TEST 0 開幕
市立A中学校三年一組桃山太郎
受験シーズンによく聞くフレーズだ。
みんながみんな似たようなフレーズを耳にするこの時期であるにもかかわらず太郎の所属するクラスでは動物園の猿山のような状態だった。
黒板にチョークで数式を書く女の先生にセクハラまがいの暴言を浴びせる者、クールぶってダーツで遊ぶ者、それを見てキャーキャーとほざく者・・・・・・・・。
紙飛行機が飛び交う天井を見上げてはため息をつく毎日だ。
「桃太郎。おい桃太郎。」
今、太郎の後ろで桃太郎と呼んでいる男子は吉備団子、このクラスの少数派のまじめな奴だった。
授業中に人に話しかけてきているところでまじめではないのかもしれないがこのクラスではノートさえ取っていればとてもまじめに見えるのだ。しかし団子はとても頭がよく、学年ナンバー1の成績を誇る。
しかしまじめすぎると不良にちょっかいを出されてはからかわれる。
ほどほどにすればいいということだ。
「桃太郎。返事しろよ。」
「だから、その桃太郎っていうのやめろ。」
「桃山太郎だから桃太郎、いいだろ。」
「よくない。それにおまえだってきびダンゴ・・・」
「静かにしてください。」
俺の声を遮るように教室に凛とした声が響き渡った。
こんなことを言えば明日からいじめられるのが当たり前だが、例外としてこんな発言をしても許される者がいる。
犬養彩音。学級委員長で成績優秀学年ナンバー2。容姿もよく、誰からも好かれ、一部の男子からは女神とも称されるほどだ。
「でたよ、ワンちゃんの雄叫び。」
いつも、どうしてこいつは犬養より成績がいいのかわからない。二人ともオール5で、テストの点のわずかな差でいつも団子が勝つ。
勝利の女神でもついているのか。敵は女神なのに。
六時間目の授業が終わり、掃除をさぼるために団子と一緒に屋上に向かった。屋上は普通解放しないのだが、鍵がなくなり入れなくなってしまった。しかし、鍵は俺がすぐに見つけた。
そこで、少しの間拝借することにした。入れないから不良も来ない。先生も来ない。実にいいところだ。
そのとき、屋上の前のドアのところで人影があった。
すかさず太郎と団子は身を隠した。
「何か用かな。」
一人は犬養だった。
で、もじもじしてる男のほうが…知らない奴だな。どうやら不良っぽいな。
犬養が女神スマイルでその不良男子を見つめると、不良男子は紅潮してしまった。
「僕と付き合ってください。」
犬養の空気が変わった。
不良なのに一人称が僕って・・・。
犬養は不良男子の恥ずかしさが伝染したのか真っ赤だった。
「ごめん。」
そう言うと犬養は顔をそむけた。
「そっか…そうだよな。」
不良男子はとぼとぼと階段を降りてきた。もちろん太郎たちは見つかった。
「てめえら見てんだよ!ぶっとばすぞ!コラ!」
俺はもじもじしながら告白していたところと今のギャップに笑いそうになった。
必死に笑いをこらえていると
「てめえ!何笑ってんだ!」
まだ笑ってないよ、と思っていると後ろから笑い声がした。
「覚えてろ。」
と、捨て台詞をきれいに吐いて不良男子は階段を降りて行った。
「団子・・・。」
「わ、悪い。」
「あいつ誰だ。」
「3組の迫田君。」
階段に凛とした声が響いた。
「犬養・・・。」
「さ、わかったら帰った帰った。掃除はサボっちゃだめですよ。」
こうして迫田ことザコ田の告白を目撃した俺達は犬養に促されて教室へ戻った。