王都へⅠ
いよいよ冒険が始まります。
が、まだ町から出ません。
翌日、ハルトは考え事をしていた。
(なんでファントムボアを殴れたんだ?)
プロリンから聞いた、『ファントムボアに物理攻撃は効かない』という事実。明らかに、ハルトの経験とは異なっている。
「ま、考えても仕方ない。暇だしギルドにでも行くか!」
ニート宣言をしたハルトであったが、手元にはゲームもマンガもないことに気づき、仕方なく外へ出ることにした。
ギルドへ着くと、背の高い白髪の老人がいた。
「あ、ハルトさんこんにちは!今日も討伐ですか?」
「いや、暇だったから来ただけだ。」
少し残念そうなプロリンと、驚いた様子の老人。
「あ、まだ紹介していませんでしたね。この方はペプトの町長、ロイス町長です。」
プロリンがそう紹介すると、町長はシルクハットを軽く上げ会釈した。
「ファントムボアを倒した者がおると聞いてな。いやはや、感謝してもしきれませんな!」
長い眉毛と髭により表情はよくわからないが、喜んでいる様子のロイス町長。
「いやー、それほどでも・・・」
褒められ慣れないハルトは、照れくさそうであった。
「そんな腕の立ちそうなハルト君に頼みたいことがあってな・・・。王都グロブまで護衛をしてほしいんじゃよ。報酬は弾むぞ?」
徒歩か馬車、騎馬くらいしか移動手段のないこの世界では、移動中に魔物や盗賊に襲われる危険性が高い。
「でも、町長って言ってみれば町の要人だろ?素性のわからん俺でいいのか?」
「実は今回は私用でな、町の護衛を着かせるわけにもいかんのじゃ。ただでさえ町の護衛がムーングリズリーにやられて大損害を受けておる中、わしの私用のために手薄になった町を盗賊に襲われたらたまったもんではない。
そこに君が現れたというわけじゃ。ファントムボアを倒したんじゃろう、実力は確かとみた!」
町長の言うことはもっともであった。
(しかしあのクマ、結構強かったんだな・・・。)
「事情は分かったんだが、王都までどれくらいかかるんだ?」
「馬車で行くから、4日くらいの旅になるのう」
「よ、4日もか?その間はずっと野宿で、しかも見張りで寝れないとかないよな・・・?」
ニートにとって、これは死活問題である。4日間護衛する。つまり96時間労働だ。
「それは心配いらんよ。他にも腕の立つ冒険者を3人雇っておる。」
「さ、3人・・・」
ニートでコミュ障であったハルトにとって、3人の冒険者といきなり仕事をすることは、ハードルが高かった。
しかし、コミュニケーション能力も反転されたことに気づいてはいない様子である。
現にプロリンやロイス町長と問題なく会話している。
辞退しようとしたその時、後ろから3人の冒険者が戸を開けた。
「うっす!」
「こんにちは。」
「こんにちはー!」
三者三葉の挨拶をして入ってきたのは、いかにも戦士と言った風貌の槍と大楯を持った男と、大人しそうであるが凛々しい目をした剣士風の男、杖を持ち、絵に描いたような魔女の恰好をした女であった。
3人とも10代後半から20代前半に見える。
「彼らが今回の護衛じゃ。パラディンのアルギ、剣士のスレイン、魔法使いのオレインじゃ。
たまたま通りかかったそうじゃが、彼らは相当な腕利きでな。王都でも名が通っておるほどじゃ」
町長が3人に説明を終えると、アルギが声をかけてきた。
「あんたがハルトか?見たところ武器をもってねえようだが・・・。なんかの武術家か?」
「いえ、市民ですけど・・・」
アルギの威圧感で敬語になったハルトと、訝し気にハルトを見る3人。
町長にもため口だったハルトであるが、こういう時はやはりチキンらしい。
「あー・・・なんだ、町長の依頼だ、文句を言う気はねえ。だが、勝手に死なれると気分が悪りいからな、気を付けろよ」
ギルドから出ていくアルギと、ため息をつき後を追うスレイン。
「別に悪気があるわけじゃないの。気にしないでね!」
オレインはハルトに声をかけると、スレインの後を追っていった。
「彼らは君の実力を知らんのじゃ。気にせんでよいじゃろう。」
フォローを入れる町長は、そのままギルドで何かの手続きをした。
「よし、手続きは終わったのう。では、明日から頼むぞ、ハルト君!」
「え、まだ俺は何も・・・」
「良いではないか、旅は大勢の方が楽しいもんじゃ」
どうやら、勝手に登録されたらしい。
王族や町長などの要人の依頼は、その依頼人が指名できる制度がある。ロイス町長はそれを使ったようだ。
「ええっと・・・が、頑張ってくださいね!」
プロリンが、少々申し訳なさげに言ってきた。
「お、おう・・・」
げんなりとした様子のハルトであった。
登場人物が増えてきましたので、一度簡単にまとめます。
また増えてき次第まとめていきます。
・ハルト(古河春斗)
現世から転生してきた異世界人。ニート。チキン。(自称)市民。
転生時に女神を怒らせ、とんでもない能力を手にしてしまう。全貌は不明。
・女神セレスティア
世界を司る女神であり、不幸にも若くして亡くなった人々を転生させる役割を持つ。
古河春斗の前世に恋焦がれており、それを引きずっている。
本人は自覚していないが、次世を追いかけるレベルのストーカー気質である。
・プロリン
ギルドの受付嬢。
紫色の美しい髪と綺麗な肌を持ち、人当たりの良さから人気が高い。
・ロイス町長
ペプトの町長であり、ギルド兼役場の統括役。
長い眉毛と髭を持ち、白髪で背の高い風貌で、なんとなく偉そうな雰囲気を持っている。
・アルギ(アルギーニ・グアジル)
パラディン。若いころから冒険者として生きており、その腕は王都でも有名なほど。
その体格から怖がられることが多いが、半ばあきらめている。
・スレイン(スレイン・トレオール)
剣士。片手で扱う小型の剣を携え、高速の斬撃を得意とする。
その剣の腕や凛々しい目つき・穏やかな雰囲気で、女性からの人気も高い。
・オレイン(オレイン・オリーブ)
魔法使い。攻撃魔法が得意であり、回復魔法は素人レベル。
元気が取り柄であり、パーティーのムードメーカー的な位置である。