第2章~俺の買った奴隷が「仕事はできるがちょっと世話焼き過ぎるタイプ」だった件について(あんまり悪い気はしないけど)その3
登場人物
マサユキ
王族にも繋がる貴族の家の末息子
妾腹で末子ということもあり、継承権はなく、その代わり特に縛りもなく自由な身分
現在は家を出て、与えられた資産を元に交易商の仕事をしている
頭は切れるが性格は大らかでのんびりなところがある
貴族の家暮らしよりも、現在の気ままな生活が気に入っている
エミリア
エルフ王国の中級貴族の娘
貴族の子女の義務として、士官として軍務に就き、捕虜となった
それをマサユキが奴隷として買い取り、屋敷にやって来る
エミリアの料理の腕は昨日のサンドイッチも美味しかったが、間近で見ると手際もテキパキとしていて。
食材の買い出しに20分ほど出ていた時間も含め、本当に小一時間でパパッと用意してしまった。
それも、なるべく俺の好みに合わせたものを、素晴らしく美味で。
「ごちそうさま。美味かったよ、エミリア」
「本当ですか! よかった……」
そう言って、嬉しそうに笑顔を見せるエミリア。
とは言っても……単に仕事を褒められたからって、こんなに嬉しそうに笑うなんて、ちょっと大げさな気がするなぁ。
まあ、そんなことはいいや。
早いとこ身体を洗って、さっさと寝よう。
明日も早いからな。
「じゃあエミリア、俺は先に風呂に入らせてもらって、そのままさっさと寝るから。エミリアも明日は早いから、早めに休みなさい」
「はい、私もささっと片付けを済ませたらそうさせてもらいますね」
「うん、じゃあ」
そう言って、俺は部屋に備え付けの浴室へ。
そこは……。
「おお……これはすごい」
浴室と言うよりは浴場。
宿の側を流れる川に面した、ちょっとした露天風呂だった。
身体を洗って、ゆっくり湯に浸かり、今日の旅の疲れを癒す。
明日は大事な商談の最初の一件目。
しっかりやらなきゃな。
湯に濡れた手でパンパンと顔を叩いて、気合いを入れたその時。
「ご主人様……失礼いたします……」
これは……エミリアの声。
「ん? どうした? 何かあったか?」
すると、浴場の扉が開いて。
「失礼いたします……」
裸にタオル一枚巻いただけの姿のエミリアが現れる。
「ちょっ! エミリア!?」
びっくりしすぎてちょっと変な声になってしまった。
「おまえ、なにやってんの!」
「あ、あの……お背中など、お流しして差し上げたいと……」
「いや、それはダメでしょ!」
「どうしてでしょうか? ご主人様は私のことがお気に召しませんか?」」
いや、だからさ……その、泣きそうな顔でそんなこと言うのは反則でしょ。
だけど、さすがに今回は流されないぞ!
「そういうことじゃなくて、年頃の娘が男に不用意にそんなことをしてはいけません、ってことだよ! 取り返しの付かないことになることだって、あるんだ」
「それは……あの、ご主人様が私を襲うということ……なのでしょうか?」
「そんなことしたくないけどね。だけど、こうして見るだけでも目のやり場に困るくらい、君は綺麗だ。だから、俺の理性がどこまで持つか、保証できない。だから、悪いことは言わないから、やめておきなさい」
「で、では、お背中だけ流させて下さい! そうしたら、すぐに出ますから……。ご主人様には本当に感謝しているので……私、なんでもお世話させて欲しいのです」
エミリアもなんとか食い下がってくるけど、さすがにそれがきっかけでエミリアにひどいことをするようなことにはなっちゃいけない。
「気持ちはちゃんと伝わっているし、俺が考えていた以上に頑張ってくれているのも知っている。だから、十分だ。その気持ちは俺は高く買っているから、今は部屋に戻っていなさい。俺が出たら、エミリアもゆっくりと湯に浸かって今日の疲れを癒すといい」
「あ、はい……」
すこししょげたようなエミリアの声。
肩を落としてそっと、部屋に戻っていくエミリアの背中に。
「エミリア、今日一日、お疲れ! これからも頼むよ」
すると、エミリアはこちらを振り返って。
「はいっ! お任せ下さい!」
そう、笑顔で応える。
元気を取り戻した笑顔だった。
ふう、なんとか変に傷つけなくて済んだか……。
優秀な軍の部隊指揮官だったとはいえ、やっぱり年頃の乙女なんだよなぁ……。
あの年頃の女の子のむき出しの好意を向けられる……ってシチュエーションに、やっぱり男は弱いんだなぁ……。
そんなことを改めて実感したというか。
なんかこんなん、俺、10代のガキみたいな反応じゃねーか。
エミリアを迎え入れてからこっち、ちょっとペースが乱されっぱなしだなぁ。
はぁ……。
次回投稿は8/3(金)12:00予定。
朝、商談前のひととき。
几帳面でキッチリしているエミリアにも、歳相応なところが垣間見える。