王都へⅤ
能力についての考察が始まります。
タイトル中の「王都」の漢字が変わりそうだった日の翌日、胃酸が撒かれた野営地から足早に出発した。
「いやー、昨日は死ぬかと思ったぜ・・・」
「うん・・・正直オークより強敵だったかも・・・。あ、でもあれオーク肉か」
「ハルト、悪いことは言わない、もうやめておけ。」
馬車の中で、ハルトは散々に文句を言われた。
しかし、腑に落ちなかった。
ハルトにとっては、とても美味しかった。
感動のあまり唐突に食レポを始めるくらいには。
「あれ、美味しくなかったのか?」
「「「当たり前!!」」」
馬車に揺られながら、ハルトは一つの仮説を立てた。
調理の腕や味覚、嗜好までも反転したのではないかという説だ。
ニートであったハルトは自分と両親の口に合うものを作ればよかったため、自分の好みになる味付けをしていた。
反転は、絶対値がそのままで符号が反転するということだろう。するとどうだろう。絶対値が同じなため自分の調理は自分好みの味となるが、実際にはマイナスのとんでもない料理ということになる。
状況と酷似していた。少なくとも、7人中6人をノックアウトしたのだ。
(これは厄介だな・・・。
いやまてよ?宿屋の料理はそこそこ、いや、THE普通って感じだったような・・・。)
0の符号を入れ替えても0である。
―――
2日目は特に問題もなく終わった。むしろ、初日が濃厚過ぎたのだろう。
3食ともにパンと干し肉に水であった。
残念そうなハルトと、どこか安心したような6人がいた。
夕食を食べながら、ハルトはオレインに質問することにした。
馬車の中で魔法について色々聞いたのだが、当の本人は才能に恵まれていたため、なんとなくで魔法が使えてしまうそうだ。その結果、彼女の答えはほとんど参考にならなかったのだ。
なので、別の方法でアプローチすることにした。
「なあ、魔力ってなんなんだ?」
「うーん、精霊さんに聞いてもらえる力かなあ」
「精霊ってのは目に見えるのか?」
「見えないよ!でも魔法を使う時に手助けしてくれるの!」
「オレインは精霊に好かれてる、ってことか?」
「どうなんだろう?でも、そうだといいなあ!」
オレインはキラキラしたようで儚げな瞳で空を仰いた。
そんなオレインに少し見惚れていたが、我に返ったハルトは核心となる質問をした。
「逆に精霊に嫌われてるやつっているのか?」
ハルトの考えはこうだった。
料理の一件で、かなり多様なものが反転していることがわかった。
プラスがマイナスに、マイナスがプラスに。男から女にされ、男に戻ったり。
このような純粋な反転もあったが、中には力のように弱が強になるような反転もみられた。
つまり、もしも魔力という概念、オレインの言うところの精霊に聞いてもらえる力、精霊からの好感度といったものにマイナスがない場合、もともと0だったハルトの魔力はとんでもないことになっているのではないか、ということだった。勿論、あった場合は0であるのだが。
さらに、好感度にマイナスがない場合、以前ハルトの予想した「魔法の発動に精霊は関係ないのではないか」という説を強力に裏付けるものとなる。
いくら精霊とはいえ、嫌いな人くらいはいるだろう。
「うーん、聞いたことないなぁ。
きっと優しい子たちなんだよ!」
そういってハルトに笑いかける。
引きこもりニート彼女いない暦年齢チェリーボーイチキンな役満男は、心臓を高鳴らせずにはいられなかった。
(落ち着け、落ち着け!!平常心、平常心・・・)
「どうしたの?顔赤いよ?」
そういって額を合わせようとしてきたオレインから逃げ出し、足早に寝床へ潜り込んだ。