第1章~俺の屋敷に奴隷がやって来た件について その2
マサユキ
王族にも繋がる貴族の家の末息子
妾腹で末子ということもあり、継承権はなく、その代わり特に縛りもなく自由な身分
現在は家を出て、与えられた資産を元に交易商の仕事をしている
頭は切れるが性格は大らかでのんびりなところがある
貴族の家暮らしよりも、現在の気ままな生活が気に入っている
エミリア
エルフ王国の中級貴族の娘
貴族の子女の義務として、士官として軍務に就き、捕虜となった
それをマサユキが奴隷として買い取り、屋敷にやって来る
実際問題、猫の手も借りたい状態な今の状況、面談終わると同時に即座に一緒に仕事を始める。
まずは棚卸しから。
明日からしばらく商談旅行で館を空けるし、その前に手持ちの商品状況を確認しておく必要があるし、エミリアにうちがどんなものを扱う商売をしているのかを把握してもらうには最適の作業だ。
作業中の倉庫に入ると、エミリアが鼻をひくひくと利かせる。
「良い香りがしますね……これは……お茶…でしょうか?」
「ああ。うちの主力商品だ。今はエルフ王国からの入荷は途絶えているから、東方の諸侯連邦からの銘柄がほとんどだな」
手近な箱を一つ引っ張り出して、蓋を開ける。
「エミリア、きみは茶は好きか?」
「大好きです!」
「じゃあ、多少の目利きはできるかな?」
「少しは……お仕事の助けになるかどうかは分かりませんが」
「ははは……美味い不味いが分かればいいんだよ」
そう言いながら、中の袋を開けて、手の上に少し中身を取り出して、エミリアの目の前に持ってくる。
「この茶葉、どう思う?」
「すごくふわりと柔らかい香りが強いですね。茶葉も大きいですし、いいお茶だと思います。結構良い値段が付くのでしょう?」
「まあ、そう睨んで俺も仕入れてきたんだけどな。ただ、まだこれはこっちで市場に出る前の新種なんだ。少し前に売り込みがあってね、今回初めて仕入れたんだ」
「そうだったのですね……」
「少し持って帰ろう。そこの瓶取って」
「はい。これでしょうか」
「ああ。これに、少しお茶っ葉を取って、後で部屋に戻ったら試飲してみよう。せっかくだから、エミリアに今回の茶の売り出しを担当してもらおう」
「どのようにすればよろしいのでしょう?」
「難しいことはない。どんな味か、お客さんに伝わるように紹介する文句を考えるとか、そういう感じだ。オススメの飲み方があれば、それも提案してくれたらいいと思う」
「わかりました。やってみます」
エミリアは素直に頷く。
茶葉を瓶に少し取って封をし、箱を戻して、次の倉庫の棚卸し作業も確認しに行く。
「ご主人様、こちらはまた別の品物の倉庫でしょうか?」
「そうだよ」
エミリアを連れて中に入る直前に、エミリアはすぐさまここにあるものが分かったようだ。
「ここは武器弾薬の類の倉庫でしょうか」
「軍人だから、硝煙の匂いがしたら一発か」
「はい、まあ……」
「東方の武器はまだこちらでは生産されていないような独特なものが多くて、最近結構需要が出てきてるんだ。特に、士官クラスの個人用のね。きみは東方剣は扱ったことはあるかい?」
「いえ。私はもっぱらサーベル使いですので……」
「そうか。ちょっと持ってみるか? ほら」
手近にあった一振りの刀を渡す。
「重いですね……刀身もこんなに反っていて……この重さで片刃なのですか……サーベルと同じように片手で扱うのは腕力が要りそうです。私だと手に余りますね」
「だが、刃を見てみるといい。良い刃をしてるぞ」
そう言われて、エミリアは鞘から少し刀身を抜き出してみる。
「すごい、美しいですし、何よりこれは切れそうです……」
刀身の美しさと刃の鋭さを見て、感嘆の声を上げた。
「これと同等の切れ味の剣は、こちらの技術ではまだ登場していないからな。剣技自慢の士官たちがこぞって買い求めていく」
「分かる気がしますが……しかし、見たところ、同じようなものを作れないとも思えませんが」
「実際、コピーを作ってはみたのさ。ところが、実際に作って試し切りしてみたら、切れ味は落ちるし、刃こぼれもホンモノよりもずっと多い、折れやすいと散々だったんだ。どうやら、基本的な鉄の質が違うらしい」
「では……」
「今のところは、輸入に頼る外ないということだ。だからこそ、品薄で値段も高止まりで、利ザヤも大きいということでもある」
「なるほど……」
そこまで話した辺りで、ちょうど棚卸しの実務作業中の使用人たちのところに到着。
現時点での作業状況と確認ができている在庫の状況を担当チーフと書類を見ながら確認する。
その間、周囲の作業員たちは怪しむような視線でエミリアをチラチラ見ている。
うちのメイド服を着てはいるが、耳を見れば一目瞭然、彼女がエルフ種族であることが明白だからだろう。
担当チーフもさすがにその状況に目を瞑るわけにもいかないと感じたようで。
「旦那。よろしいんですか? あの娘……ここを見せてしまっても」
「ああ、いいんだ」
「よろしいんですね? ……オイ、おまえら、キョロキョロしてねぇで、仕事に集中せんかい!」
「「へ、へいっ!」」
チーフの一喝で気もそぞろだった作業員たちが再び作業に集中し始める。
「よし、エミリア。戻ろうか。さっきのお茶でも飲んでみよう」
「はい」
一通り棚卸し作業も要所はチェックしたので、あとは夕方に届く報告書を見ればいいだろう。
現場の担当の生の状況報告も聞いたことだし。
次回投稿は7/22(日)12:00予定。
エミリアと仕事中のティータイム。
エミリアに振る初仕事は……。