方がない、次に行こう。


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