第7章~素知らぬ顔で奴隷を策に使ったら、なぜか本人に感謝されてしまった件について その2
登場人物
マサユキ
王族にも繋がる貴族の家の末息子
妾腹で末子ということもあり、継承権はなく、その代わり特に縛りもなく自由な身分
現在は家を出て、与えられた資産を元に交易商の仕事をしている
頭は切れるが性格は大らかでのんびりなところがある
貴族の家暮らしよりも、現在の気ままな生活が気に入っている
エミリア
エルフ王国の中級貴族の娘
貴族の子女の義務として、士官として軍務に就き、捕虜となった
それをマサユキが奴隷として買い取り、屋敷にやって来る
秘書役から身の回りの世話まで、なんでも喜んで献身的にこなす娘
「今日、もしかして……私の後を誰か尾行させていませんでしたか?」
「ん? なんだ、バレてたのか……」
「申し訳ありません。疑うような物言いをして……。ただ、誰かが尾けてきている気配はなんとなく……」
さすがにあれだけ有能な指揮官だったエミリアだけに、尾行も誤魔化しきれなかったようだ。
「まあ、なんだかんだ、この辺もあちこち危ないところがあるんでな。こっちに移されてから日も浅いのに一人で出かけるっていうし……」
まあ、言ってることに嘘はない。
……嘘はな。
「あの……ご主人様……?」
エミリアが泣きそうな顔をしてる。
「おい、どうした? 泣きそうな顔して」
「ご主人様は、気が付いているんですよね? 今日、私が出かけた理由……」
「ん? ん~……まあなー……」
嘘を言ってもしょうがないので、素直に認める。
「あ、あの……どのような処罰も覚悟しております……」
「ん? なんだ? 処罰って……」
「私は、本国に先日の出張で見たことを全部報告しました……。機密情報を漏らしたのですから、当然……」
「だよな。そうだよ。その為に見せた」
「…………え?」
「エルフ王国の士官は捕虜になっても可能な限り、その場で拾える情報を拾って、本国に通報する義務があるんだよな。知ってるよ。俺達はそれを逆用したんだ」
「私もその可能性については、もしかしたら……とは思いましたが……。やはり、逆用されていましたか……」
エミリアは大きく溜息を吐いた。
「いずれにせよ、処刑……ですよね? 覚悟はできております……どうぞ、官憲に引き渡すなりなんなり、なさってください」
「どうしてそんなことをする必要がある?」
「ご主人様は私達を暖かく処遇して下さったのに、私はそれを裏切ったのですよ? 当然ではないのですか?」
「こっちはそれを分かった上で、わざと見せて逆用したんだから、おあいこだよ。だから、俺はそんな必要感じてないな。それより……」
「はい……」
「本国にはなんて報告したんだ?」
「え?」
「俺がエミリアだったら、アレが本格的に配備されたらヤバい、早いとこ戦争やめちまえ……って、報告するけどな」
「概ね、そんなところです……。まして、私の国は、国境部を越えれば平坦な土地柄ですから、砲兵の布陣する場所には困りませんからね。防ぐのは至難の業です」
「そうか……。そう言えばそうだったな……」
「このまま戦争を続ければ、我が国に勝ち目はもうほとんどありません。私も、早く戦争を終わらせる局面にあると考えています……」
「エミリアもやはりそう思ったか」
「すべて、ご主人様にはお見通しだったのですね」
「まあ、今回に限ってはそうかもな。それで……だ」
「はい」
覚悟したような顔で、エミリアは俺の次の言葉を待つ。
「今後は俺に隠れて、こそこそやらなくていいぞ」
一瞬、エミリアはきょとんとした顔をする。
「なんて顔してんだ。俺からおまえに言うべきことはそれだけだ。エミリアのことは、メイドとして頼りにしてるからな、これからもしっかり頼む」
そう告げると、エミリアは慌てて俺に尋ねる。
「それは、処罰はしない……ということですか? それでよろしいのですか!」
「よろしいも何も、こっちだって知ってて利用してんだし、おまえが早期戦争終結に意見が傾いているのなら、こっちだってそう報告してもらった方が、いろいろと得なんだよ。利害が一致してる以上、罰する理由なんてものがどこにある」
「お、お許し頂けるのですか……」
「だから、許すも何もないんだって。おまえは今は捕虜で奴隷の身とはいえ、士官として課せられた義務を果たしただけ。こっちは、それを分かってて、こちらの思惑に適うから利用しただけだ。裏切られたなんて、とんでもない。利用してんのはこっちの方だ」
「ご主人様……」
「あ、それと。黙ってても今更無意味だから言っとくが、今後も尾行は付ける。主任務はおまえの護衛だ。あの辺、結構危ないからな。それから、なにか費用が必要になったら、請求は俺の所に持ってこい。出してやる」
「ですが……今後、この国に不利な報告をするかもしれません。それでも……ですか?」
「まあ、通報されて困りそうな情報は、せいぜいエミリアの目には入らないようにするさ。うっかりなんかで目に入ってしまったらしょうがないな」
「そんなことまでして、よろしいんですか……?」
半ば呆れたような顔になって、エミリアは俺に尋ねる。
「もし、まかり間違って戦況がひっくり返るようなことにでもなれば、そんときゃエミリアは自由の身、俺は捕虜になるか、殺されるか……ま、なるようにしかならん」
「ご主人様、その時は、私がご主人様をこの身に代えてもお守り致します」
「よせよせ、そんな危ないこと。そんなことしたら、おまえも俺と一緒に殺されかねんし、そこまでしてもらうような恩義を施した覚えもないしな」
「恩義がなければ守ってはいけませんか?」
「そういうわけじゃないが……おまえも随分変わったヤツだな」
「そうでしょうか……」
エミリアは、すごくがっかりした顔をして俯いてしまう。
俺の何がそんなにいいんだろうな……。
「いずれにせよ、今後は本国への連絡は隠れてやらなくて良い。わかったな」
「はい、承知しました」
「話はそれだけか?」
「はい」
「よし、じゃあ、お茶、もう一杯頼む」
「はい。お茶菓子は何かご入り用ですか?」
「それもエミリアのオススメのやつをくれ」
「かしこまりました!」
エミリアにお勧めを頼んだら、なんか機嫌が直ったようで、いそいそと足取りも軽くキッチンの方へ向かっていった。
うん、ダメだ、俺には女の行動原理ってもんがやっぱイマイチわからん……。
次回投稿予定は8/24(金)12:00予定。
いつもよく働いてくれるエミリアに、何か気の利いたものでも買ってあげようと思ったマサユキ。
欲しいものは何かと尋ねる彼に、エミリアが求めたものは……。




