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泰皇国立皇統学院記 〜 一年目 秋 〜  作者: 都月 敬
1日目
3/23

昼_廊下


「ずいぶんと、思い切ったよね」


 唐突に、そんな声が掛けられたのは、食堂から午後一の講義へと向かう廊下でのこと。


「え〜と、何の話でしょう、橙琳 (トウリン) さん?」


 蒲星や杏怜と同じく四神と称される橙琳に声を掛けられる機会は、碧流としてもそう多くはない。なにせ相手は、この央香国の丞相の娘だ。緊張こそしなくはなったものの、未だに雲の上の存在という意識は拭い切れていない。ただ橙琳としては、そんなことは気にもならないのか、気にしても仕方ないのか。頻度は少ないながらも、碧流に対してはいつも友好的に話しかけてきてくれた。

 ただ、今日はどれだけ態度が友好的であろうとも、話を聞かずに逃げ出したい気持ちが碧流にはあって。


「収穫祭に屋台を出すんでしょ。自治会で議題になってたよ」

「あ、やっぱり。その話ですか」


 何ともはや、話が早い。

 学院生の本分は学問、奉仕活動とはいえ、客商売などにうつつを抜かしている暇があるのか、とかなんとか、いっそ自治会が叱ってくれれば、この話も立ち消えにできるのだが。


「結論として、学院側からは許可が下りたから」


 ……下りましたか、許可。


「お祭りの運営は嵩泰教の教団がやるから、そっちからも許可をもらう必要はあるけど、その辺は蒲星が上手くやる、って言ってたから、問題ないでしょ」


 ホントにまぁ、話が早いこと。

 無言のまま沈んでいく碧流の顔を、報告を終えた橙琳が覗き込んだ。


「なんで、落ち込んでるのかな。碧流が申請したんだよね?」

「まぁ、そういうことになっているんですけど」


 真相は、友だちに押し付けられて、友だちの罪を償うために、あなたのお友だちに強要されたのですよ。もう苦笑いしか出ない。

 しかし、こういう質問が来るということは、橙琳は紅兎の件は知らないのか。だとすると、あの話は蒲星と杏怜の二人で留めておいてくれているのかもしれない。

 となると、こちらとしても大っぴらにはできないわけだから、屋台なんかやる、表の理由を考えなくちゃいけないのか。


「で、大丈夫なの? 日数、ほとんどないよ」

「……さぁ。僕も、今朝聞かされたもので」


 自治会で挙がった懸念事項も、多くは日程的なものだった。と言っても、蒲星が強く保証してたし、杏怜はにこにこと賛同してたし。黄希は基本的に碧流を信頼してるみたいだから反対しないし、となると橙琳が否定する理由はない。 


「まぁ、自治会としては、学院生の自主性を重んじて、とかなんとかそういうやつで、止める理由も特になかった、ってのが正直なところなんだけど。中途半端なことやられると、やっぱね。学院背負っちゃうわけだし」


 やっぱ背負っちゃいますか、学院。


「私も、本音を言えばさ、ちょっとおもしろそうだし、できれば手伝ってあげたいんだけどね。黄希とかも陰で羨ましがってたし。でもほら、家の都合やら何やらでなにかと忙しくてさ、そうも言ってらんないのよね」


 羨ましいなら代わってあげたいくらいだが、碧流は皇太子にはなれない。

 もう一度、橙琳が碧流の顔を覗き込んだ。


「ね。これって、あれ? 流族の資格が何とやらの、点数稼ぎ?」


 ちょっと声を潜めた橙琳が、ニヤリ顔で訊いてくる。その顔が、近い。お嬢様のはずなのに、この辺りの壁の薄さはどうなのか。誰にでもなのか、友だち認定されてるからなのか、それはわからないが、碧流としては少し戸惑ってしまうお年頃。


「いや、別に、そういうつもりはなかったんですけど。あ、でも考えてみれば、それにも、なるのかな。。。」


 碧流に課せられた使命は、漂着民である流族が泰皇国の他の国と同列に扱われるだけの資格があることを示すこと。それは学識や礼法などの素養もさることながら、他国の公族士族と公式の場で充分に渡り合える振る舞い、も含まれている。

 央香国一のお祭りに学院を背負って屋台を出して、学院生だけでそれを成功させたとなったら。碧流の対人能力の評価も少し上がるかもしれない。


「あ、ちょっとだけ、おもしろそうな顔になった」


 そんな感情の変化を敏感に捉えた橙琳が、悪戯っぽく微笑んで。


「じゃ、がんばって、責任者」


 責任者なんだ、やっぱり。


 結局、橙琳は当たらず障らずといった風で逃げていった。おもしろそうというのは本音としても、やっぱり丞相家の娘として、祭りの屋台なんかにかまけている暇はないのだろう。

 とはいえ、許可が下りてしまったからには仕方ない。


 放課後は、久々の緊急招集と決まった。


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