第4章~人使いの基本は信頼していることを示すことだという件について その2
登場人物
マサユキ
王族にも繋がる貴族の家の末息子
妾腹で末子ということもあり、継承権はなく、その代わり特に縛りもなく自由な身分
現在は家を出て、与えられた資産を元に交易商の仕事をしている
頭は切れるが性格は大らかでのんびりなところがある
貴族の家暮らしよりも、現在の気ままな生活が気に入っている
エミリア
エルフ王国の中級貴族の娘
貴族の子女の義務として、士官として軍務に就き、捕虜となった
それをマサユキが奴隷として買い取り、屋敷にやって来る
几帳面でキッチリとした性格と細やかな気遣いで、秘書役や生活管理を懸命にこなす
エミリアと一緒に昼食を済ませてから、いよいよ次の移動。
今度は目的地まで3日ほどかかる道のり。
レドの所属する師団が展開する現地に、午前中に受領した大砲を納品し、試射に立ち会うついでに、その他の軍需品についても情報交換をする予定である。
その間、馬車の中で二人っきりで過ごす時間がたっぷりあって、オマケに最初の移動日のように、移動中に商談の前準備をするというような差し迫ったやるべきことも多くはなかったから、エミリアとじっくりお互いの個人的なことを話す時間があった。
この旅の行程で、エミリアは終始ご機嫌な感じで、話が弾むことこの上なく。
俺のことをなんでも身を乗り出すようにして聞きたがるエミリアは、相槌も話の続きをどんどんせがむみたいな感じで。
あんまり食いつきがいいものだから、俺も其処まで話すつもりじゃなかったところまで話してしまったりとか。
その一つ一つを、エミリアは楽しそうに聞いてくれる。
年頃の若い娘がこんなおっさんの自分語りを面白がって聞いてくれるとはねぇ……。
何がそんなに気に入ったのか。
悪い気はしないけどね。
3日の行程の3日目、午後。
予定よりもやや順調に師団司令部に到着し、直ちに運んだ大砲を納品。
検品を済ませてから、俺はエミリアを伴って師団長へ挨拶に向かう。
「おお、マサユキ君。ご苦労だったね。おや、そっちは……」
師団長室を訪れた俺達をにこやかに迎えた師団長。
傍らにいるエミリアに気付く。
「君はあのコヨーテ部隊の指揮官だったな。君たちのあの凄まじい戦いぶりにはほとほと手を焼かされたよ……」
「は、恐れ入ります……」
俺の下で仕えているこの数日間、ここまで硬い受け答えをするエミリアは初めてだ。
まあ、ここは軍の施設、しかも、相手はついこの間まで戦っていた敵将だ。
そうなってしまうのも仕方のないことかもしれない。
「ご存知かもしれませんが、今は私の秘書として働いてもらっています」
「ああ、君が生き残った彼女たちを丸抱えした話は聞いてるよ。結構値が張っただろう」
その一言に、エミリアが驚いて。
「そうなのですか?」
「ん~……まあ、それなりには……ってくらいかな。人数もいたしね~」
「も……申し訳ございません……」
「いいんだ。それを支払っても得がたい人材を手に入れられたからな」
「ありがとうございます……」
「うむうむ。そうだろうなぁ……。ワシも軍人でなければ、買い取って側に置きたかったがの」
俺の言葉に師団長も頷く。
「それよりも、明日の試射ですが……」
「うむ。聞いておる。見て行かれるが良い」
「ありがとうございます」
その後、封筒に入った見学許可の書類を受け取って、俺達は師団から宛がわれた、来客用の宿所に移動した。
そこでもやっぱり俺とエミリアは同室だった。
案内の兵隊に尋ねると、逆にきょとんとした顔をして。
「身の回りの世話をするメイドなのですから、ご一緒なのが当然なのではないのですか? それに……」
と、ちょっと口ごもる感じでその先を濁した。
……ああ、そういうことか。
だから、最初の町の宿屋でも、当然のように同質にしたわけだ。
まあ、今となっては特にエミリアと一緒で居心地が悪いわけでもないし、むしろ一緒にいて落ち着く感じがするし、いつでも側にエミリアがいてくれる分、何か頼みたいことがあればいつでも頼めるわけで。
特に不都合はないか。
そんなわけで、荷物を部屋に置いて、腰を落ち着けたところで。
「エミリア、今日もご苦労さん。明日は朝から今日納入した大砲の試射に立ち会うからな。エミリアも一緒に来なさい」
そう声をかける。
「はい、お供致します。試射場の前までお送りすればよろしいですね?」
「ん? 何を言ってるんだ。おまえも一緒に見て行くんだ」
「え、でも……」
「エミリア、おまえは俺の秘書なんだ。俺の行くところ、エミリアありだ。それに、商品の出入りの管理事務はこれからおまえの担当になるんだからな」
「ですが……敵国の士官だった者を入れるとも思いませんが……」
「だが、俺は自分と搬入に関わった技師チームの棟梁とエミリアの名前で見学許可の申請をして、滞りなく通ってるんだがな」
先程渡された許可証をエミリアに見せる。
そこには、許可された者のリストに、エミリアの名もある。
「それとも、何か、エミリアに見せると、後で問題になるようなことでも起こるのか?」
その質問に、エミリアは一瞬、視線が宙を泳ぐ。
「あ、いえ、そんなことは……」
「どのみちおまえは戦争が終わるまでは国には帰れないし、自国と連絡が取れる状況でもないだろう。今のおまえに見せたところで、別段、問題は起こらないと思うがね」
「あ、はい……そうですね……」
エミリアの言葉の歯切れがすこぶる悪い。
「それに、俺はエミリアを信用しているからな」
「ご主人様……」
一瞬、エミリアは何か言いたげな顔をするが。
それを飲み込むようにして、笑顔を作り直し。
「わかりました! ご主人様、今日はお疲れでしょう? 先に湯でも浴びてらっしゃって下さいませ。その間に、夕食の方ご用意しておりますので!」
「ああ、そうさせてもらうよ。今日はちょっと道中暑かったし、服も着替えたいからな」
「わかりました! お着替えは入浴されている間にお出ししておきますね」
「ああ、よろしく」
そう言って、俺は風呂場へと向かう。
さて、明日に備えて今夜はゆっくり過ごすとしようか。
次回投稿は8/12(日)12:00の予定。
納品した大砲の試射に立ち会うマサユキ。
エミリアもマサユキに付き添い、その様子を見つめる。
その横顔に、エミリアの軍の指揮官としての一面を垣間見るマサユキ。




