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幻の皇女は嫁入り前  作者: 朝日菜
第八章 異母姉妹の仇
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第一話 亜人キョウダイ

聖五せいご五鈴いすずのところに行って、ここの守りを固めさせて! 八灼ややは僕と一緒に来て!」


 僕は二人に指示を出し、運ばれていく七星ななせを目で追うキョウダイに役割を与える。聖五は瞬時に動き出し、八灼も僕についてきた。


 これでいい。そうでしょ? 二輝にき兄様。


 僕はまだこの場にいない二輝兄様のことを思い、八灼を引き連れて全力で走った。


四都しとにいさま! 一体どこへ?!」


「外だよ! 七星を襲った奴らを全員捕まえてやる! 八灼は空から奴らを追って! 僕は下から痕跡を辿ってみる!」


「わかったわ、四都にいさま!」 


 八灼は力強く頷いて、息を吸い込んだ。メリメリメリ、とこの世のものとは思えない骨の変形音がする。すぐに先行する僕を影で覆ったのは、全長十メートルの巨大な竜と化した八灼だった。

 僕たちキョウダイが持つ白髪なんてものは最早なく、全身を金色の鱗で覆われた八灼は低い唸り声を上げる。僕たちの中で最強かもしれない八灼でさえ六七りなよりも小さいのだから、六七の劣等感もこれを見るとわからなくはなかった。


「行って!」


 声をかけ、羽ばたく八灼から離れて七星を狙ったと思われる場所に来る。宮中の方に視線を向けると、七星が襲われた場所がよく見えた。

 なのに、おかしい。ここであるのは間違いないのに、足跡さえ見当たらない。四都に馴染み深い木々も、薙ぎ倒された痕跡さえ見当たらなかった。


「……ねぇ、教えて。ここに誰がいたの?」


 木々の精霊に語りかける。辺りに白い光の粒が浮かび上がり、彼らは僕の質問に丁寧に答えてくれた。


「……わかった。助かったよ、ありがとう」


 こういう時、エルフの血が混じっていて良かったと思う。けれど、六七には六七なりの劣等感があるように、僕には僕なりの劣等感があった。やっぱり、他のキョウダイたちみたいに半分か四半だったら良かったのにという気持ちは拭えない。それでも僕は前を向いて、異母妹を襲った奴らを恨んだ。

 七星は、出来損ないの僕と大差ない容姿をしている数少ない子だった。なんの亜人かもわからない、一覇いちは兄様も二輝兄様も答えられない不思議な子――。そんな彼女だったから、僕は夢で見た時もう一度会いたいと心から思った。満彦みつひこの言うことを信じるのなら、彼女は人間との間に生まれたキョウダイ最弱の子だったのに。僕が、僕たちが守らなくちゃいけない子だったのに。


「ッ!」


 走った。精霊の言葉を聞いて森の中を容易に駆け抜け、道に飛び出して馬の蹄を間近で見た。


「うわっ!」


 正面へと飛び、転がって木にぶつかる。


「いっ……たぁ〜……」


 頭を摩って起き上がった。痛いけれど、僕は頑丈な戦闘民族の四半でもある。顔を上げ、僕を蹴りそうになった馬を見――


「大丈夫? 四都」


「みっ……三雲みくも兄様?!」


 ――僕のたった三人しかいない異母兄の一人、三雲兄様を視認した。


「帰ってきたの三雲兄様!」


 日本狼の半獣人の混血である三雲兄様は、半獣人という種族が確立した彼らとまったく同じ容姿をしている僕らの切り込み隊長だ。

 そんな上半身裸の三雲兄様が馬に跨って大軍を引き連れている様はあまりにも現実離れしているけれど、三雲兄様はそんなこと気にしていない。ただちょっぴり繊細だが、戦闘にはまったく支障をきたしていない僕の憧れの兄様だ。


「あぁ。これで俺が担当していた国の侵略はすべて終わった」


 三雲兄様は淡々と述べ、顎を引く。


「えっ本当?! すっご……じゃなくて三雲兄様! 宮中が大変なんだ、力を貸して!」


「力を?」


「七星が襲われた……あぁ、七星っていうのは僕らの異母妹のあの七星なんだけど! 今七星を襲った奴を僕と八灼で追ってて……とりあえず一緒に来て!」


「四都、話が少々突飛すぎてわからないのだが……」


 僕は困惑する三雲兄様に「いいから!」と勢いで理解させ、彼を馬から引きずり落とす。


「君たちは宮中に戻ってて! 大丈夫だと思うけど気をつけること! 三雲兄様をちょっと借りるよ!」


 一気に捲し立て、僕は三雲兄様と共に森の中を走った。馬に乗った方よりも、僕たちが走った方が早い。戦闘民族の四半で良かった、僕たちは風のように駆けて空を飛ぶ八灼に追いつく。


「八灼! 見つかった?!」


 八灼は首を左右に振り、三雲兄様に気づいて嬉しそうに尾を上げた。


「四都、目的地はある?」


「今精霊に聞いている! さっきはこっちって言ってたんだけど……」


「なるほどな。しかし、八灼と四都が能力を駆使してすぐに見つからないのなら、相手は並の相手ではないということだ」


「…………魔女、とか?」


 五繰いくと五鈴はそうだった。けれど、三雲兄様は否定した。


「いや、忍者である可能性が高い」


「忍者?」


「魔女なら襲われた瞬間に五鈴がなんとかしているはずだ。それに、魔法で襲われたなら二人はこうして追ってないだろう。痕跡を残さない相手は忍者……しかもここまで来ると降魔ごうまの一族である可能性が高い」


「降魔……」


 聞いたことがある。確か、十年くらい前に滅ぼした国にそんな一族がいたはずだ。


「だが、降魔は所詮ただの人間。引き続き精霊に聞いて考えよう」


 僕は頷き、立ち止まって精霊を呼び出した。森の中にいる限り、僕は自分の力を最大限に発揮できる。森は僕の体の一部と言っても過言ではない。


「……じゃあ、もういないんだね?」


 確認し、把握。僕は三雲兄様を見上げて頷いた。


「近くの村に逃げ込んだって」


「宮中付近の村はどこも発展している。すれ違っても商人か何かだと思って気づかないだろうな」


「……それに、人目があると八灼は偵察に行けないよね」


「だが、二輝兄様ならそこにいる」


 振り返ると、コウモリが木に留まっていた。ただのコウモリじゃないと思うのは、二輝兄様と同じ赤目をしているから。


「二輝兄様! 聞いてたの?!」


『当然です。三雲、四都。一覇兄様が救ってくださったので無事なのですが、望三のぞみ様も襲われました。相手は志麻しまです。彼女も降魔の生き残りなのでしょうね……ただ今実四みよし様と聖五が志麻と交戦しています』


「ッ! 望三も?!」


「降魔……。二輝兄様、俺と八灼は村に入れません。偵察と四都の援護をお願いします」


 三雲兄様は僕の肩に手を置いた。そんな……そう思ったけれど、ひと目で亜人とわかる三雲兄様と八灼が村人に与える恐怖と、彼らが二人に与える酷い扱いを考えるとそれは妥当だ。

 望三の仇は望三の異母兄妹が。七星の仇は七星の異母兄妹が討つ。それを決意して先行するコウモリを目で追った。


「四都。俺は八灼を回収して他を探る。後は任せた」


「うん。ありがとう、三雲兄様」


 僕も走る。二輝兄様に追いつくように。

 三雲兄様と分かれて僕が向かった村は、いつものように平和だった。ずっと森の中から眺めていたから知っている。ここは人口が多いが皇帝のお膝元だ。犯罪発生率も低く、皆身を守る術を知らない。こんなところに忍び込んだ奴らを僕は見つけることなんてできるのだろうか。


 歩き、人々からの嫌悪の視線を一身に受ける。戻ってきたコウモリを指に止まらせ、二輝兄様の声を静かに聞いた。


『この人混みの中から見つけることは困難ですよ、四都』


「人を隠すなら人混みの中ってことだよね、二輝兄様」


 やられた。もっと早くに駆けつけていたら、森の中でどうにかすることができたのに。


『えぇ。しかし、貴方ならできるのではありませんか?』


「え?」


『ここは森の中ではありませんが、精霊はいるはずです』


「……そっか」


 僕は正面を向き、僕を避ける彼らが作った道を堂々と歩く。視線が僕に突き刺さった。それでも構わない。だって、僕は白髪赤目の〝亜人キョウダイ〟たちに誇りを持っているから。


「……ねぇ、教えて。君たちの体を通った奴らは、どこにいるの」


 瞑目し、植わっている木や、道端の花、流れる水の精霊に僕は触れる。

 彼らが見ていた景色が僕の中に流れ込んできた。二輝兄様がコウモリから情報を得るように、僕も精霊を介して世界を見る。


「……ありがとう」


 コウモリが飛び去った。僕は拳を数度握り締め、足に力を込めて大きく飛び上がる。六七の体長よりも大きく飛び上がった僕は、呆然と僕を見上げる村民ではなく――七星を弓で射った男を着地点として飛び下りた。

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